その13 ガーディアンズ・コンベンション☆

 ゼルトル勇者学園の生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉。


 学園本館の六階に存在する生徒会室には、幹部の五人が集結していた。


 不定期に開催される、〈守護者会議ガーディアンズ・コンベンション〉である。


「今回、急な招集になってしまったことをお詫び致します」


 円形のテーブルを囲むようにして並んだ豪華な椅子に腰掛けるのは、生徒会長の八乙女やおとめアリア、副会長の白竜はくりゅうアレクサンダーに加え、天王寺てんのうじエイダン、月城つきしろルーナ、九条くじょうガブリエルの三人。


 ゼルトル勇者学園での生徒会は、教師及び生徒からの推薦と本人の意志で役員メンバーが決まる。

 もし生徒会長及び副会長候補が複数いれば、七月に選挙が行われ、学園全員の投票で決定することになっていた。


 総員は現在十八名で、全員が選び抜かれた屈指の実力者だ。

 そして、その中でも特に力ある生徒こそが、この幹部五人である。


「今回の議題は、一年生の西園寺さいおんじオスカーという男子生徒についてです」


 生徒会長のアリアが言った。

 

 この会議は不定期であり、よほどのことがない限り滅多に開かれることがない。前回はちょうど半年前で、学園付近に出現したエンシェント・ドラゴンの対処についての話し合いだった。


 つまり、今回の事態はエンシェント・ドラゴンに匹敵するほど深刻だということ。


「おいアリア、たかがひとりの新入生ガキのことで、全員集める意味があるってのか?」


 腕を組み、深く腰掛けているエイダンが指摘する。


 豪快に刈り上げた短い赤髪に、紅の瞳。

 体格が良く、肩幅ががっちりとしている。裏で「筋肉バカ」と呼ばれているほど、筋骨隆々で、深く考えない短絡的な思考の持ち主でもあった。


「吠えるな阿呆アホ


 エイダンを罵倒したのは、ちょうど反対側の椅子に腰掛けるガブリエル。


 深緑の短髪は丁寧に手入れされていて、前髪は七三分けにセットしてある。瞳の色は薄い青。まるで鏡のように、映るものを反射するという。

 特徴的なところは左目にかけた丸い片眼鏡で、それが知的な雰囲気を醸し出していた。


 だが、実際に彼は知的である。

 座学の成績が出る筆記試験では、学年で毎回トップの成績を誇っており、〈座学の帝王〉とまで呼ばれているほどだ。


 そんな頭のいい・・・・ガブリエルと、脳が筋肉・・でできているエイダンは、当然ながら常に反発し合っている。


「ぁんだと! ふざけんじゃねぇ──」


「騒がしいわ、エイダン。ガブリエルも癇癪を抑えてちょうだい」


「ルーナ! おめぇ──」


吾輩わがはいは癇癪など起こしてない!」


 諍いを色っぽい声で中断させたのは、菜の花色の髪を持つ美少女、ルーナだ。


 積極的に発言するような性格タイプではないが、彼女が発言すると場の空気が変わり、話し合いが逆転することもしばしば──発言力があるとも言えるが、そのほとんどは彼女の持つ色気にある。


 一般の男子生徒からはセクシー美少女と呼ばれているほどだが、この生徒会幹部の間では、彼女の色気も男子陣に通用しない。


「ストッープ! まずは静かにアリア君の話を聞こうじゃないか」


 そして、幹部五人、最後のひとりが副会長のアレクサンダーである。


 藍色の短髪に、白銀の瞳。

 身長は低いが存在感と威厳があり、そして面白さユーモアも持ち合わせていた。


 コミュニケーション能力に長けており、混乱した場も彼の手にかかればすぐにまとまってしまう。


 会長であるアリアが生徒会の「顔」であるのなら、アレクサンダーは「手と足」だ。

 器用に仕事をこなしながら、生徒会全体を支えている。


 副会長アレクサンダーの一言で、騒がしかった三人がおとなしくなった。


「ありがとうございます、アレク」


「いやいや、こんなの朝飯前というやつさ」


「それは頼もしいですね……では、本題に入りましょうか」


 ほんの一瞬だけ、五人だけの生徒会室に緊張感が漂う。


「実はわたくし、西園寺オスカーさんに振られましたの」


「あぁ!?」「なんと!!」「あら」「あちゃー」


 アリアからの衝撃の告白。


 四人が一斉に反応する。


 エイダンは半ギレ、ガブリエルとルーナは驚愕。

 それに対してアレクサンダーは面白そうに笑った。彼だけはその事実を知らされていたのだ。


「愛の告白をするのはあれが初めてだったのですが、まさか振られるとは思っていなくて──」


「おい待て。なんで年下のガキなんかのこと好きになったんだ? そもそも聞いたこともねぇぞ、西園寺オスカーなんて名前はよぉ」


「吾輩もそれには同意だ。そのような一年生とどこで接点を持った? それに……会長は恋愛などには興味がないとばかり……」


あの・・アリアが熱を上げる男……ワタシも見てみたいわ」


 それぞれが思ったように発言する。


 これだから〈守護者会議ガーディアンズ・コンベンション〉は大変なのだ。三人が好き放題に発言し、会長アリアを困らせる。


「ここにいる四人以外で、わたくしの魔眼を見つめることができたお方です。それに──これが最も肝心なことなのですが──彼はミステリアスで神秘的ですの」


「だったら俺様でもいいんじゃねぇのか!」


「残念だけれど、アナタは八乙女アリアに似合わないわ」


「ならば吾輩は──」


「喋ると疲れるから、毎回アリアも困っているみたい」


「ま、まさか……そんなはずはない!」


 熱を上げて発言した男子ふたりを、ルーナが冷たく始末する。


 アレクサンダーはこの様子を見て、腹を抱えながら笑っていた。


「やっぱり、きみ達は最高だなぁ」

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