童貞魔法使いで苦肉のハーレム天国

文月生二

第1話 童貞転生

 僕は終電を逃さないと走っていた。終電を逃したら、自腹タクシーになるからだ。その途中スマートウォッチにメールが届いた。

 『穂村薫ほむらかおる様は年齢に対して、経験・能力不足の為、お見送りさせていただきます。今後のご活躍をお祈り申し上げます』

 今回、職歴書を送った企業からの返信であった。


「また不採用のメールか。まあ確かに39歳になってプログラマー経験しか無い人材は、企業側としてはいらないか」

 39歳といえば、婚活もシビアであった。結婚相談所の人から言われたのは、

「39歳でこの年収だと結婚相手を見つけるのは難しいと思います」

 まず女性は男性を検索するときに、年収でフィルターをかけるそうだ。つまり結婚相談所で婚活している女性にとって僕はいないと同義であった。


 そんなことを考えつつ、駅に急いだ。

 青信号が点滅していることに気が付いたため、僕は走って信号を渡りはじめた。

 そこへ左折した車が勢いよく突進してきたが、避ける暇はなかった。

 僕はそのままはねられてしまった。

 最後の思ったのは、「結婚も出来ずに死んでしまうのか。しかも『童貞』だぞ」であった。


 目を覚ますと不思議な空間に、僕は浮かんでいた。

「たしか僕は車にはねられたはずだが……」

 女神のイメージがぴったり合っていた、1人の女性が目の前に現れた。


「そうです。穂村薫さん。あなたは1度死にました。しかし、想定外の死でした。いつもの薫さんでしたら、信号で1度止まり、左折した車をやり過ごすはずです。ですので、今回は1度だけチャンスを与えることになりました。それが異世界へ転生できる権利です」

「なるほど僕は異世界へ行くのですか。元の世界に戻ることはできないのですか」

「身体がばらばらになってしまったのです。戻る身体がありません。今は魂だけの存在です。私の管理している世界なのでそこなら身体も何とか準備することができます」


「ちなみに女神さまは、なんて呼んだら良いのですか」

「私のことはノルンと呼んでください」

 ノルンか。運命の女神の名前だな。澄んだ声が心地よかった。


「異世界へ行くのは構いません。どうせろくな人生でも無かったし。ブラック企業で死ぬまで働かされて、結婚も出来ずに終わる人生なんて。ちなみに僕には何か目的が課せられるのでしょうか?」

「何をしてもらっても構いません。勇者になって魔王を討伐してもいいですし、へき地でスローライフを送っても構いません」

 どうやら自由に過ごせる異世界へ転生できるらしい。現世でやり残したことも実現できるだろうか。


「もちろんチート能力はもらえるのですよね」

「薫さまは『魔法使い』として転生してもらいます。からだは十代後半まで若返らせます。ただし精神年齢は39才で、『童貞』のままです」


「なるほど。『童貞』を強調するんだ。異世界での『魔法使い』の立ち位置はどうなのかな」

「アザレアでは、『魔法使い』はめったにいません。魔法は唯1無2の能力として重宝されるでしょう。そのため、薫さんの行動次第では国を支配できる可能性もありますし、有名になればハーレムも作り放題でしょう」

「それだけ『魔法使い』が貴重なんですね」

「そうです。大切な事なので2度言いますが、『童貞』が『魔法使い』として転生します。その意味を考えてくださいね」

 そこで僕の意識は無くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る