デッドエンド②

「喝采しろ! 《大完声エヴォルテージ》!」


 試合開始と同時に、ノーマが術式を発動させた。


「ペチャパイスキー! ノーマが!」

「え、なになに⁉︎ まずいの⁉︎」

 それを受けて、術式の概要を知るギソードが、釣られてユイも焦りを見せる。


「やらせとけ。真価を発揮する前に潰してもつまらないだろう」

「……だな!」

「だね! じゃ、ボクこっち!」


「チッ……!」


 三方向に分かれ、乱戦に臨む“クアンタヌ”。


 自分を餌に彼らを一網打尽にしようと目論んだノーマは、他力本願の策が外れ歯噛みした。


「なァんてな! 油断してる敵はそもそもザコだろ!」

「ノーマ!」

 その隙を突こうとするギソードだが、レイドのインターセプトによって失敗する。


「よくやったレイド! ガラ空きだぜギソード!」


 不可避の魔剣、不生不殺いかさずころさず。致命傷を与えない代わりに躱わすことのできない凶刃を――しかし、ギソードは刃先ではなくノーマを制することで無効化した。


 リーチの差が出た。不生不殺よりもギソードの無銘の方が長いのは、ナイフと刀そのままのスケールだ。付与された術式の効果で半身での構えを取れない分ギソードの姿勢はやや不恰好だが、切先はしっかりとノーマの顎下に触れている。


「っ……⁉︎」

。避けられないってのは、止められないってわけじゃない。そのナイフが狙った場所から逃れられないだけで、オレが動けないわけじゃない、だろ?」

「く、っそ!」


 大きく後退するノーマ。再びレイドが割って入り、ノーマが乱戦から外れるようギソードを誘導していく。


 先のランク戦で猛威を振るった不生不殺。速攻を挑めばこれのカウンターの餌食となり、これを警戒するあまり時間をかけ過ぎれば、《大完声エヴォルテージ》で魔力を増大させたノーマに押し潰される。……先入観、だろう。ジュラ・アイオライトの再来と呼ばれたノーマの得物に、こんな根本的な弱点があるとは考えにくい。


 ……この立ち合いをもって、ノーマの不生不殺が持つ絶対性は永久に損なわれた。



「うぉおおおおおおおッ‼︎」

「「「うわぁああぁぁあぁ⁉︎」」」

 全身に攻撃性の魔力を迸らせて、ユイが陣形を組んだ“イミテレオ”に突撃する。


 小柄な少女の突進と見誤った“イミテレオ”たちは、錐揉み回転をしながら吹っ飛ばされた。


攻城砲キャノン


 空中で身動きの取れない彼らに、ジュラが砲撃を加える。一人を残して魔力置換アストラル体を維持できなくなり、失格する。


「ナイス、ペチャパイスキー!」

「このまま減らしていこう」

「おー!」

「させるかぁっ!」

 “イミテレオ”の増援だ。控えていた十二人のうち、ユイの突破力を鑑みて半数を超える七人が躍り出た。


「くっ……その子に!」

「「「了解!」」」


(さすがシーク、よく観察している……)


 ユイの突進を辛くも耐えたアクター、シーク。ジュラが一目置く観察眼を持つ彼によって、ユイのクセが共有されてしまった。


 未知に挑む冒険者。“イミテレオ”では、修行として採用している。オズマも一年の経験を培ったこのカリキュラムは、咄嗟の応用や初見のアクターへの対応力を大きく伸ばせるものだ。

 その中でシークは、先導として多くのアクターたちの冒険を助けてきた、いわば師匠である。


 シークの号令によって、ユイを取り囲むような陣が敷かれた。


「ユイ!」

「オッケー!」

(なにを……する気だ……?)


 ユイに声をかけたジュラは、“イミテレオ”から距離を取る。目の端で積極的に孤立しようとしているノーマが見えたので、成長を見守るためにあえてそちらへは行かない。結果的に、レイドと一騎打ちを演じるギソードの方へ近付いた。


 わからない、というのがシークの結論だった。取り囲まれては突撃しようにも他方から挟撃に遭うというのに、ユイもジュラもそれを待っていたかのような――


「はぁアアァァァアアァアァッッ‼︎」


 大気を揺るがす咆哮と共に、ユイが指向性のない魔力を放出した。


 円状に広がる魔力の波は、サンドブラストのように触れた先から魔力置換アストラル体を削り取っていく。


(やられた――!)


 ユイの真価は突破力ではなく放出力。データが少なかったというのもあるが、先のアルファ・ザ・ブラボーとの対戦のときを踏まえても、これほどまでに雑で苛烈な魔力の使い方をするとは……いや、考えられなくもなかった。


 常軌を逸した魔力放出、という情報はあったのだ。ただその程度を、常軌と常識の物差しで測ってしまっただけのことだ。


 ジュラを見やると、罠にかかった獲物を見るような、仲間の活躍を喜ぶような、そんな顔をしていた。


「図ったな、ジュラ!」

 消し飛ばされていく自分のアストラル体をよそに、シークは叫ぶ。


 オズマ戦で見せた、悪辣とも言える、相手の思考と頭脳を逆手に取ったジュラの策。もちろん警戒していたが、これほどまでとは。



 ――この時点で、“イミテレオ”の十名が脱落。“クアンタヌ”に有効打を与えられないまま、参加した十九名は半分を割ってしまった。

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