魔女の意志を継ぐ者:異世界冒険譚
三つ目小僧
プロローグ
日本の普通の高校生だった葵シンジは、いつものように学校からの帰り道を歩いていた。
彼の毎日は平凡で、特にこれといった冒険もなかった。だが、その日の運命は、彼を予想もしなかった方向へと導くことになる。
シンジは何げなく横断歩道を渡っていた。ふと視線を向けた先に、少し先を歩く見知らぬ女の子が見えた。長い髪を揺らし、軽やかに歩く姿に思わず心の中で声を上げる。
“お!あの子、可愛いな…”
そんな風に気を取られていた瞬間、視界が一瞬、強烈な光に覆われた。眩しさに反射的に目をつむるが、その光は肌を刺すように熱く、耳鳴りが轟く中で全身が空中に浮かぶような感覚に襲われた。
次に目を開けたとき、周囲には見たこともない景色が広がっていた。広大で深い森が、静かに風に揺れている。
「ここはどこなんだ…?」
叫びたい気持ちとは裏腹に、シンジの声は出なかった。自分の体が小さく縮んだような違和感に気付き、ふと手を上げると、それは赤ん坊の小さな手だった。
“どうして…?なにが、起きた…?”
心の中で問いかけるも答えはなく、ただ見知らぬ異世界の中で赤ん坊としての無力さを実感する。
そのとき、銀髪がゆったりと流れる女性が現れた。彼女はシンジに気づくと、優しい目を向け、ふわりと抱き上げた。
「どうしてこんな所に赤ん坊が…?」彼女の声は、驚きと、そしてかすかな安堵のような響きを帯びている。
彼女の名前はエレナ。人々からは“恐れられる魔女”として知られていたが、その瞳には深い慈悲が宿っていた。
エレナは深淵の森で孤独に生きていたが、この赤ん坊を見つけた瞬間、何かが彼女の心を動かした。そしてそっと抱きしめると、まるで自身の運命を語るかのように静かに微笑んだ。
「あなた、名前はカルヴァンにしましょう。今日からは私があなたの家族よ。どんな困難が待ち受けようと、必ずあなたを守り抜くわ。」
優しく、それでいて固い決意がこもったその声に、シンジ改めカルヴァンは安心したように目を閉じた。
こうしてカルヴァンの新たな人生が、深淵の森から始まるのだった。
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