第17話 心根のきれいな男

 拠点が整備され、食料が量産されていく。

 備蓄しやすい穀物を中心に生産し、とりあえずサイロを作ったものの、面倒くさいので魔法のバッグに直接詰め込んでいる。トップがアリアだと何か困る度に頼んでくるので話が早い。早過ぎて褒めたらいいのか呆れたらいいのか分からなくなる。


 カロリーの高い陸稲米も生産して、精米までしてから魔法のバッグに収納していく。腐らないし虫もいないので最高の保存環境である。

 一応バッグの存在を知っているのは俺とアリア親子だけだ。サイロまで運ばせるがいくら運んでもいっぱいにならない不思議な状態。気づいてる奴もいるだろう。


 家も建てた。小さな木造の家。

 外から見るとしょぼいシェルターだが、奥の扉を開けた先は広い広い快適空間だ。水洗トイレや循環風呂が完備され、空間を切り離して別の入口を設定する事が出来るので無駄がない。

 とても快適だ。アリア親子と馬鹿なことを話して、取り寄せた本を読んだり音楽を聞いたり、体を使ったゲームもテレビゲームもある。こたつに入って鍋を食い、だらだらとお茶を楽しむ。ここにいると戦いなど考えなくなる。



 何故前世では快適性を求めなかったのか。

 それは俺の周りには信者しかいなかったからだ。快適な暮らしなんて考えもしなかった。

 あの時アリアはどうしていたのか?シエラは?俺があんな世界を作るのに賛同したのか?

 分からない。気がついたら俺は信者に囲まれながら孤独だった。誰にも止められず、誰にも求められないまま、自分すらも永遠に眠る様な世界を作ったんだ。


 目を覚ましたのは閻魔様(仮)の所だった。

 今まで気にしていなかったが、何故俺は死んだんだ?そうならない様にしていたはずだ。

 あの時が止まった世界はどれだけ続いてから終わったんだろうか?俺が眠ってすぐ?それともそれは、千年、万年続いてからの可能性も?

 カプセルに入った人だった何か。海すら埋めて地の全てに並んだあれらの感謝のエネルギーは、全て消費されたんだろうか?

 終わらないはずの世界を終わらせたのは何だったんだろうか?

 考えた所で答えなどある筈もない。火鉢の上で膨れた餅を拾い上げ、熱湯に潜らせてからたっぷりのきな粉を付けて食べたら全部忘れた。




 そんなのんびりとした生活が春の終わりまで続いた。初夏を前にして、大軍が領都を囲んだのだ。

「ここは敵軍には見つかっていませんが、難民が流れ着いてます。とりあえず保護しておきましたけど」

「村は焼かれたと言っていたか?」

「はい、火を放たれて虐殺があったようです」

 前回と同じって事は動機も同じなのかな?それにしては数が多い。いくら侯爵様でも前回は文字通り全滅したのだ。やすやすと立て直して更に大軍というのはキツイだろう。前回は被害に合っていない村が襲われたならルートも違う事になる。

 もしかして……、俺が見せた金鉱石が効きすぎたのか?国規模で分捕りに来ちゃった?俺やっちゃいました?


 まぁ、今度は滅ぼされてから行けばいいか。負けて滅んでもらってから、予定通り誰かをレジスタンスに仕立てよう。

 そしてレジスタンスの資金源が隠し金鉱の筈だと思わせれば、終わらない戦いの始まりだ。

 後は陣営を乗り換えていけば伯爵家が滅ぼうが国が滅ぼうが関係ない。この土地でずっと戦いが続くだろう。



「今度も戦うんですか?」

「ん?いや、敵が多すぎるだろう。今回はどうしようもない。父上も流石に降伏するんじゃないか?」

「そうですか……」

「戦ったらここにいる難民達も壊滅するだろう。前の時と違って今のあいつらとは半年付き合ってるんだ、それは嫌だろう?」

「はい……」

 なんだその態度は、お前もしかしてガチで俺を戦わせたいのか?


「本当に無理だぞ。何か思うところがあるのか?」

「………ルカ様。ルカ様はあの街に情は無いんでしょうか?ご家族も残っています。本当はその気になれば犠牲を出さずに勝てますよね?」

「あのな、そんな事をしても感謝が集まらないだろ。無理やり助けても一時の感謝だけで終わりだ」

「そんな事ありません!きっとみんなずっと感謝してくれます!誰も感謝しなくても私が毎日感謝します!」

「あの敵軍を俺の能力で滅ぼせっていうのか」

「殺さずに解決してください!ルカ様なら絶対出来ます!わたし信じてますから!」



 めちゃくちゃ言いやがる。ちょっと我儘を聞きすぎたか?

 便利な奴だが別に何が出来るわけでもない。切り捨てても感謝集めには影響がない。

 だが、ここでアリアを切り離すにはあの空間が快適すぎた。あれを維持する為なら路線変更くらい仕方ない……かな?


 自分のやり方を否定されたのに、悪い気分じゃなかった。思えば半年前に戦った時もそうだった。

 俺は止めてほしかったんだろうか?

 俺って実は根っこの部分でいい奴だからな、本当はみんな幸せに過ごしてほしいんだ。こんな事、本当はしたくないんだよ。



「ポイント交換発動、超強力下剤、ガス散布タイプ」

「ちょーーっ!ちょっと待ってください!」

「なんだよ」

「いくらなんでも外道過ぎませんか!?それに5000人分の脱糞なんてどうするんですか!?」

「平和でいい手だろ?それに放っておいても飯食って脱糞してるんだ。穴掘った便所でぶち撒けるかズボンにぶち撒けるかの差でしか無い」

「女性も!女性もいます!」

「しらんがな。あいつらは殺しに来てるし既に虐殺もこなしてるんだぞ」

「あーうー、そうだ!それだと英雄的行為になりませんよ!感謝が集まりません!」

「はぁぁ?……まぁ、そうかも」


 面倒くさいな、相手を殺さずに英雄的勝利だと?

「ん~~~、ポイント交換発動、洗脳、広範囲、非接触」

「待ってー!待ってください!」

「なんだよ、いい加減にしないと怒るぞ」

「出る言葉が危ないんですよ!もっとこう、力を示して降伏させるとか無いんですか?」



 細かいなぁ、あんまり魔法丸出しだと後が困るんだよ。なんでも頼られて当たり前になっていくのは嫌だし、前回と同じになるのも不味い。

「演出ねぇ。ポイント交換発動、演出、偽装、レンタル、低コスト」

「微妙にセコイですね」

 

 演出プラン      時価

 偽兵1時間  100人   100P

 偽騎士1時間 100人 1000P

 偽魔兵1時間 100人   100P 

 偽巨兵1時間   10人   300P

 集団幻覚1分      1000P


 色々並んでいるが使えるのはこのあたりかな。

「偽魔兵で決まりだな」

「英雄じゃなくて地獄の使いになっちゃうんじゃないでしょうか」

「注文が多すぎるぞ。う~ん、大量に引き連れるんじゃなくて上手くやるか」


 ここでふと思い出した。演出といえばあれだ。『完全回復』だ。あの禍々しい儀式を見たら腰を抜かすんじゃないか。

 同時に思い出すのがスラムのガキ。あの妹には既に治療を10回以上施し、点滴で栄養補給を続けている。なのに一切改善が見られない。

 あれはおかしい。治療の重ねがけは瀕死の重病人でも一発で治す効果があるのに、一切回復の兆しがない。にも関わらず死ぬこともない。

 ゆっくり治療するつもりだったが、今回演出も兼ねて完全回復を使ってやろう。

 前世では放置してしまったが、今回はしっかり見張っておけばいい。おかしな様子を見せたら始末するつもりで見張ろうと思う。






 一応プランは決まった。アリアの希望通り、怖がらせて引かせてやろう。

 まぁどうせ少し引くだけで完全撤退はしないだろうけど、それはそれだ。





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