第8話 都会のダム
「確か最初の発電方法って、貯水ダムを利用した水力発電だったよな? こう落下するのを利用するヤツで……。そもそも電気を作るにはタービンをどんな方法でも回せば電気になるんだもんな。ならさ、日本中にダムをいくつも作る……って、そんな単純な話にはならないよな?」
「うーん。確かに資源を利用しないという点で水力発電は優れていますが、ダムを作るには広い土地は愚か、建設に纏わる費用もそれこそ数兆円単位ですからね。もちろんそれにより新たな雇用は生まれるでしょうが、その
俺はこれまで二人の話を聞いて、水力発電についてを進言してみたのだが、みやびさんが懸念したようにダムを作る費用もまた並みではないとのこと。それに日本各地には既にいくつもの大きなダムが存在しており、そこで発電をしているため、そもそも新たに貯水式のダムを建設する場所さえないらしい。
またそれと同じく風力発電についても聞いてみたのだったが、風車を設置する費用の他にも常にメンテナンス維持費もかかり、尚且つ低音周波などの公害の問題、それと耐久性や電力発電量が低いため、あまり効果的ではないとみやびさんは説明してくれた。
「でも水力発電におけるダムは火力や原子力などよりも、環境破壊は少なくて済みますよね? なら『都会のダム』を使うのはどうですか?」
「と、都会のダム……ですか? 街が密集する場所にダムを作る場所など、とてもとても……」
みやびさんは少し苦笑しながら、朱莉の言った都会のダムについて否定した。
「いえ、既に都会にはちゃんとしたダムがありますよ~。今もワタシ達の下を流れているもの」
――などと朱莉は何故だか下を指差しながら、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
「ま、まさか朱莉さんが仰っている都会のダムとは……」
「ふふっ。ええ、そうです。地下を通る天然のダム。いわゆる下水道を利用したダムです! これだって利用することができれば立派な水力発電になります」
地下にある生活廃水などを流す下水道は毎日のように水の流れが一定量生まれており、すべての水は最終的に水道を管理する排水処理施設へと送られることになる。その水を科学的且つ自然に浄化して上水道を使って俺達の飲み水となっている。いわば水も常にリサイクルされているということだ。
朱莉が考えた都会のダムとは、その下水道を使ったいわば水力発電である。基本的に水は低きに流れる性質のため、自然と排水処理施設も家よりも低い土地に作られる。このため常に水は落下する力を得ている。これはダム施設でさえも同様であり、上から下へと落下させその水量力によってタービンを回して発電するのだ。
「で、ですが問題もありますよね? 下水道となるとそんなに大きなタービンは作れませんし、各家庭の地下に各々設置できるほどの予算が捻出できませんよ。その問題はどうやってクリアするおつもりなんですか?」
「もちろんそこもちゃ~んと考えてますよ♪ タービンについては地方の小川や水田脇にある用水路などで使われている少水力発電タービンを用いることで解決できますし、予算についても太陽光発電のように個々の家庭や賛同してくれる企業から資金を募ればいいだけのことです」
朱莉は都会のダムについての考えを次々とみやびさんへと話していった。もちろんそれもゲームで得た知識のようである。
「なら、朱莉は一般家庭から資金を集めるのに
「ううん。違うよお兄ちゃん。CFは短期間で資金を集めるのには有効かもしれないけれども、その分サイトに何割かの手数料が発生するから率が悪くなるんだよ。これはあくまでも環境問題を考え国内及び世界に対して再エネを普及させるための第一歩と考えているんだ。その技術や機械にしたって全世界に向けて売り出せば経済も豊かになるだろうしね」
「なるほど……再エネを利用して既存電力依存からの脱却を加速させ、尚且つそれすらも経済の柱とする。とても合理的なアイディアですね!」
みやびさんはメモを取りながら、そう頷き「これはイケる……」と、思わずその言葉が口から漏れ出ていた。
こうして朱莉は環境問題に配慮しつつも電力供給の問題と既存電力依存からの脱却、そしてそれに絡めての機械産業に関する雇用の拡大までの展望を語ると、この日はそこで終わりとなった。
あくる日から朱莉はさっそく少水力発電を行っている地方へと現地視察に向かった。思いついたら即行動に移すとの考えに基づくらしい。もちろんそれには俺だけでなくみやびさんなども一緒に付いて回ることになった。
小川や水田脇を流れる用水路には小さいながらも一定量の流れが存在し、少ないながらも昼夜を問わずして発電されていた。
太陽光発電の場合、発電できるのは日中の太陽が顔を覗かせている晴れの日だけしか発電することができないが、水力発電には昼も夜もまた天候など一切関係なかったのだ。
俺はダムと聞いてもっと物々しいものを想像していたのだが、見た目も然ることながら大きさもコンパクト化され環境に配した作りになっていた。これならば既存の下水道を使うだけで新たな環境破壊をすることなく、地下から直接各家庭へと電力を安定して送れることだろう。
それに何より電気とは、地方から都会に送電する場合には送電線や鉄塔などの送電網に対する費用とその維持費が一番のネックとなっており、また電気もその距離によって反比例する形で供給できる電力が目減りすることになる。
大体の発電所から一般家庭へと届くまでには、作られた電力量は約半分ほどになってしまうとのこと。しかも火力発電などの施設でさえも、その消費燃料に対する発電効率にして3割ほどと低いため、そのエネルギーのほとんどが捨てられているのが現状なのである。
ちなみに発電効率とは、100のエネルギーに対してどの程度使える電力へと変換できるかという一つの指針数値であり、高ければ高いほど発電する際に無駄が出ないことになる。
一般的に風力発電の発電効率は50%ほどと高く、原子力や最新の火力発電所などでもその発電効率は30%ないし、どんなに高性能であったとしても40%には手が届かないとのこと。
だがしかし、である。朱莉が提案してみせた水力発電では、なんと発電効率が80%も得られるのだった。これは100のエネルギーに対して80……つまり8割もエネルギーとして取り出して使えることを意味していた。
しかもそれが昨今の環境問題への懸念や安全性に疑問が生じている火力また原子力発電とは違い、一切の資源を必要としないのだ。
そしてこの水力発電こそが日本だけの問題に留まらず、世界中のエネルギー問題を解決する糸口となり得ることはまず間違いなかった。
当然のことながら水力発電とは、上から下へと落下する位置エネルギーを用いてタービンを回すので上へと水を揚水する(引き上げる)ことも必要となるわけだが、それは基本的に電力に余裕がある夜間に行われるのが基本である。
近年においてよく電力不足や電力供給不足などが叫ばれているが、それは何も電力に対する総量を意味するわけではなく、あくまでも電力供給上限を意味しているだけだ。
一定時間内に必要となる上限時間帯(いわゆるピーク時とも呼ばれている)が不足しているだけであり、それ以外の時間帯は幾分の余裕がある。
基本的にピーク時にあたる時間帯は、午後1時と午後5時過ぎであると提言されてもいる。
これはどの会社、仕事場でもお昼時間帯が12時であり、終わるのが午後1時。詰まるところ仕事が始まる時間帯はそのほとんどが同じわけで、それが工場だろうがオフィスだろうが時間帯が重なり、電力供給の上限に達することがある。
それを避けるために政府は企業への就業時間や昼の休み休憩をズラしてもらったりするよう、働きかけてもいたのだが、これがなかなか上手くいかなかった。
一番の理由としては近年の各家庭での消費電力量が増していることに起因しているのである。
それに反する形で朱莉が提案した都会のダム計画では地下で発電して直接各家庭へと電力が供給されれば、その遠距離への送電に纏わる電力減少もほとんど起こらないため、そこから得られる発電エネルギーを余すことなく使いきれることになる。
もちろん各家庭で消費しきれない電気は既存の送電線を使い、必要な人の元へと送れば良いだけの話なのだ。
それが効率電源というものであり、いかに無駄を生かすのか、それが今後未来のエネルギー問題を解決できるきっかけになることだろう。
都会のダム(少水力発電方法)は太陽光発電と同じ仕組みでありながらも、尚且つ効率も良く低予算で設置でき、環境にも配した画期的アイディアであったのだった。
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