第14話 オーロラトラウトサーモンの採卵準備
本来、サケマス類は10月から12月頃の秋季に産卵するのだが、このオーロラトラウトサーモンの産卵期は決まっていない。春の時も有れば夏でも秋でも冬でもその年によって違うのだ。
なので婚姻色が現れるのを注意深く観察しておかなければ準備が後手に回って慌てふためくことになる。
今回は紗耶香が気が付いてくれたから良かった。
この婚姻色が現れ始めたら産卵準備の為に別な池に移して置く。魔法で鑑定して産卵真近な個体を選別して転送するのだ。
これが以前だったら胴付き長靴を履いた人達2~3人で池に入って池幅いっぱいの網を引いて池の上流に集めて人の手で選別しなければならなかった。【転送スキル】を入手出来たおかげで池に入らず、網を引かずに済む。有難いことだ。
今回は紫苑に初めから参加させて、覚えてもらう事にする。
俺の能力の70%をコピーしたはずだから、鑑定も転送も使えるはずだ。というわけで親魚用の池を清掃魔法で綺麗にして浄化しておいた。排水口に5㎝厚の木の板を設置して適度な深さになるように何枚かの板で調整する。板と池の溝の隙間にボロきれ(ウエス)をマイナスドライバーで押し込んで水漏れを防ぐ。池に水を入れる。婚姻色の出た親魚にはもう餌を与えない。与えても食べないし池底に溜まって腐ってしまう。自然産卵しないように雄と雌は分けておく。
雄は口が曲って精悍な顔つきになる、所謂【鼻曲り】になる。一方雌は腹が膨らんでくる。触って堅いのは卵が筋子状態だ。産卵可能な個体は触ると軟らかく、押すと産卵口から卵が出て来たりする。
でも俺の所では鑑定で判断する。充分に熟した個体を強制収納でストレージに収納すれば魚体を傷めずに卵も傷つけずに済むのだ。鑑定スキルが無いと、まず魚体の色が黒くなったもの(サビが出たとも言ったりする)を直接手で触って判断して、堅い木の池の蓋の上で片手で魚の尻尾の方を掴んで、頭を蓋の上に置いて棍棒で頭を殴って殺す。魚が暴れて卵を傷めないようにする為だ。
この手間が省けるのでスキルや魔法を使えるのは有り難い。
今日選別した魚は5年魚で体長80㎝程度のものだ。俺が養魚場を始めてからずっと一緒だ。これより小さい魚は鑑定で選別して既に出荷してしまってある。
親魚の大きさを揃えると卵の大きさも、数量も大体同じになるので管理し易い。
今日選別したものは約5日後に採卵適期になるのでそれまでに孵化槽や孵化を準備しておかなければならない。
だが今夜は留守番スタッフの打ち上げパーテイーだ。
大いに楽しんで貰うとしよう。紫苑は既に料理に取り掛かっている。酒は今夜だけは缶ビール3本迄は飲んでよしとする。酔っぱらって下手な階層に転移されたら拙いからだ。何しろここは【A級ダンジョン】の【毒竜】ダンジョンの最下層なのだから。
桜がマイクロバスを手配してくれて参加メンバーを集めて連れて来てくれた。ダンジョン入口前に車を停めて皆を降ろして、マイクロバスには一旦帰って貰う。パーティーが終わったら電話で来てもらって1人ずつ自宅に送り届けてくれる手筈になっている。
桜には後でお礼をしないといけないな。はっきり言って俺はそこまで気が回らなかった。流石、接待経験豊富な桜だ。
パーティーが始まった。
メニューは【オーロラトラウトサーモン】の刺身と塩焼き。そしてお味噌汁。
自分達が世話した魚がどんな味なのか食べて覚えておいて欲しいのだ。
そして【炎竜】と【氷竜】の合い挽き肉ハンバーグに【エンペラー・コールドイエティのステーキ丼だ。これがまた超絶美味しい肉だった。お得意様の料理店、レストランにお土産に持って行ってこの肉に良く合う料理法を生み出して貰おうと思う。
そしてデザートに冷凍ミカンの実と超熱帯産パイナップル。
評判は上々。
桜が感動した面持ちで感想を述べる。
「本当に美味しい料理を食べさせて頂きました。紫苑さんの料理の腕前は本物です。私も坂本長官のお供をして世界中の高級レストランの料理を食べて来ましたが、紫苑さんは世界でも1,2位を争うレベルですわ。今日は本当にありがとうございました。機会がありましたらまた呼んで頂きたいと存じます」
桜の感想に続いて皆が口々に褒め称える。
紫苑を本物の人間の女の子と思いこんだ男共は桜の感想を聞いて
自分が彼女の隣りに並んで立てる人間じゃないとがっかりして告白を諦めた様だった。
(ごめんな、紫苑は人間じゃないんだ。紫苑にはこの養魚場を管理してもらわないといけないんだ。彼女にするのは諦めてくれ)
心の中で彼らに謝罪しておいた。
食事会を終えて皆帰って行く。紗耶香には残って貰っている。
紫苑の服を買ってきてもらっているのでそれを紫苑に渡して着方を覚えさせて貰う為だ。
パンツやブラジャーの着けかたを俺は知らないしな。
同年代の女の子同士として仲良くして欲しいのだ。遺憾!俺は紫苑の父親の気持ちになっている。
「桜さんって良い人ですね。私のことを誉めて下さいました。大人の女性って感じです」
紫苑がしみじみ言った。
「本当だね、おじちゃんの4歳年下って聞いてたけど、出来る大人の女性って感じね。憧れちゃう」
紗耶香も紫苑に同意した。
2人の思いにホッとしている俺がいる何でだろう?
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