義理の妹を好きになってしまったことを隣の席のシスコンに相談してみたら。
渡貫とゐち
義理の妹を好きになってしまったんだけど……
「――というわけなんだけど、どうすりゃいいと思う?」
「は? 席に座って一番になにを言い出すかと思えば、まだお前はなにも言ってねえだろう。というわけなんだけど? どういうわけだ事情を説明しろ。悩み相談をしたいなら中身を伏せるにしてももっと情報を渡せ。じゃないと答えの出しようがないだろうが」
隣の席のシスコンには遊び心というものがないな。
もうちょっと付き合ってくれてもいいだろうに。
しかしいつでも真剣なのは彼の良いところと言えるだろう。それが玉に瑕でもあるのだが……長所は短所を兼ねてしまうのか。
使い方はきっと合っていないが、行き当たりばったりだぜ。
「で、お前の顔に『相談したいことがある』と書いてあるけど、なんの用だ?」
「義理の妹ができた、って前に話したよな。覚えてるだろ?」
「ああ覚えてる。今もお前に言われる前から俺は想像がついていた……、この俺に相談を持ち掛けるくらいなのだから十中八九は妹のことだろうとな」
「いや、賢いんだから別のことで相談することもあると思うけど……」
本人が気にしているほどシスコンキャラひとつではない。
確かに、シスコンというイメージが強いことは否定できないが、彼はそれだけではないのだ。
それだけの人間が、果たして世の中にどれだけいるのかって話でもあるが。
「――義理の妹。つまりは赤の他人ってことだな」
「嫌な言い方するよな……まあそうなんだけど。赤の他人。青の知り合い、緑の身内だ」
「そして老いていけばシルバーに。……っておい。テキトーに喋んな。なんだ青の知り合いって。赤の他人だから? そういう連鎖はしないだろ」
「なら緑の身内にも触れてくれよ」
と、くだらない雑談に花を咲かせてあっという間に枯れていく。
なかなか本題に入らないのはいつものことだし、内容がちょっと……な、ものなので、踏み込みづらいために雑談でエンジンをかけているとも言えた。
……おれの度胸がないばかりに……。
「ところで、もう一ヵ月程度か? 義理の妹とはどうだ? 打ち解けたか? 仲良くなれたか? それともお前が妹のことを好きになったのか?」
ばっちりと言い当ててくる。
もう怖いよ、この人。
「…………シスコンじゃないからこそ、引かれるんじゃないかって思うんだよな……」
兄妹とは言え赤の他人。
赤の他人であれば、兄妹とは言え、好意はそのまま、妹ではなく「女」へ向けるものだ。実の妹相手だったら、まだ可愛い感情だったのに……。義理だからこそ生々しさが出てきてしまう。
罪悪感だった。
なんでおれは、義理の妹のことを好きになってしまったのだろう……。
「そんなの義理だからじゃん。義理の妹って存在は、好きになってくれと言っているようなものだと思うぞ」
「たぶん違うぞ? 共感しにくいなあ……」
「共感はそりゃ難しいだろうな。そもそも義理の妹を持つことができる男が少ないし。珍しいだろ、義理の妹って。親の再婚、相手の連れ子。確か、お前の妹は同い年なんだっけ?」
「早生まれだから……誕生日はほとんど一年違うな」
だけど同い年である。
同い年。そこもまた、好意を持った理由のひとつと言えるのかもしれない。
「義理の妹を好きになっちまったんだが、告白してもいいと思うか……?」
「いいか悪いかで言えば、いいと思うけど……ああ、良い、じゃないぞ? してもいい……間違ったことではないって意味だ。告白することを推奨するわけじゃない。お前の気持ち次第なんだから、好きなら告白すればいいじゃん。簡単な話だろ?」
「告白が簡単にできれば苦労しないよ」
「なに悩んでんだよ。感情に従って素直に気持ちを叫べばいいんだよ。朝礼の時に屋上から叫んでみれば? それとも俺がお前を、叫ばないといけない状況へ追い込んでやろうか?」
やめろ。
やってみろよ、と言ったが最後、マジで叫ばされるだろうからなあ……。
こいつを甘く見ていると嘘みたいなことが実現していく。これがシスコンの行動力か。
「世間体を気にして遠慮してんじゃねえよ。義理の妹を好きになっちゃいけねえって法律はねえんだから、好きに『好き』になっていいんだよ。誰も咎めたりしねえって」
「妹が、怒るかもしれないし……」
「怒られるって? ご褒美じゃねえか」
ダメだ、そう言えばこいつはシスコンなのだった。
相談するには適任だが、同時に最も相談してはいけない相手とも言える……。
長所は短所を兼ねてしまうのだ。
「まあ、まだ義理なだけマシだと思うけどな。こっちは腹違いの妹だ。なまじ血が繋がってるからなあ……、世間体が気になると言えば俺の方だよ」
母親が違う兄妹。
父親が同じで――――こいつも、複雑な環境の中にいるのだ。
そしておれと同じように妹が好きだ。だけど腹違いなら、その好意はやっぱり兄として妹を見る時の好意だろ? おれとは違う。
おれは義理の妹を、女と見てしまっているのだから。
「俺だって妹のことは女として見てるけどな」
「威張ることじゃないだろう」
妹が嫌がっている中で強行突破をしているなら責められるべきだが、彼の場合は妹の方も満更でもないのだ。
彼は世間体を気にすると言っていたが、本当に? 実はなんとも思ってないだろ。
「嘘でもねえよ、やっぱり気になるもんだって」
「本当かよ……」
「あれに比べたらなあ……」
と、視線の先。
教室で唯一の双子であり兄と妹。れっきとした血の繋がった兄妹である。
ふたりは白昼堂々と、濃厚なキスをしていた。
そして実の兄妹でありながら恋人同士であることを公言している。
噂では既にあんなことやこんなことをしてしまっているらしい……。
実の兄妹が一番、世間体を気にしていなかった。完全にふたりだけの世界だ。
まるでふたりが、溶け合ってしまったかのように見えている。
羨ましい……、と思いかけたが、冷静になる。
いつも、引き込まれる寸前で突き放されるのだ。
……だいぶ生々しい接触だしなあ。
中性的な似た顔でイチャイチャしないでくれよ。
「周りのことなんか眼中にないってことかな……じゃないとここまで堂々とできないだろ」
「つまりそういうことなんだろうな」
「……?」
つまり。
そういうこと。
……どういうこと?
「義理の妹のことを好きになってしまったけどどうすればいいのか。周りの目を気にして自分の感情や衝動を後回しにしている時点で、夢中じゃねえってことだ。その程度の好意なら、確かになにも言わない方がいいかもな」
周りが見えないほどに夢中になれば、おれはおのずと告白しているだろうから――こうしてうだうだと言っている時点で、そこまで好きじゃないのだと、彼は言うのだ。
違う!
おれは妹のことがちゃんと好きだ――間違いなく!!
「じゃあさっさと告白してこい」
「え、でもさ……」
「それとも本当に屋上から叫ばせてやろうか? なあ?」
それだけは避けたかったので、すぐに妹へメッセージを送る。
――夜、大事な話があるから聞いてくれるか? と。
そして夜。
おれは義理の妹の部屋を訪ね、告白した。
あなたが好きなんです、と打ち明けた。
妹は言った。
「……仕方ありませんね、別居しますか」
「え、」
「妹にそんな気持ちを抱くのはダメですよ、お兄さん。ギルティです。私たちは義理でも兄妹なのですから。……周りの人たちになにを言われたのか知りませんけど、兄の好意を受け入れる妹ばかりじゃないんですよ?」
もしかしたら、彼女の周りにも、兄が妹へ好意へ寄せるケースがあったのかもしれない。
おれが知るケースと一致している可能性だって……。
ともかく、兄の告白は、妹による、とのことだ。
喜ぶかどうかなんてのはケースバイケース。
言うならば、ケース
……妹って、やっぱり難しい。
・・・了・・・
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