魔法とは測るものである。

芒硝 繊

プロローグ だから私は魔法を測る。

私が住むライスト国はよく魔法での事件解決が常套手段である。

それくらい魔法とは、便利で且つ使い道を違えれば危険なものとして古来より親しみをもたれてきた。


私は魔法が大好きだ。だからあるとき疑問が湧いた。


この直径だと二つの属性が陣の中で重なり弾けて展開は出来るもののその発生した魔法は中くらいにショボくなってしまう。


だけどもう少し長い直径だとどうなるだろうか。あら不思議。

スパンもちょうど良く二つの属性もちょうど良い速さで混ざり合う地点へと向かいムダがなくなった。


それからというもの私は直径って割りと大事なんだなと学び、他の魔法にも前よりもっと触れてみたくなったのだ。


するとどういうことだろう。古代の中でも最果ての北、ネクラス国のウエーシア地域のものはスパンはちゃんと出来ている。


だが逆に現代の魔法は寧ろ詠唱を短くしようとして少しの違いと人は言うかもしれないが、その少しの違いが逆に効率が悪くなり燃費も早くなってしまっている。


どうして私がそう思ったのか。それは後できちんと説明しよう。

――だが深く考えるようになったのは母にあろう。母は古代の魔法が好きな私と違い、逆に現代の魔法が大好きだった。


他の人が魔法を好きになるときどんなところに着目点を置くのか気になり、一度だけどんなところが好きなのか聞いてみたこともあった。そしたら――


「え、好きな理由? そりゃあんた、見た目が整ってて詠唱も短い。逆にあんたはどうしてあんな意味不明な最も難しい難解文字で色々な文字が錯誤されながら書かれ、ぐにゃぐにゃにネジ曲がったのが好きなの? それこそ理解不能なんだけど。」


そう聞かれて改めて考えた。私は言われる迄、古代の魔法は好きだから使いやすかったのもあるかもしれないが身体も疲れないし、へばらない。そんなとこも好きだったのだ。


私からすると現代の魔法は肉体がアホみたく疲れるし使い続ければいずれ立てなくなる。それなのに古代の魔法を使わないのはきっと――古代の魔法が頭を使って組み立てを行うものだからだろう。


要するに肉体か頭脳か。その違いである。


私個人としては既に走りきった肉体を使うくらいなら頭を使う迄なのだが⋯⋯。


それに魔法に使用されている古代文字は誰が書いたのか考えたのかは知らないが、偉くむずかしい。


古代の魔法を図案するとき、その古代文字が読めないと結局古代の魔法を展開することができない。


あ、それと魔法自体が好きな理由は勿論別にある。単純に言おう。好奇心だ。

この魔法ならどこまでの威力をもち、そして編み込み過程を整えればこの魔法はどこまで飛べるだろうか?


そう思うとやらずにはいられない。


マ、こんなことをあーだこーだ言っても仕方ないか。さて、私がどうしてそう思ったのか。現地に赴いて語ろうじゃないか。


そう思い、私は立ち上がって寝惚ねぼけ眼《まなこ》になりつつも、魔法についての資料を選別しながら鞄に詰め込んでいく。よいしょっと鞄を肩にかけた。


あ、そーいえば学校から外出許可を親に取れとえらく注意されてしまったからな。取るか。


「母ー。ちょっと出かけてくるー。」


「あら、街の方までいくの?」


「う゛、ちょっと北の方までー。」


「気を付けていってらっしゃーい。」


「はーい。」


母には悪いが嘘をつかせてもらう。

ゴホン。さて、何気ないやり取りを終えたことだし。さっさとと言われる魔法陣でも見に行くか。


そう思い、私は部屋に駆けゆきドアをきちんと閉めて二個のうち一個の自作魔法陣に手をかざして頭できっちりと具体的に図案を考えして組み立てていく。


零番式は二ダイヤルへオン。逆に一番式はダイヤルに流れず六番式が流れ込むまでの待機。二番式は六ダイヤルへオフ。三番式は四番式とともに五ダイヤルへイン。四ダイヤルがオンになるまでともに待機。


五番式は四ダイヤルへオフ。六番式が四ダイヤルにオン。全流れ、確認。組み立て完了。


測る。零番式は真ん中から19.3cmズレたところ。一番式は零番式から35.5cmズレたところ。二番式は一番式から15.2cmズレたところ。三番式は二番式から60.4cmズレたところ。四番式は三番式から10.5cmズレたところ。五番式は四番式から9.5cmズレたところ。六番式は五番式から40.1cmズレたところ。計測完了。より精確な図案維持が完了。


実現可能。


☆☆☆


よし、到着。にしても相変わらず寒いな。流石、最果ての北。ネクラス。


ちゃちゃっと走っちゃおう。鍛え上げ、筋肉がびっしり締まった足を踏み込み前へ前へと私は駆け出した。


ここあたりは何度来ても変わらないな。そういえば、初めて来たのは何時だったか。


確か――六歳だっけ。


マ、あんまり変わらないか。走りながらふと思い出した。


私が初めて魔法に興味を示したのは三歳だった。三歳の頃、父の蔵書に行くと偶々古代魔法が描かれた本が目の前に落っこちてきたのだ。


今、思えばあと少しで頭に強打していたわけなのだがそれはさておき。


何となく気になったのか、私は本を開こうとした。けど全然開かなかった。理由は分厚過ぎたのとページが、いや紙が捲りづらい材質のものだったからだ。


あまりに捲れないことに苛立ちを立てたのか、生まれた時も無理に泣かされた子供がそれ以来初めて泣き声をあげたらしい。


親によればオムツを替えて欲しい時も泣かず叫ばず。随分と困り果てさせてしまったことがある。本当に申し訳ない。


突然、泣いたことに当然だが両親はひどくびっくりして腰を抜かしてしまったらしい。本当にごめんと思う。


動揺しようが私は本に背を向けて泣き続けるし、理由は分からないしで――困っていたら混乱し果てた母が読み聞かせ気分になったらしく、ちょうど近くにあったその本を開いてくれた。


すると直ぐ様、泣き止み本にかじりつくようにじっと見ていたらしい。私もこの本は今でも大好きだ。




ん、そろそろだ。見えた、アレが最果ての北に位置するネクラスが昔もっとも誇っていた古代級魔法。ザレアス。


今となっては天候の変行が影響で誰一人と住めず来れなくなってしまった。

私は、先ほど転移時に組み込まれていた陣の影響で人体に影響を受けるほどの寒さは感じていない。


何故、こんなとこまでわざわざ来たか。それはこれが私が直径に疑問を抱いた初めての魔法陣だからだ。


今まで、古代魔法がぐにゃぐにゃにネジ曲がっているのはタダ単に適当に書いたからだとそう思われていた。


でも中には私みたいに本当にそうなのか? と疑問を思う人もいるものの確たる結果は得られずじまいだった。


それは何故か。そう、0.0001mmでも違えてしまうと一瞬で意味が変わってしまうからだ。


0.0001mm、0.1cm、1μm。まぁ要するに――


0.0001mmごとに意味が変わるのだ。0.0001mmごとに魔法陣の法則は変わりごちゃごちゃになる。


つまり、私は光学式リニアスケールが当たり前に出回っている現代に感謝をせざるを得ないといったわけだ。


ここまで細かいと普通は測れないからな。


じっと観察する。うん、やっぱりこの魔法陣は大好きだ!


この魔法陣は特に疑問を感じさせる部分がよく特筆されていると思う。これを描き考えた人が相当な拘り屋だというのも見たら分かってしまうくらいには。


そう、この魔法陣は0.0001mm毎に絶妙なうねりと的確にダイヤルへの変更場所を当てている。他の古代魔法陣は面倒になってしまったのか何処か0.0002mm化していてちょっと効率が悪くなったりしていたが――これは違う。凄く的確だ。


きっと相当な根性もいるだろう。だって描いたり考えたりしていると肩や何やらが凝って疲れてくるんだ。


だから私はこの魔法陣を作った人を凄く尊敬していると同時に兵器級と化して国のお偉いさんにいいように使われてしまったことが凄く悲しい。


だって、こんなに素晴らしいものなのだ。もっと、もっといいように使われなければ⋯⋯。きっと今後の発展に役立っていただろうに。


全く、上に立つものが見る目なくしてどうする。上に立つものが人を上手く使えなくてどうする。責任をとれなくてどうする。


上に立つと決めたのなら、そこには必ず責任が容赦なく付き纏うというのに。


歴史によれば一人で一生懸命に作っていたところを強引に奪われたそうだ。

兵器に使われる、と噂伝てに聞いたときこの作者はどんな気持ちだっただろうか。


素晴らしい出来だったからそりゃ狙われるだろうなと思うと同時に、そう思うのならもっと素晴らしいことに使おうよ、作者に敬意を抱こうよと思ってしまう。


だって一から構築するというのはひどく疲れる行為だからだ。そのせいだろうか? それとも魔法を編み込み形に落とす迄半生くらいの年月が必要不可欠だから?


理由がどうあれ、私だってまだ魔法を二個しか作れていないのだ。


それを一人でにコツコツ、コツコツ積み上げたのにも関わらず⋯⋯全くもって度し難い。マ、この魔法はある意味歴史には遺ったが⋯⋯。とても残念な使われ方となった。現実とは厳しく物悲しいものである。



だから、正しく伝え直すためにも私は魔法を測る。それが私の人生の生きがいである魔法へのせめての恩返しだ。



それで⋯⋯、ちゃんと聞こえてた? 兄さん


「おう、バッチリよ。⋯⋯でも、これでいいのか? 学校の先生に提出しなきゃいけないのがコレで。」


別にいいと思ったし、楽かなって。


「俺はやり直しくらうと思うけどなー。」


う、その時考えよう。それじゃあもう切るね、兄さん。


「えーと、怒られてもしらないからな。」


魔法を解除、解除。解除法則を書きながらそう思った。

現代魔法の解除の方法は簡単だ。いや簡単過ぎる。誠に遺憾の意――ってもう誰も聞いていないしいいのか。



さて、名残惜しいがもう行くか。休み期間も終わって、明日は学校があるからな。

提出も⋯勿論忘れてはいない。帰ったら取り出しとかないと。

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