A級収集人は引退出来ない

霞千人(かすみ せんと)

第1話 A級収集人 秋葉隆史

 世界中にダンジョンが出現してから30年経つ。

今ではダンジョン無しでは生活が成り立たないほどダンジョンから産出する資源に頼り切っている。モンスターから獲れる魔石は新しいエネルギーとして石油、原子力にとって代わる勢いだ。

そのおかげで収集人の仕事が成り立っている。日本では採集人とも冒険者、探索者とも呼ばれていたこの仕事だが今では収集人に統一されている。


 俺は秋葉隆史36歳。この俺も20年前に日本にダンジョンが出来た頃からダンジョンに潜って、モンスターの魔石、肉などの素材、ダンジョン特有の鉱石、薬草、食物を収集して来た。収集人にもランクが有って、俺はA級だ。A級の上にはS級があるが日本人は4人しかいない。俺の実力はS級に負けないと思っているが敢えてA級にとどまっている。


この世界ではステータス画面なんて出てこない。収集人になるには天啓を得なければならない。詳しい原理は判っていないが大体15~16歳の頃に、手の甲にE、D、C、B、A、Sの文字が浮かび出て来る。最初にEかDが出て経験を積むたびに高位の級に上がって行く。Sまで上がるのにはA級ダンジョンを5か所制覇しなければならない。この印が無いとダンジョンに入れない。物理的に排除されるのだ

現在俺はA級ダンジョンを3ヶ所制覇しているが残りの2ヶ所は敢えて制覇せずにいる。


なぜならA級収集人が潜れる最強のダンジョン【ポイズン・ダンジョン】が気に入っていてそこの最深部に居を構えてそこで最期を迎えたいと思っているからだ。

そこで採れる鉱石も食物も高価で買って貰えるので、わざわざ危険なS級ダンジョンに行かなくても良いかと思っている。

他人には向上心の無い奴だと言う奴もいるが、そんな奴は口先だけでA級にも上がってこれない奴ばかりだ。

俺としては出来れば収集人を止めて引きこもりたいのだが、俺の代りを任せられる人材が育っていない。才能の有るやつはとっととS級に上がって外国に行ってしまうのだ。


なので引退したいと言ったら国や、素材を買ってくれる店や会社から全力で引き止められている。

他のダンジョンで採れる素材や食物ではここのダンジョンで採れるものとは比べられないくらい品質が落ちるのだそうだ。


俺が独占している食材は【ポイズン・ダンジョン】の最深部に有る湖に生息する【オーロラトラウトサーモン】だ。別名、毒鱒ポイズントラウトと言って猛毒を持つ。鮭鱒の仲間に分類される魚だ。凄く美味な魚で他の魚や鳥、カワウソなどに狙われる。5㎝の大きさになるまでに7割の稚魚が食われてしまうと言われている。

その為体長5㎝位になると毒を持つ川虫や植物の実を食べて身体に毒を貯めていくように進化したと言われている。

その毒はフグ毒よりも強く、内臓や血液に多く含まれる。体長10㎝の幼魚でも30人の人間を殺せるほどだ。


毒虫の居ない地下水を使って養殖すると毒の無い非常に美味な【オーロラトラウトサーモン】が育つ。

1㎏当たり2万円以上で買って貰える。


地下水は水温がほぼ一定なので卵から孵化するまでの期間(日数)が計算しやすいメリットがある。


なので俺は養殖場を作って育てて売っている。今では俺の年収約5千万円の半分を占めている。


年収の半分はモンスターの素材と、ダンジョン産の果実とか鉱石、薬草を依頼を受けて収集して納めている。時々ドラゴン等の強いモンスターの討伐をして年収を越えるボーナスを得ている。何時収集人を止めてもいいように、老後の生活費も既に貯めてある。養殖業だけでも充分に豊かな生活を送れるだろう。


ダンジョンの有難い所は魔法が使用出来て、魔石を利用する事で停電の影響を受けない事だ。

普通なら養殖に必要な地下水をポンプで汲み上げて養殖池に流すようにしなければならない。魚は水に含まれている酸素を鰓で取り入れて呼吸している。もしも停電で水が流れなくなると酸素が無くなって死んでしまうのだ。その為停電になったら、即座に予備の電源として、エンジンで動かす発電機に切り換えないといけないので、誰かが年中無休で見張っていないといけない。


それは餌やりも同じだ。魚が小さい頃は1日に8回くらいに分けて餌を与える。魚が大きくなるにつれて1日2~3回まで減らせるが自動給餌機でも設置しないと人がやらなくてはいけないのだ。予備電源については停電になった瞬間に切り換えられるシステムを導入しておけば問題無いが、エンジンへの重油とか軽油とかの燃料の補充は人の手でやらないといけない。

生き物を飼うのならなら人手が無いと管理人はは年中無休を覚悟しないといけない。


地下水には酸素はあまり含まれていないので曝気と言って高い所から地下水を落として空気中の酸素を取り入れて不要なガスを排出しないといけない。俺の場合は魔石に空気魔法を付与してブクブク細かい泡を出すようにしている。これで酸素を補給する。新しい水の流れが止まっても窒息死することが無い。

元々電気ポンプを使ってはいない。魔力で動くようにしてあるので停電の影響は受けない。


ついでに浄化魔法も魔石に付与して毒素も排除している。これで卵から孵化させる時に、死んだ卵に白い綿みたいな水凄菌がくっついて生きてる卵まで窒息死させることが無くなる。

昔はマラカイトグリーンと言う薬を溶かして流していたらしいが毒性が有るので、食用魚には使用禁止になったという。魚に着いた水凄菌にはほとんど効果がなかったようだ。

浄化魔法だと効果が大きい。寄生虫も着かず、病気にもならず、どの魚も綺麗な状態を維持出来る。抗生物質などの薬物塗れになることも無い。魔法さまさまだ。


ステータス画面が表記されないので他人からは何で俺がA級ダンジョン最深部で暮らしていけるのか謎だと思う。

実は俺は有能なスキルを複数持っている。

ステータス画面は出ないが、所有しているスキルとスキルレベルは脳内に記憶されている。これは他人は判らない。スキルレベルはSが最高値だ。


1、浄化スキルS

(死霊系モンスターの討伐、毒を有するモンスターの討伐に非常に効果が高い。勿論毒、ウイルスなども消滅させることが出来る)このスキルは浄化魔法として魔石に付与して魔道具に出来る。

自分に結界を張ってその内部を浄化することで俺は生きていられるのだ。

2、資材探知鑑定スキルS(有能なものを探せる。食用か薬用か毒の判別が出来、最適な収集方法が判る。相手がモンスターの場合最適な討伐方法が判る)

3、強制収納、時間操作、解体機能付き【ストレージ】S

 (強制収納は生き物を入れられないストレージに強制的に収納してしまう事で、即死させて死体を収納する。最強の武器になるのである。ここの階層主の毒竜ポイズンドラゴンも瞬殺出来るのだ)但しダンジョンでは解体せずに済むので、解体機能はダンジョン外での熊とかの駆除依頼を受けたときぐらいしか利用していない。

4,魔法付与スキルS

5,魔力電力変換スキルS(電気で動く電化製品を魔力仕様に変換出来る。これだけでも食っていけると思うだろうが、人間の科学力を馬鹿にしてはいけない今では魔力仕様の製品が工場で大量生産されている。

(ダンジョンの外にも魔素が有って魔力が使えるし、魔法も使える)


収集人はモンスターの魔石を収集して貢献しているのだ。

俺は俺が使う電気製品を魔力仕様にして使っている。最初のころは重宝したものだが、今では無用の長物に成ろうとしている。

その内に魔石も工場生産されるかも知れないね。


あと何個かスキルを保有しているが追々紹介することにする。


これらのスキルは、収集人を始めてから10年以内に取得できた。

今後も何かしら取得できるかも知れない。

さて今日の注文分の配達に行って来るとするか。


アルバイトの留守番の新人収集人に餌やりの時間と池ごとの餌の違いをメモし、餌量を指示して鳥や害獣盗っ人が敷地内に入らないように結界を張って浄化魔法を付与した魔石を点検して転移装置を起動してダンジョンを出た。

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