第3話 勘違い

「いやああぁぁぁぁーーー!!」


迫ってくるゴブリンの手を振り切ろうと走り出そうとした時・・・、


「え?」


気が付くと私はベッドの上にいた。


混乱する頭を必死に動かしてあの時のことを思い出す。


あの時・・・私はゴブリンに捕まりそうになって・・・。




「いやああぁぁぁぁーーー!!」


近づくゴブリンの左頬に、私は思いっきりビンタをした。


 ギャッ!アギャギャッ!!


不意を突かれたゴブリンは、たいしたダメージも追っていないのに混乱した様子で少し後ずさりをした。


「今だ!」


私はその隙を見逃さず、走り出す。


そこからはもう無我夢中だった。

既に体力は尽きかけていたから、フォームも乱れて中々スピードが出ず、ゴブリンとの距離を離せない。


地面が切れている場所までもう少しだけど、もしあの先に何も無かったら・・・。

だけど、止まるという選択肢はもうないのだから走るしかない。

そこがもし崖だとしたら・・・そのまま・・・でもあんなバケモノにヤられるくらいだったらその方が・・・。


でも、いや・・・まだ私、死にたくない!

お願い・・・神様・・・!!


そしてその私の岐路となる場所が迫ると・・・徐々にその先の様子が明らかになってきた。


ああ・・・神様ありがとう・・・。


私の視界には坂道の下に広がる家々から、沈みかけた陽の光に備えて灯した灯りが漏れだしている光景だった。


そして私は体力の限界を迎え、薄れゆく意識の中でこちらに駆け寄ってくる男の人の影を微かにとらえていたのだった。




「どうした!?大丈夫か!?」


曖昧な記憶を思い出そうとボーっといていた私に、鎧を着たオジサンが心配そうに話しかけて来た。

茶色い髪に緑色の瞳、顔立ちだってどう見ても外国の人なのに、物凄い綺麗な日本語。


「ふふっ」


助かったことに安心したのもあったけど、オジサンの見た目と言葉のギャップがおかしくなってつい笑っちゃった。


「本当に・・・大丈夫か?」


「ごめんなさい。少しおかしくて」


私の言ったことが彼の問いの答えになってなかったから、彼は困惑した顔をしていた。


「ええと・・・ユウキ・センゴクさんだったよね」


「え、なんで私の名前を!?」


生徒手帳!?・・・は、鞄の中か・・・。スマホもポケットに入っているようだし・・・。まさか・・・。


「私に鑑定を!?」


「そうだ。入村する際の決まりだからな。意識の無い状態でもクイルで調べることは義務付けられている」


ク・・・イル?


「私はこのカームで衛兵を務めさせてもらっているタヘスだ」


色々頭の中で疑問に思うことがグルグルしていて、私は彼の挨拶にも少し会釈をするくらいの反応しかできなかった。


「キミは剣士のようだが、武器はどうしたんだ?」


「あ、剣は落としてしまって・・・」


落としたというか・・・捨ててきたといいますか・・・。

私の言葉を聞いて彼は私の体に目を落としてきた。


何っ!?男の人は気付いてないんだろうけど、そーゆー視線って女の子はすぐにわかるんですからねっ!

もしかして・・・剣が無いを知って襲ってくるつもりじゃ・・・!


「その服装・・・見たこともない作りだが、キミの国のものか?・・・もしかしてキミは大和の貴族だったりするのか?」


え?貴族?

そういえばウチは今も続くどっかの藩の三万石の武家の家系だって、おじいちゃんが・・・。

昔は関西に住んでいたって話は子供の頃によく聞かされたっけ。


「そうすると、そうなるのかしら?」


今の日本に貴族なんてものは無いと思うけれど、もし昔の制度が続いていたのなら私の家も同じようなものだったのかな?


「やはりそうか・・・いや、失礼・・・そうでしたか。服の素材の質とその胸の家紋らしき意匠は見事というしかないものでしたからな」


あ・・・いや・・・ま、まぁいっか。

私がただの一般市民だなんてこと、異世界な調べようもないし。貴族だと思ってくれてた方が酷いことされなそうだしね。


まさか制服の校章が役に立つ時がくるなんてね。

ちょっとやんちゃなクラスメイトなんて、ダサいとか言ってとっちゃうもんだから、先生に怒られてたっけ。

よかった。あたしはやんちゃじゃなくて。


 グウゥゥゥ~~


なんで・・・なんでお互いが喋ってない静かなタイミングで鳴るのよぉ!

ばか・・・私のお腹のばかぁー!


「こ、これは気が利かず・・・。今何か持ってきます。ですが、ここには簡単なものしかないので、味の方は期待しないでくださいよ」


「あ、ありがとうございますぅ・・・」


恥ずかしぃぃぃ!!

顔が熱くて上げられないよぅ・・・。






タヘスさんは苦笑いを浮かべながら部屋を出ていった。


そして、私のお腹は再び鳴るのだった。

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