第27話  新年会 1 即席の大喜利

 何ともいい大人がみっともない。中身はすっからかんなのによくもまあ。それでお前さん達、いったいどれだけ話せるって言うんだい。調子にのってるんじゃぁないよ馬と鹿の皆さん達よ。

口の悪い人だったらこれ位のことは言いかねません。しかしわが東谷落語研究会の皆は、誰一人としてそのようなことを言われたことがありません。東谷の町の人達はみな人間が出来ておられるのでしょうか。心が広いとでもいうのでしょうか。それとも、こんなあほな集団には関わりのないことにござんす、なのでありましょうか。



  本当に、ろくに噺も出来ないくせして噺家気取りのノー天気軍団。その頂点が馬さんでありまして、師匠師匠と呼ばれてその気になっているのですからお笑いでしょう? で、そんなさめたようなことを言うてめぇはどうなんだい、と言われれば、それが又その上を行くお馬鹿さんな私でありまして、ほんと、面目ないったらありゃぁしない。


 で、どう面目ねぇんだいってですか? へい、それがでありますが・・実は我らお気楽軍団が着物を揃えて余りにも喜んでおりますよって、ここはひとつ、皆を東谷周辺に留まらず広く世に知らしめてあげたいものよと、ま、馬鹿な母心のようなものがむくむくと沸き上がりまして、新聞の投稿欄にちょいと投稿しましたら取り上げて頂いた、という次第でして。それも二度ですからありがたいですよねえ。



 いつぞやご紹介致しました五合さん。この投稿を見て入会したのでありますが、即座に着物を注文致しまして、この新年会に間に合わせたのであります。この年の新年会は全員が揃って着物姿で出席することになっておりましたから、色取り取りで誠に華やかでありました。

 

 やっと念願が叶って「豪華絢爛!」と皆が感涙にむせんでおりましたら、榎木さんは「そうか淫乱!」などと申して喜んでおりますが・・はい、放っておきましょう。その榎木さんはライオンズクラブの総会からの帰りだとかで、着物ではなくクラブの制服姿で合流致しました。


 いつもの榎木さんからは想像もつかないりりしげな姿に、やはり馬子にも衣装としみじみ感じ入りました私が

「うわぁ榎ちゃん今日は立派ね。まるで違う人みたいで、とてもエロちゃんなんて呼べないわぁ」

 とひやかしますと、師匠が横から口を出して

「紺の制服って得だよなあ。濃紺ってえ色はどんな奴でも立派に見せてくれるものだからなあ」

 と、褒めたのか、それともけなしたのか、もちのろん(勿論の意)OOOOのでしょうね。



 会場の座敷の奥の席でこちらを見ながら、笑って飲んでいる数人の人達は、榎木さんのライオンズクラブの先輩達でありました。彼等に向かって師匠が例によって大声で挨拶致しました。

「あのぉ、榎ちゃんにいつもお願いしてるんですが、お座敷がかかるのはいつ頃になりましょうか」


「いやいや、いつでもいいけど、中身がまだだって噂もあるよ。出来るのかい、何か」


「何をおっしゃるんですかアータ。このなり見て下さいな。立派なもんでしょ。」

「これじゃあ鈴本だって末広だって十分騙せますよ」


「噺やらなきゃね」


「またまたご冗談を。じゃ、こうしましょう。ここでなぞかけの一つもやって、手前どもの勉強の成果を見て貰う、ってえのはどうでしょう。お題を出して貰って・・」


「それじゃあ、ライオンズクラブってのは、どう」


「えー、お客様にお題を頂戴致しました。ライオンズクラブとかけて。ハイ、広原さん。えっ?うそぉ。え、本当に?もう出来ちゃったの。いいの、大丈夫?」

  

 師匠はほんの冗談のつもりで言っただけなのに、言葉の最後まで言いきらないうちに、もう広原さんが手をあげたものですからびっくりしまして。


「まかして下さい。早いのが取り得のアッシですから。ライオンズクラブとかけて、産婦人科の待合室ととく」


「そのこころは」


「太っ腹の人が多いでしょう」


「いいねえ。なかなか上手いじゃないの」

 ライオンズクラブは太っ腹、と煽てられては気分がいい。因みにこれは私の作でして、何処へ出かけても使おうと決めてあるネタなのであります。

 

「いえなに。軽いもんですよ」


「他にない。ハイ鍋さん」


「ええっと、ライオンズクラブとかけて、キノコととく」


「そのこころは」


「ほうし」

 ほうし(奉仕)とだけぶっきらぼうに言うので、でしゃばりな私がうまい答え方を教えようとして「鍋さん」と言いかけると、師匠はすぐに私の言いたいことを察知して


「鍋さんねえ、そういう時は、ほうしとだけ言わないで、勿体ぶってさ、えー、どちらもほうしに関係があります、とか言ったらどうだろうねえ」


 と言うと、なるほどと全員が頷きました。私も手を挙げると、師匠はお前もやるのかと言いたそうな顔をします。


「ライオンズクラブとかけて、我が落語研究会ととく。そのこころは、どちらも皆さんに喜んでいただく事を目的として頑張っています」


「まだまだだな。ハイ榎ちゃんどうぞ」


「ライオンズクラブとかけて、おもちゃ屋の前でダダをこねてる子供とときます」


「そのこころは」

「ほーしぃ、ほーしぃと一生懸命です」

 


 ライオンズクラブが奉仕団体である事から皆、奉仕と言う言葉にこだわっております。榎木さんが「ほーしぃ」を連呼したので弦巻さんも思いついたらしいですよ、大丈夫かなぁ。


「オッ、弦巻さん。いいの出来たかい」

 師匠に指されると、得意げにひとつ咳払いをして、


「ライオンズクラブとかけて、夜光るものととく」

 

「そのこころは」

「星」

 


  星、と一言答えたとたん、全員白けてしまって

「ふん、どうせ君はそんなものだと思っとったがね」

 と鬼頭さんが大いに馬鹿にして言いました。


「それでは鬼頭さんに、お手本となるようなものを一つ、お願いしましょうか」

 と師匠が言うと、鬼頭さんは眉間に皺を寄せて


「今、吟味している所なんだよ。僕はねえ、いつも作品を発表する前には、しっかり考えてしまう癖があるんだよ。」

「時事川柳なんかもね、世の中を皮肉ってやって、折角いい句が浮かんだと思っても、よぉく考えてる内に時期がずれてしまって、全く時事にはならん時があるんだよ」


「ジジが駄目ならババでもいいけど」

 と言った弦巻さんに、グイッと鋭いニラミを入れると、


「訳の分かんない奴ほど余計な事を言いたがる。無駄口はきくもんじゃぁないよ、墓穴を掘るよ。と言っても君くらいの頭じゃぁ、フン、どうせ墓穴をバケツとか言いたがるのは分かっとるよ。」


「ライオンズクラブでしょ。ライオンズクラブね。これはいい団体だからね、それに見合った最高のものを考え付いたんだよ。君達なんかが思い付かないようなスゴイのをね。」


「だけど今のその下らない駄洒落で、みなさいすっかり忘れてしまったじゃないか、本当に。だから僕は嫌いなんだよ君が。えーっと、思い出しますからね。僕は作品にはいつも自信があるんだよ。で、今よく練り上げますからね・・」

 と言って、すっかり考え込んでしまいました。



 「ねえ、本当に呼んで下さいね先輩。俺達いろんな所で呼んで貰えるようにって練習してんですから。因みに消防団の総会の時なんかも、行きたいなぁって思ってるんですよ」

 と師匠が言うと


「じゃぁ消防団とかけてやってみてよ、出来るのかな」

 

 その問いかけに即座に浦辺さんが、

「消防団とかけて」

 と、大きな声で言ったので、師匠は又とても驚いて、


「浦辺さん早いじゃないの、いいの、出来てんの答え。えっええーっ、見栄張ってんじゃないのぉ」


「大丈夫。このなり見て下さい。私、もういっぱしの噺家ですから」


 今日の新年会の席でいきなり会員以外の人から、題を出されて答える事など考えていなかったので、心配して師匠が聞いたのでありました。


「消防団とかけて、別れ話でもめている男女とときます」


「そのこころは」


「燃え上がった炎を消すのに、一生懸命になります」


「おお、いいねえ」と師匠はほっとしたように言いました。すぐに続けて


「消防団とかけてビフィズス菌ととく。そのこころは、町内(腸内)で活躍します」

 と私が言いますと、ちょっとへんに間が空き、それから続いて大埜さんが手を挙げました。


「受験生の夜食とときます」

「そのこころは」

「消火 (化)に一番気を使います」

 皆の精一杯の答えにライオンズクラブの先輩達も笑いながら、少しは考えておこうと言いました。




 

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