母と娘と時々、夫。

糸の色

第1話 旅行前の憂鬱

 明日から家族で旅行に行くのだが、私には旅行前に逃げ出したくなるほど憂鬱なことがある。


 それは、パッキング。

《パッキング》という単語の響きは何となくカッコよく感じるのだけど、響きに騙されちゃあ、いけない!!


 出来が良いとは決して言えないが、一応私は「母」である。

私の頭の中では、起こり得る可能性は低いが、決して起こらないとも言えないリスクが何パターンも想定される。

例えば、娘が食べ物を溢して洋服が汚れるかもしれない。

現地が思っていた以上に寒いかもしれない。(逆も然り)

体調を崩すかもしれない等々。


 この全てに対応できる準備を含めて、《パッキング》なのである。

もはや戦いと言っても過言ではない。

旅行の前にひと戦である。


 そんな私を尻目に、夫はものの10分程度でパッキングを終える。

夫は自分のものしか用意をしない訳だから、そりゃ早く終わるのであろう。


 正直、ムカつくのである。「良いですね、ご自分の荷物だけ用意すればいいんですもんね。」と心で毒づきながら、私は何パターンものリスクに備えてパッキングを行う。


 これが、「女性脳」と「男性脳」の違いなのかもしれないし、「母親脳」と「父親脳」の違いとも言えるかもしれない。


 とは言え、明日の朝になれば私は夫が運転する車の後部座席で、目的地に着くまで娘と一緒にお菓子をつまんでいるのであろう。

しょうがない。夫の一件は大目に見てやるか。

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