月とマカロン
及川稜夏
月とマカロン
夜中。
僕は、真彩の好物を買おうと思い立って外に出た。他の誰も、歩いていない。しばらく会っていない本人に渡すことなんてできないから、僕が食べるだけだけれど。
街灯が並ぶ、やけに明るい夜道を、歩いていく。風情がないや。
真彩は、幼馴染だった。生まれて間もない頃から高校を卒業するまで一緒に過ごしていた仲。いつでも何につけても、真彩の方がほんの少しだけ僕より器用だった。宇宙が好きで、宝石が好きで、そして。
思い出しているうちに、コンビニに着いてしまった。中に入れば、覇気のない店員の声。
こんな時に大変だな、と他人事のように僕は思う。結局、いくつかのマカロンだけを買ってそそくさとコンビニを出た。
近くの公園のベンチに座り、思い返す。
マカロンは、真彩の好物だった。些細なことで僕たちが言い合いをしても『マカロン』は休戦の合図だったくらいに。
僕が真彩に謝る時はマカロンを渡すのが常だったっけ。
数年前、念願の夢だった宇宙飛行士になった真彩は、今宇宙のどこあたりに居るのだろうか。
もう一度、真彩に会いたいな。
空を見上げれば、もう日の出が始まっている。
煌々と輝く太陽の隣に、丸くて真昼でも肉眼で見える星がある。ちょうど、このマカロンのように丸くて大きくて、宝石のように眩い。それは月だ。
地球の重力に惹かれすぎた月がもう、すぐそこに迫っている。僕は、できることならば最期に真彩の手を握りたかった。代わりに、月のような彼女の好物を食んでいた。
月とマカロン 及川稜夏 @ryk-kkym
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