第10話 妹への感情

「ふっはははははっ。我が血族にして肉親であるお兄ちゃんよ。今宵は良い月であるな。どうだ我と共に、この異国より運ばれし魂の解放で戯れようではないか! さぁ準備のほどはできたかな?」

「…………久しぶりに聞いたな、朱莉の中二病セリフ」


 俺はいきなり部屋に乱入してきた朱莉に対して、驚くことは一切なくそして脇に抱えているゲーム機と右手に持っている海外向けFPSソフトである『ソウルリバース-魂の嗚咽おえつ-』を尻目に普通の対応をしてやった。


「ちょ、ちょっとちょっとお兄ちゃん。ここはワタシに合わせてキャラセリフを口にするところじゃないのっ!?」


 どうやら俺の素の反応が気に食わない様子の妹様。


「いや、いきなりノックもせずに入ってきたから少し面食らったっつうか、よくこのホテルにゲーム機なんて持ってこれたな。それにそれって前から朱莉が欲しがってた新型の機種だよな?」

「ああ、コレ? これはそのぉ~っ……あっははははっ」


 どうやらその所在というか、ゲーム機についてを詳しく聞かれるとマズイらしい。それは朱莉の表情と誤魔化すためのわざとらしい笑い声からもみて取れる。それに抱えているゲーム機はウチにはなかったはずの新型のハードなので、大方みやびさんあたりに頼んで調達してもらったんだと思う。


 実際問題、漫画やゲームと言えども国民の感心するものを知るためとして政治活動費などの名目で必要経費として落とせる、などと事前にみやびさんから説明があった。つまりそれらも国民の税金であり且つ合法的に遊ぶことができるということになるわけだった。


 これは何も朱莉が首相という国のトップだから特別な配慮というわけではなく、議員ならば大義名分さえあればそのほとんどの物が経費として落とせるようになっていた。


「べ、別にーっ。これくらいいいでしょ。それにお兄ちゃんも随分ご無沙汰だったんじゃにゃいかな~っ。にっしししっ」

「はぁーっ。ケーブルやコントローラーの類はちゃんと揃ってるのか?」

「お兄ちゃん、やる気になったんだね♪ はい、コレ。コントローラー2個に配線ケーブルをどうぞ♪」


 朱莉は拗ねたように口を尖らせながらも、明るい笑顔になって付属品であるケーブルとコントローラーを寄越してきた。俺は観念すると息抜きの名目でゲームをしてやることにした。でなければ朱莉は不機嫌となり、明日の公務に支障が出てしまうからと考えたのだ。


「あくまで、あくまでも息抜きだからな。いつも家でしているように数日徹夜でゲームなんてしないって約束するなら、って条件付きならゲームに付きやってもいいぞ」

「もちろんちゃ~んと分かってるよ♪ 早くっ早くっ♪」


 待ちきれないといった感じに朱莉から急かされつつも、俺は内心ほっとしていた。


 一人で部屋に居るのもつまらなかったし、それに何よりこの数日の間、政治や経済の話ばかりを聞いていたせいもあってか、相当ストレスが堪っていた。とてもじゃないがネオニート王の名を欲しいままにする俺としては耐え難いことこの上ない。


 それは朱莉自信も同じなのか、俺と一緒にゲームをできるとあってとても楽しみにしていた。

 家でも俺と朱莉は仲が良く、よく一緒にゲームをしたりもしていた。何故なら朱莉のゲームの腕前は……。


「あーっ。死んじゃった。なにこれなにこれ、不良品なんじゃないの?」

「ちげーって。朱莉がむやみやたらに作戦もヘッタクレもなく考えなしに敵陣に突っ込んだだけだろ。こういった戦略ゲームはまず情報収集が第一なんだぞ」


 そう朱莉は大のゲーム好きにも関わらず、超がつく下手だった。


「えーっ。だってだって、ゲームなんてボタン押してりゃ勝てるものじゃないの? 基本、下スイング右押し込みの○か×ボタンを押してれば必殺とか出るでしょ?」

「いや、どんだけ格ゲー色に染まっていやがるんだよ。そんなのが通用するのは簡易操作性が主体のゲームだけだからな。しかもそれってアクション全般の話だろ? これは戦略中心なんだから通用するわけねぇってのっ!」

「むぅっ。どうせワタシは下手の横好きですよー。じゃあ後、お兄ちゃんが続きやってよ」

「はぁーっ。結局いつものとおりじゃねぇかよ……ったく、仕方ねえなぁ」


 そして猪突猛進とでも言うべきなのか、マニュアルやチュートリアルの類をすべて無視するのですぐに死んでしまう。それを補うため俺も隣に居ながらサポートというか、途中から朱莉は投げ出してすべて俺任せになるのがいつものことだった。


「あっ、そこ……おしーい。もうちょっとなのに……ああっ、それ! それだよお兄ちゃんっ!」


 朱莉は思ったことが口に出てしまう性質なのか、ゲームの時にはいつも俺の横で指示を出したり驚きの声や笑い声をあげたりして楽しんでいた。


 それが朱莉なりのゲームの楽しみ方なのだろうと俺はいつも思っていたのだが、もしかすると朱莉も俺と同じく一人で居ることが寂しいと思っているのかもしれない。


 今は個々に部屋が分かれ、スマホなどで簡単にネットへ繋がれる時代なのでこうして兄妹きょうだいと一緒になってゲームをすることは珍しい部類らしい。


 尤もそれも“普通の兄妹なら”の話だ。何故なら俺と朱莉は……。


「うん? どうしたのお兄ちゃん、さっきから黙ってるけど……」

「うっ……」

「うっ?」


 そう朱莉は年頃のしかも女子高生という属性であり、しかも超がつく美少女でもあった。


 カールのかかった茶色の髪に整った顔立ち、それに昔よりも女性としての魅力が増した胸。短めのスカート丈からの顔を覗かせている白い肌の太もも。少しスカートをズラしてしまえば、下着が見えてしまうくらい。


 それが俺の隣に無謀でラフな格好で隣に座っている。そう考えるだけで自分の中にある感情が沸々と沸き立つのを感じ取っていた。


「いや……な、なんでもねぇって」

「そう? ならいいけど……」


 そう俺は朱莉のことが……好きだったのだ。それも妹としてではなく、女の子として。

 だがそれも俺は朱莉の兄であり、朱莉は俺の妹なのだ。通常では互いに受け入れられないことであり、社会的にもタブー視されている。


 けれども俺と朱莉は普通の仲の良いただの兄妹ではなく、実際は実の兄妹ではなかったのだった……。

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