第3話 手がかりはラベンダーの香り?

 瑞希が生徒会を出て行ったあと、扉前のカーテンを閉め、

 三人は手紙の周りを囲んで向かい合った。


「本当に受けるの? この依頼」静香が真剣な顔つきで英一を見つめる。


「差出人が女の子だったら、事件みたいなことは起きないと思うし……もし本当に行き別れた姉妹だったら、協力しないわけにはいかないよ」


「我氏も福沢殿に賛成でござる」


「アンタはそのアイドルに会いたいだけでしょ」静香は遥を睨みつけた。


「できればサインもほしいでござる」


「せめて否定しなさいよ……」静香は頭を抱えた。


 二対一、瑞希を足しても三対一、勝てる見込みは全くない。

 意見が対立した際は、多数決が基本だが、話し合いをすることをどちらかが提案すればひっくり返せる可能性はある。


 そして瑞希は、諦めるように言った。


「私は手伝わないから、全部アンタたちがやりなさいよ」


「ラジャ」


 英一と遥が敬礼をした。瑞希は、また大きく溜め息をついた。


 英一が手紙を見つめてぽつりと呟く。


「でも、どうやって探す? あ……普通に聞けばいいのか。天野くん、その女の人の連絡先知ってる?」


「我が知ってるはずなかろうが……」遥が声を太くして言った。「それに福沢殿、それは相手が大事にしている仮面を無理やり剥がすような行為でござる。あくまでも彼女は二次元がめんのなかの存在……ファンタジーなのでござる」


「そっか、ごめん……」


「わかればいいでござるよ。それに我々がこれからやろうとしていることも仮面の中を覗き見るような行為でござる」


 何か違うのかな……と英一は腕を組んだ。

 とりあえずそのことは置いておいて、手紙の中から手がかりを探すことに戻る。


「やはり手がかりはこのラベンダーの香りしかないでござる」


「でも、それ差出人でしょ?」


「差出人であればそれで良しでござる。見つけて話を聞けばより詳しく事情が知れるでござるからな。そして差出人でない場合はおそらく……それが探している相手でござる」


「なるほど……これは何かのメッセージってことだね!」


「そういうことでござる」遥は頷いた。


「もし、相手も同じ香水をつけているのであれば、何かの動画でそれを紹介しておるやもしれん……最近はVtuberと企業とのタイアップも増えてきておるでござるからな」


「見つけた」


 突然聞こえてきた声に、二人は「えっ」と振り返った。


「源殿、それはどういうことでござるか? もしやメインチャンネルに? いやしかしコヨミ殿はグループの中でも引っ込み思案のキャラだった筈……」


「切り抜き動画あるでしょ。たまたまそこで紹介されてた」


「なんと! それは盲点! いやはや流石の慧眼にござる!」


「手伝わないって言ってくせに」英一がぼそりと言った。


「たまたま動画眺めてたら出てきたから教えただけだし。イヤなら記憶から消して」


 無茶言わないでよと英一は苦笑いを浮かべた。

 静香から件の動画のURLをもらい、英一は遥と一緒に視聴する。


「しかしこれで真相にかなり近づけそうでござるな」


 遥が画面を見ながら呟いた。

 動画内では出演しているVtuberのオフの日の紹介がされていた。三人目に紹介されたのが海月コヨミであり、プライベートの彼女にまつわるネタが紹介されていた。

 特に収穫だったのは、使っている香水の銘柄まで紹介されていたことである。


 動画を見終わったあと、遥が立ち上がってホワイトボードに書き記した。


「まとめるとこうでござるな」


 ①ラベンダーの香りのする香水を愛用している。

 ②性格はわりとおとなしめ。

 ③足がキレイ。

 ④乗り物が苦手

 ⑤ファッションセンスが高い(本人は自覚していない。


 英一はホワイトボードを見つめて呟く。


「わりとオタクに近い性格なのかな」


「そういう人も中にはたくさんいるでござる。コヨミ殿はもともと個人で活動されていたこともあって性格が暗いのはファンの間でも有名でござるよ。グループに所属してからは周りが全員明るいのもあって自分もそうするべきかと悩んでおられたが、最終的にはそれを自分もファンも受け入れて根暗キャラを貫いたでござる」


「熱いファン解説ありがとう」


「ふっ、お主もVの沼にハマるがいい……」


「ラベンダーの香りの香水か……誰か持ってる人いるかな?」


「切り抜きにあげられているくらいでござるから、ファンは持っていてもおかしくないでござるな」


 英一と遥の視線がとある方に向く。


「えっ、何?」静香は若干肩を震わせて言った。


「源さん女の子だよね。香水とかつけてない?」英一が訊ねた。


「ちょっ、それセクハラ! もうちょっとオブラートに包みなさいよ」


「シャンプーは何を使っているでござるか……ぶぶっ!」


「もっと悪くなってんじゃない!」


 静香はひとしきり暴れたあと、鞄の中から瓶を取り出した。


「えっ、これって……」


 英一と遥が瓶を見つめて目を丸くした。


「ファンじゃないけどね。たまたま好きな香水が同じだっただけ……ていうかこれ、もともと人気のやつだし。女子高生なら持ってる子の方が多いでしょ」


「じゃあやっぱり、見つけるのも難しいかな……?」


 英一が訊ねると、静香ははあーと息を吐いた。


「よーく観察していればわかるでしょ。本物か偽物かなんて……」


「ホンモノかニセモノ?」英一は首を傾げた。


「ポテンシャルの話よ。たとえば、ウチのクラスの柴咲さん。あの子は間違いなく本物じゃない」


「そうかな……? 美人だし、みんなから好かれてるけど」


 英一の発言に静香は舌打ちをして首を振る。


「そういうことじゃない。役者は目立ちたがり屋じゃ務まらないってこと。誰かを演じるってことは、ほとんどの自分を捨て去ることだから……正義感の強い人が、悪役を演じても大して怖くないでしょ。むしろ普通のヒトが裏でそういうことやってた方が信じやすいし……実際怖いから」


「無害な人ってこと?」


「自分を隠すのがうまいってことよ。オーラは持ってるけど、敢えて出してないとかね」


「それだけじゃわからないよ」


 静香ははあと溜め息をついた。


「じゃあ大ヒント。これでわからなかったら諦めた方がいいかもね」


 英一はごくりと息を飲んだ。


「オーラを持っていても、それを人から隠すには何が一番簡単だと思う?」


「なんだろう……ずっと笑ってるとか?」


「ガハハハハハハ!」遥が反応して胸を張って大声を出す。


「それはただのバカ」と静香は遥を一蹴し、英一を見つめ人差し指を立てた。


「誰とも会話をしないこと」

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