この理不尽な学校生活に革命を!(仮)

あきカン

第1話 プロローグ【生徒会の実情】

「準備はいいですか?」


 カメラを構えながら男子生徒が目の前を見つめた。

 椅子に座り、福沢英一ふくざわひでかずは、きりりとした目でカメラを見つめ頷いた。


「では、お願いします」


「皆さんこんにちは。生徒会長の福沢英一です。私たち生徒会には毎日のようにみなさんからの意見や要望が寄せられています。一体どんな意見が送られているのか、今回はそれらの中からいくつか抜き出して答えようと思います」


 英一は机に置かれた百枚近い小さな用紙から無作為に一枚選び取った。


「名前は書かれていませんね。匿名生徒さんからのお便りです。


 自分はバスケ部に所属していますが、夏場の体育館が熱くてたまりません。どうにかエアコンを設置してはくれませんか?


 ……そうですね。現状は予算の関係もあり、すぐには『はい』と言えないのが実情です。ですがそういった意見はかなり寄せられているので、僕としても何とか任期の間に学校にかけあって実現したいと思っています」


 カメラに目線を向けて、英一はにっこりと笑ってみせた。


「では生徒会メンバーの紹介がてら他の人にも意見を見てもらいましょう」


 英一はとなりの席でずっと背を伸ばしていた女子生徒に視線を向けた。


「源さんいいですか?」


「はい、ええと……そうですね、じゃあこれにします」


 源静香みなもとしずかは身を乗り出し、流麗な所作でテーブル真ん中の紙を掴んだ。ちらりと目を通し、頷いて読み上げる。


「こちらも匿名さんからです。内容は生徒会に対するお礼の手紙ですね。


 福沢さん、源さん、天野さん。先日は私の要望を聞いていただきありがとうございました。あれから家族とも会話が増え、仲直りできるようになりました。


 ……以前、個別に相談をされたんです。生徒会としては表向き、一人の生徒を特別扱いするのはいけないことだと思ったので、同じ生徒として協力をさせてもらいました」


「こうしたお礼の手紙も生徒会のみなさんには数多く寄せられているそうですね」


 カメラマンの男子生徒が英一にカメラを向ける。


「何か理由があるんですか?」


「そうですね。単純に悩んでいる生徒さんが多いからじゃないでしょうか。勉強も部活も両立させないといけないですし、その中で人間関係に悩んだりすることもあると思います。けれどそうしたことは親に言いづらいこともあると思いますし、友達にも相談できないと感じる人も意外と多くて……そんな時に半ば愚痴みたいにですね、手紙をくれる人もいます。そういう人達にとっては、気軽に色んなことが打ち明けられる存在なんじゃないかと思います」


「私も福沢さんに同意見です。素直な人が多いので、助けたくなりますね」


 カメラマンは静香と英一が二人とも映るように少し後ろに下がった。


「さすが我が校の聖女と呼ばれているだけありますね。ファンクラブもできているそうですが、それに関して一言お願いしてもいいですか?」


「正直……はずかしいです」静香は苦笑いを浮かべた。「目は瞑ってあげてます」


「ちなみに僕も会員です」カメラマンの男子生徒が言った。「非公認ですけどね」


「全員そうですよ」福沢は笑って言った。


「そういえば書記の天野さんにも話を聞いてみたいんですが、今日はいらっしゃらないんですか?」


「いまちょうどゴミを捨てに行ってもらっています」


「それは少し残念ですね……あ、そろそろ時間的にも丁度いいのでこれまでにしましょうか」


「ありがとうございましたー」


 英一と静香は深々と頭を下げた。

 カメラマンの男子生徒がカメラを下げると、ひとっ走りしたような汗をかいた顔で言う。


「いやあー、今回もいい感じでしたよ! さすがわが校の誇る生徒会のお二人ですね!」


「そんなことないですよ」


 英一は目を細めて首を振った。


「じゃあまたお願いしまーす」


 振り返り会釈をして男子生徒が生徒会室の外に出た。

 英一は扉の前に近づいて、ぐるりと静香の方を振り返って言う。


「……ねえ、ボクうまくやれてた?」


 高得点のテストを見せる小学生のような笑顔で訊ねると、静香は深々と背中を

 椅子に預けていった。


「そんなことより、あのカメラマンいつも取り方がいやらしくない? 私の時だけ近づいてくるし、下心見え見えなんだけど」


「素材がいいからじゃないかな」


「そんなのわかってるわよ」


 するとガラガラと扉が開いて少し体型の太い男子生徒が入ってきた。


「ただいま戻りました」


 英一が振り返って、カーテン閉めるの忘れたと呟いて男子生徒を見つめる。


「あー天野くん、もう終わったから普段のに戻して大丈夫だよ」


「ん、そうか……。いやー、今日もゴミが大量だったでござるよ!」


「その喋り方キモい……」静香がうえ、と舌を出して呟いた。


「バレないで捨てられた? 表に出せない生徒からの手紙」


「うむ、問題ない。静香どのへのラブレターでカモフラージュしたでござるからな」


「うん、いつも通りだね」


「どこが?」静香がマジで怖いと顔をひきつらせた。


 英一が懐に入れていたものを手にもって遥に見せる。


「あ、そうだ。またお礼の手紙来てたよ」


「誰からだ?」


「土井さんだよ。ほら、給食であれが食べたいって言ってた……なんだっけ」


「【おばあちゃんのずんだ餅】でしょ」静香が二人の方に体を向ける。「家族がバラバラになりそうなとき、食べさせるように言われたって」


「そうだった。家じゃ作れないから、学校の給食で出たものを持ち帰ってくればそれができるって相談だったね」


「うむ、だが味の再現がかなり難しかったな……」


「さすがに表向きには手伝えなかったよね。家庭科部にお願いして、ちょっと場所かしてもらってね……」


 楽しかったなあと思い出に浸ったあと、

 英一はお礼の手紙ともう一通、別の箱に隠していた手紙を取り出した。

 そこにはこのように書かれていた。


『生徒会長、源さん、天野さん。二年二組の土井さくらです。


 同じクラスの倉本さんから生徒会の皆さんに助けてもらったと話を聞きました。

 私の家族は父と母と妹……そして祖母がいたのですが、去年亡くなってしまい、それから父と母が喧嘩をするようになっていました。祖母はすごく気の強い人で、女手一つで父を育てたこともあって、父はずっと祖母に頼ってなんでも相談していました。祖母に相談をして間違ったことはないと父は言っていました。けれど祖母が亡くなってから、父は悩み事を一人で抱え込むようになりました。母が何度聞いても教えてはくれませんでした。仕事もうまくいかなくなって、私たちに暴力をふるうようになりました。祖母がいないと自分はダメなんだと、殴ったあとはいつも自分を責めるために私たちは感情の行き場を失っていました。


 祖母は生前、いつか父がそうなるかもしれないことをわたしたちに伝えていました。

 父は祖母の作ったずんだ餅がとても大好きだと言っていました。落ち込むことがあっても、それを食べれば父は元気になるそうです。結婚してからも、父は祖母の作るずんだ餅を私たちに隠れて食べていました。

 私はそれを再現すれば父を取り戻せると思いました。けれど私は一度も祖母のずんだ餅を食べたことがありません。父に聞けるわけもなく、私と母は長らく悩み続けました。


 もう私一人じゃどうすることもできません。ですがせめて、ずんだ餅を父が食べくれればもしかしたら祖母のことを思い出してくれるかもしれないと思いました。わたしが買ってきたと父に知られると怒られてしまうので、どうにか給食で出たことにして持って帰って父に渡したいです』


「お父さんが食に詳しい人って聞いて、店で買ったものだったらすぐにバレるから手作りのものしか作れないって後で言われたんだよね」


「たかだか高校の生徒会に送る手紙にしては内容が重すぎるのよ」


「読んで泣いてたくせに」英一がぼそりと言う。


「それな!」遥が両人差し指を静香の方に向けた。


「うっさい! ほら、それさっさとゴミ箱に入れて! バレたらまずいでしょ!」


「ラジャ」




 これはとある高校のただの生徒会のもとに送られる生徒からの依頼から始まる物語。彼らは表向きにはそれを手伝えない。なぜなら彼らは生徒会で、特定の生徒を優遇することはできないからだ。


 そんな理不尽な学校の規則に嫌気がさし、生徒会という身でありながら、彼らは人助けに身を投じることを決意した。


 今日も語られない物語が一つ、生徒会室のゴミ箱に収められるのだった。

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