第4話:アイドルの弱みを握ってしまった
「それで、どうするんだぞ?」
俺はカレーを食べ終えて、食器洗いに精を出す。風呂掃除は終わっているし、お湯を入れるのもいいだろう。
「どうするって……何がだ?」
「本気で言ってる?」
「偽っているつもりは毛頭ないが」
「色々聞いたよね?」
「キモいオタクがどうの? 性欲丸出しで握手してくるな?」
「ぐ……ふぅぅぅぅぅ…………ッッ!」
チーンと御鈴の音がして、黒岩ルイはテーブルに突っ伏した。その様は俺が見るに痛々しく、ついでに彼女からイニシアチブを取れる視聴でもあった。
カチャカチャと食器を洗う。
「ふ……ふふふ……ふふふふふ……」
今いる場所はマンションの俺の部屋。特に異論はないのか。俺の部屋で俺のカレーを食べて、それから撃沈していた黒岩ルイは、そこで不気味な笑みを浮かべる。とはいえ俺の方からは見えないのだが。
プチプチとボタンを外す音が聞こえる。どうやら服を脱いでいるらしい。
……いや。ここで?
「何をする気だ?」
「ナニ」
いや待て。待て待て待て。
「落ち着け。お前は何か? すでに経験ありか?」
「無いぞ」
よかった。アイドルの処女幻想は守られた。その自称処女は、下着姿にあっさりと脱衣して、その豊満な胸を惜しげもなくさらす。とはいえ下着姿なので、まだR18ではない。このままでは18どころではなくなるが。
「でもマアジはボクの秘密を握った。つまりボクを性奴隷にする権利を得たんだぞ」
「エロゲーのやり過ぎだ」
そんなに俺は良心が無いように見えるか?
「え? しないの?」
それを言っている時点でアイドルとしてどうよという話で。
「むしろ聞くが、したいので?」
「ば、ばっかじゃないのー。したいわけなんてないじゃないいい」
そんな棒読みで言われても。
俺も男子だ。したくないわけないのでチャンスがあればそりゃやりたい。だがここでオメガターカイトのセンターに不祥事を起こさせるわけにはいかない。何より杏子ちゃんのために。
「ふふっ……」
俺がやる気がないと知ったのか。脱いだ服を着て、調子を整えると黒岩ルイはニコリと笑った。
「君、いい人だぞ」
「善良のみを旨としておりますので」
時に悪ぶって見たくもあるのだが、俺の道徳がソレを許さない。
「あのさ。カレーまだ余ってるよね?」
「そうだな。冷凍する予定だ」
「明日も食べに来ちゃ……ダメかな?」
「別に構いやせんが」
「あ、お金はちゃんと払うから。そこは安心して」
「いらん」
俺は断言した。
「え、でもお金かかってるでしょ?」
「支障がない範囲だ」
「でも御馳走して貰って」
「じゃあ対価を言おう」
「性奴隷……」
そこから離れろ。本気で俺が性奴隷に仕立てようとしたらお前は受け入れるのか?
「場合によるぞ」
オーライ。だったら気が向いたら犯してやろう。
「とにかくお前がカレー食いたいって言うなら、俺から言うことは無い。で、だ。そこには俺の優しさがある。黒岩ルイに喜んでもらうためにちょっとスパイスとか利かせて見栄を張ったカレーを作ってしまった」
もしあのままルイが現れなかったら、俺は普通のカレーで満足していただろう。
「だからお前が美味しく食べてくれたという事実を金銭で汚したくないわけだ。俺が金目的でお前に御馳走をしたという現実の上塗りを俺は認めたくない」
だから好きに食ってくれ、と俺は言いたいのだが。
「うーん。じゃあどうしよう」
思ったより真剣に悩まれてしまった。そこまでしてお礼されんでもいいのだが。
「いや、今回に限った話じゃなくだぞ」
「?」
何を言ってるんだ。コイツは。
「その。つまりだぞ」
「つまりでいいから言ってみろ」
「マアジはボクの裏の顔を知ってしまった」
「知りたくはなかったが、まぁそうだな」
「つまり君の前でアイドルとして取り繕うことは無意味になった」
「まぁそうなるわな」
「つまり遠慮しなくていいってことだよね?」
「否定したいが、たしかにここで、フフ、応援ありがとうございます、とか言われてもな」
「つまりボクらは運命共同体」
「俺の運命は乗っていないが」
「なわけで。遠慮しなくていいから言うんだけど」
「やっと本題かよ」
「オナニーって日に何度している?」
「嫌われたいんだな? そうなんだな?」
「あっ。つい本音が。いや。そうじゃなくて」
「どうじゃなくて」
ちなみに言う気はないが、俺は結構性欲を持て余している。
「ボクのためのご飯作って欲しいんだぞ」
「それは明日のカレーとは別に?」
「出来れば毎日」
「毎日」
かのオメガターカイトのセンターアイドル黒岩ルイの食事を俺が作れと。
「だから言ったじゃん。お金払うよって」
「金はいい。これでも金持ちだから。ていうかお前もこのマンションの家賃は知ってるだろ」
「まぁ節税対策だけど。ボクの場合」
「あー。もう人気アイドル様は……」
「それで……だめかな?」
「いや。俺の飯で良ければ幾らでも作ってやっていいが、お前の方は問題じゃないのか?」
「?」
「一応言っておくが! 現実を共有するが! 危険領域の審判について言及するが! お前が俺の部屋に上がるのはいいのか?」
「まぁスキャンダル対策とセキュリティの問題でこのマンションを選んだから。相当運が悪くなければバレないんじゃない?」
それも事実か。ストーカーがエントランスのセキュリティは突破できないだろうし、周囲のマンションも監視できる良い位置には無い。
「わかったよ。じゃあ明日は何食いたい?」
「カレー」
はい。カレー一丁。
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