望んでいなかった異世界転移だけど、渋々生きていきます! ~無料スマホゲーをやっていたらいつの間にか異世界にいました~

影出 溝入

第1話 いつもの通学風景より

「あれ・・・?なにこの広告」


通学中の長い電車の乗車時間を、女子高生の少女はいつも無料アプリゲームをやって暇を潰していた。



    【あなたを新たな世界へご招待!】



バインのグループでは興味の無い同じ学校の男子批評ばかりでいつも盛り上がっていて入っていけないし、通学の時間を利用して予習復習をするほど勉強に興味がない彼女は、結果的に無料で出来るスマホアプリをやって最寄り駅に到着するのを待っていたのだが、ステージ間に流れるいつも目にするお決まりの詐欺広告とは違う、随分と見た目が古いドット絵のローププレイングゲームが流れてきた。


「昔のゲームのリメイクかしら?それにしては作りが雑なような・・・」


しかし、その普段と違うというのと、雑な作りが妙に印象に残ったからか、いつもだったらスキップできる時間をただ無為無感情で待っていたのに、気が付けばダウンロードボタンをタップしていた。


「え?もうインストールまで終わったの?」


普通だったらダウンロード完了後、インストールをしてからアプリが起動して画面が変移するのだが、何故か今回はタップ後すぐにゲーム画面へと移動した。


「実は新作で、新しい技術が使われてるのかな?」


まだまだ目的の駅は先な上に、人が乗ってきて混み合う区間はもう二駅ほど先なので、車内は一番端の席に座っている少女の真反対にいるいつもみかける小学生しか居ないから普通に思ったことを無意識に呟いてしまっていた少女は、不思議に思いつつも表示されたゲームのタイトル画面をタップして次に進めた。


「あれ、昔のゲームだと思ったけれど、やっぱり違うのかな?」


そう思ったのはゲームの主人公のキャラメイク画面になったからだった。

昔のRPGにそんなものが無いことは兄が所有するレトロゲームをプレイしている様子をいつも横で眺めていて知っていた。


兄はよくこのゲームはココが凄い、とか、あのゲームは今のゲームにはない面白さがある、など、いちいち少女に解説してきたから彼女は自分がプレイしてもないのに昔のゲームに詳しくなってしまったのだ。


「ドット絵なのに随分項目も多いのね・・・」


自分が家でやっている最近のゲームと同じくらい「髪」「輪郭」「身長」などキャラメイクの細かい項目がズラッと並んでいたが、


「どことなく私に似ているし・・これでいいや」


項目の横にある矢印をタップして試しに一つ二つ数字を変えてみたが、ドット絵だったこともあって大した変化もなかったし、最初に表示されていたキャラクターが自分に似ていたので、彼女はそのまま右下の「次へ」ボタンをタップした。


キャラメイク項目それぞれの数値が0ではなく、一つ一つ別々の数値になっていたことなど、少女は全く気がつかなかった。


「次は・・・職業ね」


縦に羅列されていた職業には「戦士」「剣士」「魔法使い」「僧侶」などの定番の物も用意されていたが、


「村人?・・・それに奴隷商人って、どうやってモンスターと戦うの?」


そこには多種多様な種類があったが、下にスクロールすればするほど「農民」や「料理人」など、戦闘にとても役立つとは思えない者ばかりが表示されはじめた。


「魔法はMPの管理がめんどくさいから、やっぱり剣士よね」


と、少女は「剣士」を選んで右下の「次へ」をタップすると、



    【βテスト特典】



という表示が画面中央に表示された。


「え、このスマホゲー・・・まだ正式版じゃなかったんだ」


スマホゲーでβテストなんてあるのかな?と思った少女だったが、


「最近は広告でテスターを集めてるのね・・・」


と、自分の中で納得していた。

逆に聞いたことが無い機会に巡り合えたと少し嬉しい気持ちにまでなり、「次へ」をタップする。


「・・・特典ポイント?このポイントでこの下のやつを選ぶのね」


表示されているポイントは15。

ボーナススキルと書いてある下には職業の時と同じように縦にいくつか並んでいる。




  【ボーナススキル】

   HP回復倍増▼

   MP回復倍増▼

   PT取得経験値倍増▼

   マルチジョブ▼

   詠唱破棄

   鑑定

   PT設定変更




「うーん・・・一個のスキルに1ポイント・・・あれ?」


色々試していて▼の部分に指が触れた時、あらたにリストが表示され、選択肢が増えた。


「HP回復倍増・・・あ、もう一回選ぶと4倍に・・・けど、ポイント消費も倍増してる・・・うーん・・・」


少女に与えられたポイントは15。

この数値では複数のボーナススキルを選択しても全体的に効果が薄いものになってしまうと思った彼女は、


「この中だったらマルチジョブかな。他はレベルを上げたり時間をかけたりすればどうにかなりそうだしね」


詠唱破棄や鑑定、PT設定変更はドット絵のRPGで何の役に立つのかもわからなかったからこの少ないポイントでは選ぶ気にはならなかったようだ。


少女はマルチジョブを4thまでとって15ポイントの全てを使い切った。


「でもテストならもうちょっと色々選べるくらいポイントくれてもいいのに」


残念だったね。


「それじゃ」


選択し終わった勇希は右下の「次へ」をタップすると、画面中央に「これでいいか?」と表示された。


「ふふ、テストだからって確認テキストを適当に入れたのかな?」


正式版では有り得ないであろう表示に笑いが漏れた少女は「はい」をタップした。






頑張ってね。

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