第5話 修行開始
「つ――たまえ」
ん?先生の声?あ、もう朝か。起きないと。
沈んでいた意識が先生の声で浮上する。起きたばっかで瞼がまだ重く、開けようとするが昨日の疲れもあるのか、なかなか開ける事が出来ない。
「さっさと起きたまえよ」
そうしていると痺れを切らしたような声がしたとほぼ同時、背中にあったベットの感触が消え、体が落下し、先生の横に落ち背中を打つ。その衝撃で寝ぼけていた体が目覚め、体を起こす。
「やっと起きたね。さっさと下に降りてくれたまえよ。朝食後に修行を始めるつもりだからね」
「……はい」
先生が部屋から出たのを見送った後、ベットを整え居間へ降りる。
朝っぱらかキツイな。いや、俺が起きなかったのが悪いのだろうけど、もう少し起こし方を工夫してほしかった。ベットからあんな風に落とされるのは始めてだ。
心の中で悪態をつきながら扉を開けると、猜疑さんと先生はすでに朝食を食べ終えたようで、先生が皿を片付けていた。先生は、居間に入ってきた俺に気づき、皿をさっさと片付けると話かけてきた。
「ちゃっちゃと朝食済ませてくれたまえ。修行を始めたいから皿は流しに置いといてくれればいいからさ。じゃあ、私は外で待ってるとするよ」
そういって、玄関から外に出る音が聞こえてきた。
さっさと朝食を済ませよう。早く強くなるためにも今は時間が欲しい。とはいえ、体をおろそかにする訳にもいかない。ちゃんと食べないとな。
手早く朝食を済ませ、皿を流しに置き、先生の元に向かう。玄関の扉を開けると、昨日にはなかった大量の黒い杭のようなものが円を描くように打ち込まれていた。その中心で先生は待っていた。先生の手招きに従い円の中に入る時、膜のようなものを通ったような感覚を覚えた。
「先生、これは?」
「これは、君を強くするために色々と見極めないといけなくてね。その見極めの際に家を壊れてしまったら困るだろう?だからこうして外に影響が出にくいようにしているのさ。ま、私がいる時点で問題なんて万に1つも起きないけど念には念を入れて損はないって話だよ」
ただの見極めじゃここまで警戒をしなくてもいいはず。と、なると今からするのは
先生は咳払いをして胸を張り、話始める。
「コホンッ!というわけで今から募君には、フェイルノートを使ってもらうにあたって、この私が懇切丁寧に説明してしんぜよう」
「お願いします!」
「いい返事だ!では、能力の詳しい説明は省くいて、能力の使い方を教えるから実践してもらう。能力自体は、一度やり方を覚えてしまえば比較的簡単に扱える。問題となるのは最初。良いかい、能力を引き出すためには、募が最も思い出す事も憚られる記憶、感情を引き出す必要がある」
記憶と感情……。俺の場合、昨日のあれか。
「その感情や記憶は、能力者となっている以上どれだけ抑え込もうがそこに存在し、消える事はない。仮にどんなにうまく押し込めても、欠片は表層に残る。それを今から拾い上げる。最悪ここら一帯が吹っ飛ぶ事になりかねないが、そこは安心してくれたまえ」
これ実は昨日の俺、危なかったのか?下手にあそこで感情が抑え聞かなかったら最悪あの辺ぶっ飛んでたのか……。
「じゃあ、本題。やり方は単純、募が思い出しやすい体勢で集中。募の最も憚られる記憶と当時の感情を思い出し、研ぎ澄ませ、自分を満たす。後は思うがまま、自分を包むすべてを捻じ曲げる以上。後は実践あるのみさ。私は円の外にいるから存分にやってくれたまえよ」
先生が円の外に出たのを確認して、地面に座り感情を込み、先生が説明してくれた内容を整理をする。
もう少しましな説明があったと思うけど、今はそのことについて気にしてもしょうがないな。まずは集中、その後昨日の記憶と感情を呼び起こす。
まあ、言葉だけ並べても訳がわからないな。やってみるしかないか。
なにも分からないまま、言われたように意識を研ぎ澄ます。次第に音が消える。肌に触れる服の感覚や空気の感覚も次第に薄れていった。
何もない場所に沈むような感覚が身を包むようになってきていた。どこでもなく、どちらでもないそういった感覚。ある種、隔絶された世界。この中で昨日の記憶を呼び覚ます。
昨日初めて感じた死の感覚、恐怖、裏切り、排斥、怒り。それらが俺から滲み出るかのようにして世界を染める。
滲み出たそれらは、様々な形をとり、俺を包み込む。正しく、俺が昨日までいた村の姿だ。つい昨日の事なのに懐かしく感じてしまう光景。そこに生きる人々も笑顔を浮かべ俺たちと生きていた。
けれど、それは幻だった。化け物が襲ってきて、あいつらは、化け物を呼んだなんて証拠もない事をいって責め立てて、俺たちを取り残して逃げた。
俺たちへ向けられた罵詈雑言。お前達が、お前達が、と証拠もなく叫ぶばかり。何で責められないといけないのか。何で両親は死なないといけなかったのか。分からない。理解できない。
【それは、お前達が化け物と同じだからだ!】
誰がそれを言ったのか。本当に俺たちは化け物と同じなのか?
【そうさ!お前達が化け物だから化け物を村に呼んだのさ!】
俺たちが化け物を呼んでしまったのか?証拠何てないのに。
【そんなの必要ないわ!あんた達は化け物なんだから化け物を呼ぶに決まってるじゃない!】
そんな訳ない!俺たちは人間だ!思い込んで俺たちを殺そうした!ふざけるな!こんな事で殺されてたまるか!なんで、なんで能力者というだけで殺されなければいけないんだ!
『ねぇ君はこれを許せるの?』
許せるわけがない。こんな些細な確証もない理由で殺された!全員黙れ!俺は怪物じゃない!俺たちは化け物じゃない!
『じゃあ、殺してしまえばいいじゃない』
殺したらそれこそ、化け物の証明になってしまう。だからなんだ。あいつらは、俺たちを殺そうとしたんだ。殺してしかるべきなんだ。それじゃあなんで父さんたちは俺にあんな事を言ったんだよ。
誰が悪いんだ。誰が悪なんだ?!誰を裁けば!誰に復讐すればいい?!俺は、誰を!
『全員、裁けばいいじゃない』
黙れ!!
俺の周りを囲むようにあったそれらを振り払おうとし、自分の体ではない何かを振るった。
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