第31話:酒に溺れる愚か者
「でさー。あの頃のマアジちゃんは本気で可愛くてー!」
グビグビと酒を飲みつつ、サヨリ姉はアルコールに酔っていた。まぁ酒くらいで死ぬ人間ではないので、それはいいとして。俺はそんなサヨリ姉につまみを提供し、チュッチュと頬にキスをされている。
「今も可愛いけどー、ショタはショタなりに魅力があったっていうかー」
「わかるぞ。マアジは可愛い」
「だよー。わかってるねルイちゃん」
焼酎をストレートで飲んで大丈夫なのか聞きたいが、サヨリ姉が酒に負けているところは見たことがない。まぁあんまり深酒してほしくないのも事実だが。
「で、マアジちゃんにお姉ちゃんは惚れちゃったわけよー。しかもお姉ちゃんの毒が通じないともなればもうこれはデスティニーでしょー。愛してるだよーマアジちゃん。セックスしよう?」
「しねーよ」
「男の子が好きなのー? ダメだよそんなのー」
発言に責任を持ってくれ頼むから。
「その……サヨリさんは何で毒を?」
オズオズとルイが聞いてくる。
「さあ? とにかく私の体質が毒っぽくて、分泌する液体が毒にまみれていることだけは事実だよー」
おかげでサヨリ姉とセックスをしたら男が死ぬことになる。唯一の例外が俺。
「そのためにミストルテインを開発したんだからー」
「…………ミストルテイン?」
「マアジの肉体に寄生している植物。神経根っていう根を全身に張り巡らせて、マアジの神経の代行をしているのよー」
「マアジはそれを了承したの?」
「事後承諾。でも実際のところはミストルテインがなければ俺は死んでいたらしい」
「それって……」
思案するようなルイ。
「結婚してー。マアジちゃんー。お姉ちゃんはマアジに抱かれますー」
「……」←ルイ。
「…………」←タマモ。
だからそういう目で見るなよ。
「サヨリ姉には運命の人がいるはずだ」
「でもセックスしたら死ぬし」
「子どもとかどうなるので?」
「さあ? 妊娠したことないから分からない」
モグモグとあたりめを食べて焼酎を飲むサヨリ姉。
「あのー。でもー。マアジはボクが予約してるぞ」
「…………言ってしまえば……あたしたちのものでして」
「まぁマアジちゃんは魅力的だからこういう女の子が寄ってくるのも仕方がない」
「だぞ」
「…………ですね」
身体がかゆくなる。俺の前で俺を褒めるのは反則じゃね?
「だからルイちゃんとタマモちゃんにもマアジちゃんの操は渡さないだよー」
俺の意見は?
「じゃあマアジの側から求められたら問題無しってことだぞ」
「…………以後いっそう誘惑が求められますね」
やめて。俺の理性はほぼ限界だ。
「……じゃあ少し失礼をば。あ、サヨリ姉には触れるなよ」
「あ、うん」
「…………了承しております」
頷くルイとタマモ。
「待った」
で、据わった目でサヨリ姉が俺を睨む。
「何か?」
「示威行為をするくらいならお姉ちゃんを抱きなさい」
ギクリ。
「あ、マアジの離席はそういう」
「…………むう。……遠慮しなくていいのに」
そういう問題じゃねーんだよ。
「このままだと襲ってしまいそうなので」
「襲っていいだよー?」
サヨリ姉はそうだろうな。
「マアジ?」
「…………マアジ」
お前らもやめろ。そういう目で俺を見るな。
「じゃあ失礼をば」
迅速かつ丁寧な対応をせねば。
「マアジちゃんー。お姉ちゃんが抱かせてあげるからー」
「有難迷惑もいいところだ」
「お姉ちゃんだって性欲はあるんだよー」
俺にだってあるわ。
「じゃあ需要と供給が成立してるねー」
「サヨリ姉?」
「なにー?」
「寝ろ」
顎に拳を当てる。ちょっとだけ威力高めに。
「ふやん」
脳が揺れて、サヨリ姉は気絶する。はあ。嵐は去った。
「マアジ?」
「…………マアジ」
と思ったが、そんなことはなかったらしい。
「今までも示威してたの?」
しなきゃすでに襲っている。
「遠慮しなくていいのに」
「…………マアジ……しましょう」
「しません」
「…………なんでです?」
言われんと分からんのか。
「少なくともボクはウェルカムだぞ」
「…………もういっそ三人で」
夢がある。夢はあるが…………悪夢に相違なく。
「とにかくサヨリ姉はこれからも来るだろうし、お前らも気をつけろよ」
「マアジは何で無事だぞ?」
「神経毒には免疫があってな。まぁミストルテインありきなんだが」
「マアジって何者だぞ」
「俺もよくは知らん」
実際にその通りだ。俺は俺をよく知らない。
「ちなみにラブコメ主人公の様に絶倫だったりアレが大きかったりするわけじゃないぞ。普通に平均程度。そういうことをしたいなら、俺は最適解とは言えん」
「別に大きければ良いとか言うつもりはないんだけど」
「相性じゃないですか? それって」
たしかにサイズ差補正という意味では、大が小を兼ねるとは言い難いが。
「マ・ア・ジ……」
「…………マアジ」
だからそういうことはだな。
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