その49 過去の告白

 俺はこれまで誰にも自分の過去を話したことがない。


 最近よく時間を共にするグレイソンにさえも、言っていないのだ。彼は心の底から俺のことを尊敬してくれている。だからなのか、自分の暗い過去を話して幻滅されないかが少し不安だった。


 孤高の存在として生きてきたはずなのに、自分に近い友達・・ができてから、考え方にも変化があった。


 感じたことのない不安。

 築き上げた関係が崩れてしまうのではないか。そんな風に考えてしまった。


「わかった。俺の過去を話そう」


 セレナは知りたがっている――俺の過去を。


 最初に打ち明けるべき人物はセレナだと思った。こうして考えてみると、セレナの存在は自分の中で徐々に大きくなってきているらしい。


 変わった自分に対し、ふんと笑った。


 ――俺は何を恐れている? こんなの俺らしくない。


 たとえセレナやグレイソン、クルリンやミクリンに非難されようと、俺は自分の信じた道を突き進むのみ。そこに感情も何もない。ただ己の信念と宿命が存在する。


「俺は神を殺した。地上に存在していた八柱の神を、俺自身の手で」


 簡潔な説明だ。

 これで内容の八十パーセントは伝わる。要するに、俺は神殺し・・・だということだ。


 犯罪どころの問題ではない。


 ゼルトル王国で、いや、スペイゴール大陸全土で信仰されている神々を、俺は葬った。大陸の敵、西園寺さいおんじオスカー。このことが学園の教師や王国の貴族らに知られてしまえば、学園は退学、さらには一生逃亡生活をするはめになるだろう。


 セレナが瞠目した。

 彼女もまた、スペイゴール神話の神々を信仰する者。俺のことが許せないだろう。


「言っただろう。俺は罪深き人間だ。神を殺すことで、八種類の神能スキルを手に入れた。それが俺の力をここまで引き上げている要因のひとつだ」


「……」


 言葉を失う、か。それも当然だ。


 俺は自分のしたことに後悔はしていない。新しい世界を築き上げるための、重要な決断だ。


 だが、したことが罪深きことだという自覚はある。セレナに拒絶される覚悟だってできていた。罵倒するなり何なりして欲しい。


 セレナも寝台ベッドから立ち上がり、俺の隣に立つ。


「私は……オスカーを信じてる」


「――ッ。俺を信じる?」


「いつもオスカーは私の味方でいてくれるから。孤独からも、魔王からも、私を救ってくれたから――私は、オスカーにどんな過去があったとしても、ずっとついていく」


「セレナ……」


 するとセレナは、一気に顔を紅潮させ、小さな声で呟いた。


「それに、オスカーが、好き、だから」


 右頬に何かが当たる感触がした。

 柔らかく、温かい。心を溶かすような力がそこには込められていた。


 ――セレナから頬にキスされた。


 調子が狂う。

 これだと俺が一方的にもてあそばれているようだ。かつてないほど心が揺れ、落ち着きをなくしているのがわかる。


 待て待て。

 こんな展開は完全に予想外だ。


 セレナの俺を見つめる瞳には、慈愛と情愛の二つが混在している。


 このまま彼女との愛に溺れるのも悪くないのではないか。そう思った。


 だが――。


「俺には、成すべき使命がある。とある神・・・・に託された、世界を変える約束があるんだ」


 急に我に返ったように、いつものペースを取り戻す俺。


「俺がその使命を果たした時、またその言葉を聞かせてくれ」


 セレナが微笑む。

 そこに込められた意味はわからない。だが、彼女はもう、俺という存在全てを、受け入れてくれているのだと思った。


 俺は〈刹那転移ゼロ・テレポート〉と〈視界無効ゼロ・ブラインド〉を使い、親友セレナの部屋を去った。

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