第2話

社会人二年目の四月から住み始めたアパート、の。

左隣の人の生活音が騒音だと指摘されたのが入居ニ週目の事だった。




「え。待って待って待って。それ生活音の話じゃなくて騒音の話でしょ?」



殆ど“待て”に聞こえる早口の『待って』を頬杖を外した怖い目で訴えかけた心未友人


「夜中に? お局だか何だかのチクチクチクチククッソ下らない嫌味対応してへとへとになって帰ってきた桐がやっとの思いの一息吐いたら急に階段を上がる音がしてびっくりしてお茶零して? 次の日朝早い日に寝ようとしたら、丁度隣がどんちゃん騒ぎのパーティーを始め? 玄関ドア以外も含めた扉という扉全部を大きな音を立てながら閉められ!? 謎の胡瓜を叩き折るような音が夜中も頻繁に聞こえてきて!? 靴は自分ちの玄関じゃなく共用の廊下で爪先を響かせながら履くだぁ〜〜!?」


「何故言ってない事まで知ってる!?」


「善の口コミ」


「何となく想像?も言っておいた❤︎ 後は心未ここみちゃんの妄想」



心未がお隣の善くんを指し、善くんが柔らかぁく微笑む

と再び心未のターン。



「爪先鳴らさなきゃ入らないくらい小さい靴しか持ってないわけ? ってかそういう靴で玄関溢れ返ってるから廊下って事」



カフェにて。煙たがられるぎりぎりの声量をキープしきった心未は白目を剥いていた。



「折角上が煩かったらって教えてもらって二階建ての二階になったのに、スミマセン引きが悪くて…。後お茶零したのは自分の所為です」



そもそもしていたのは生活音の話でもない。ただ心未にその長袖のシミ何?と聞かれる→お茶を零したと答える→何で?と聞かれる→びっくりして〜と答えてのこの流れだった。


敏腕記者か。


お茶の件以降は恐らく今までの会話で心未の心の隅に疑問として残っていた件だったのだろう。善くんの謎の想像吹聴も相まって。



「善だよね?」



「えっ?」


そこで心未はやっと自身の隣で張り付いたような笑みを浮かべていた善くんへと刃を向けた。



「善だよね? 桐にこの事故物件勧めたの?」


「心未ちゃん…言葉遣いに気を付ける事をお勧めしてもいー「てめぇの勧めは聞かねぇ」


「やだ〜心未ちゃん、怖ぁ「一回想像してみ? 今私が言った事。この苦情案件の数々。サブイボ立たない?」



二度に渡って台詞を遮られた上に胸ぐらを掴まれる距離まで詰められた善くんが一度目の前のいちごミルクに視線を落としてから私に向き直った。



「桐ちゃん、アタシももう一度探してはみるけど…何かすぐ住めるような所ないの? 社宅とか」









「ありますよ」




入居四週目。




会社の、同じ班の後輩が顔を合わせる度『あれ、前坂さん、また、痩せました?』と一言一句違わず褒めてくれるため、『この会社に社宅はありますか?』と英例文のような返しをした、ら。




「……え…?」



耳を疑った。疑いすぎて眉間に皺がよる。



お昼休みの社内。

後輩の五十子いらこくんは咥えていた緑茶パックのストローを怪訝な顔で離した。



「社宅ですよね? 僕もですよ。カサノイン不動産」


「?」


「入社前説明されませんでした? かなり会社が持ってくれるからいいですよ、家賃は給与から天引きだし…今年からなのかなぁ」



そんなニュースあるか!?と思ったがそれは声にならなかった。



「いらこくん、それ誰に聞けば」




目の前で開かれたパソコンの右上には12:56の数字。



10分くらい、お昼休み延長してもいいよね——

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