強がり

のぞむ

第1話

 転校することには最後まで反対した。家族の元を離れて、隣のそのまた隣の市にあるおばあちゃんの家で暮らすのが嫌とか、そういうことじゃない。むしろそれはそれで少しわくわくした。ただ、いじめに屈したみたいに、あいつらから逃げるみたいになるのが心底嫌だった。たまたまいじめの標的にされなかっただけの、教室の隅っこでいつもびくびくしていたような奴らの中にまで、僕に対する哀れみが生まれるかもしれないなんて想像すると、屈辱だった。やり場のない苛立ちで暴れ出してしまいそうだった。

 あと一年耐え抜けば、中学校を卒業してしまえば。そう思っていたけれど、結局この春から別の中学校に通っている。しくじった。涙を流す両親の目の前で、同じように涙を流してしまった。それが決め手で押し切られた。でも仕方なかった。強がりだけで強くなれるなら、なんの苦労もない。覚悟を決めて耐え続けていても、辛さは変わらない。その辛さよりも、可哀想な人間だって思われることが嫌だったってだけで、逃げ出して構わないと思えたならば喜んでそうしたかった。とうとうあの日、限界を迎えてしまった。涙を見せてしまったのはたまたまだと思っているけれど、案外僕は、心の底から泣きたかったのかもしれなかった。

 僕の肩を優しく掴んで、いつものように潤んだ瞳で、いつものように無言で、ただ見つめるだけで何かを訴えてくる父。その隣で俯いている母。二人の遥か後ろでテレビゲームに夢中のつもりの兄。コントローラーを握る手が、指が少しも動いていないのを僕は知っている。その光景全てが、あの日、無性に辛くなった。一番身近な人たちが、僕以上に僕のことを案じていると言うことが、胸に刺さって痛かった

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

強がり のぞむ @yohiranoniwa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ