第7話 ジテフリアへ
「すいません、横・・・失礼します」
私が座っていた女性に一言断りを入れ、その横へ腰かけると、
「あら、アナタ随分と立派な服を着ているのね」
ウェーブがかった栗色の髪の女性は少しそばかすは目立つけど、綺麗な外国の女性の顔をしている。
タヘスさんとか村長さんの時も思っていたけど、やっぱりこの顔で日本語ペラペラなのはなんか違和感あるよね。
「この服は私の家のもので・・・」
「ふぅ~ん・・・そんな綺麗な服をきているアナタがなんで働きに出るのかは不思議だけれど・・・ま、人には事情ってものがあるだろうしね」
やっぱり奴隷は働きに出るっていうことでいいみたい。
「お姉さんも仕事をしに?」
「そうね。私は労働はなるべくしたくないからほんとはお金持ちの妾にでもしてもらいたいところだけど、相当運がよくなきゃ無理でしょうね」
妾って、そういうこともするってことよね・・・。じゃあこの人はアレを拒否しなかったんだ・・・。
「私は貴族様の給仕をしたいなぁ」
「ジフテリアは大きい街だから、そういった買い手も来るかもしれないけど、あたしたちがやるのは貴族様なんかの所じゃなくって、せいぜい食事処か酒場の給仕よ」
「夢がない・・・って言いたいけど、現実はそんなもんよねぇ」
反対側に座る三人の女性が自分達のこれからについて話してるけど、みんなこれから自分が買われることになることに対して悲しそうにしてるとかなくて、当たり前の事みたいに言ってる。
重い空気になられるよりマシかもしれないけど、日本から来た私としてはちょっとなんか複雑な感情になるなぁ・・・だってこれってどう考えたって人身売買なわけだし・・・そういうのってよくないことなはず・・・だもんね。
でもここではそれが当たり前で・・・うーん・・・。
「でもただの村人の私達と違って、戦士の適性を持ったチャズはいいよね。きっと兵士として雇ってもらえるわ」
と言って、端っこで背もたれに寄っかかって小さいいびきをかいている男の人を見ている。
これから身売りしに行くって言うのに気持ちよさそうに寝ているのね・・・。ほんとにただの出稼ぎって感じ。
そんな話をしていたら、御者席の方の布がめくれ、おじさんが顔を覗かせる。
「全員揃ってますね?それでは護衛の方も到着したので出発します」
そう言って、馬車を動かし始めた。
揺れる馬車の中で座ってどれくらい経っただろう・・・。何回か休憩をはさみつつだったけれど、道中のほとんどをおしりが痛くなるくらいの揺れの中を座って過ごしたけど、たぶん半日くらい経ったかな?
日も傾いてきたからたぶんその位だと思う。
それくらいの時間をかけて、やっと次の村に着いた。奴隷商人のおじさんが話していたナナウという名の村だ。
ここはカームの村よりも一回り大きいみたいで、村内に道らしきものすらなく、ぽつぽつとまばらに家が建っていたカームと違って、ちゃんと区画のようなものと道が整備されている。
「この村に宿は無いので、今夜は村のすぐそばで野宿します」
村に着いたけれど、中に入るわけでもないみたいね。
横に座っていた女性が言っていたんだけど、こういうことはよくあるらしい。
小さい村だと物を売っている店もないことは普通で、食事ができる所なんかも宿が併設しているということがほとんどらしいから、宿がないこの村には入っても意味はないって言ってた。
手持ちに食料がなければ村長と交渉して購入したりすることもあるらしいけど、店じゃないから望みの物があるとは限らないし、向こうが出した物を買うしかないから、あまりそういうことはしないみたい。
じゃあ何で村に寄るのかと思ったけど、何にもない街道で野宿するよりも安全だという理由らしい。
晩御飯はおじさんがくれたけど・・・お世辞にも美味しいとは言えないものだった。
硬くて味気ない干し肉が少しと、あの硬いパンに具の少ないスープ。
くれるだけありがたいとは思うんだけど、もう少し味付けしてほしいなぁ・・・。
護衛の強そうな人達は美味しそうなものを食べてるのかと思って少し遠目に覗いてみたけど、私達とあまり変わらないような感じだったから、おじさんが意地悪で不味いものばかりを渡しているということでもないみたいね。
あー、カレー食べたいなぁ・・・。
翌日、朝起きるとすぐに出発した。
この村に居たってしょうがないからそれは分かるけど、硬い地面に布一枚だけ敷いてその上に寝てたから体が痛い・・・。
みんなは平気そうだけど、こういうの慣れてるのかなぁ?せめて枕はほしかったよぉ。
出発してちょっとしたら雨が降ってきた。
私達は馬車の中で濡れることはないんだけど、護衛の人達は変わらずに外で歩いている。大変だなぁ。
最初の頃は働き口の話題とかで盛り上がっていたみんなも、旅の疲れかただ話題が尽きただけなのか、今は誰もしゃべることなく黙っている。
雨音と馬車の車輪、馬の蹄や護衛の人達の足音だけが耳に届く中、馬車の揺れにもようやく慣れてきた私は昨日あまり眠れなかったのもあって、瞼が重くなってきた。
特に我慢する必要も無いし、そのまま睡魔に身を任せると、すぐに意識は溶けていった。
ヒヒイィィィーーーーン!!
突然大音量の馬の嘶きが聞こえ、目が覚めた。
横になっていたわけではなかったから眠りは浅かったと思うけど、それでも結構しっかり眠っていたように思う。
何だろう、少し外が騒がしいような・・・雨が強くなったのかな?
私が疑問に思っていると、急に馬車のスピードが上がり、荷台の私達は不意の急加速に耐えられず、後方へ飛ばされた。
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