第13話 相続争い開始

 ぐっだぐだの葬儀が進む。恐らく今頃叔父上は信頼できる部下を武装させてこちらに向かっている所だろう。少し前に忍び込んだ時に久々に顔を確認したが、悪役貴族というより悪徳商人みたいな顔でなぁ、俺も悪役顔なんだろうか?割とイケてると思うんだがな?


「どけ!卑怯にも父上を暗殺して爵位を簒奪したのはあいつだ!邪魔するものは容赦せんぞ!」

 葬儀も終わる頃、やっと叔父上が来たようだ。戦いの経験が無い連中が騒ぎだし、逃げ出す者、見物する者、守る者に分かれる。一部の親族はいざと成れば裏切りそうなので離れて欲しい。


「お兄様!叔父様が剣を持って迫っています!」

「大丈夫だよシエラ。叔父上はあまり知恵の回る方じゃない。先程まで式に参加していたんだから、僅かな手勢で奇襲を仕掛けただけだろう」

 俺なら前もって傭兵集めて襲撃するけどな。


 お手並み拝見と見物に回ったが、叔父上の私兵はたったの5人しかいなかった。相手は仮にも伯爵だぞ?警備に止められて終わりだろうと思ったが、何故か警備の連中は参加者を守るだけで襲撃者を攻撃しない。これは?意外と手回ししていたのか?



「お前ら何をしている!あれを止めろ!」

「申し訳ありません。現在正式な伯爵は不在ですので、継承権を持つ方同士の争いには参加出来ません」

 父上の言葉に冷たく言い返す兵士。まぁ父上が毒を盛って、成功して大喜びってのは誰の目にも明らかだからなぁ。

 狼狽える父上の姿がクッソ惨めで笑いがこみ上げる。駄目だ…まだ笑うな……。

 叔父上が父上に迫る。父上の側近は一応ナイフを抜いて戦ってくれているが、まともな武器は持ち込めていないし、相手の側近と睨み合いをしている。両方とも決着つくの待ってるだろあれ、本人たち以外は全員やる気ねぇじゃねぇか。


「兄上!父上を謀殺した報いを受けろ!」

 叔父上が昂って演技臭い様子で剣を振り上げた。慣れない剣を格好つけて振り上げるから何もしなくても転びそうだ。

「あぶな~い!」

 後ろから飛びついて叔父上を止める。ついこのまま息の根を止めたくなるが我慢だ。


「叔父上!どうしてこの様なことを!退いてください!話し合いましょう!」

 剣を掴んで揉み合った感じで肩の辺りをぷすりと刺した。取り上げるつもりだったけどつい刺さっちゃったんだよ、そういう事にしといてくれ。

 叔父上は痛い痛いと大騒ぎしながら部下と共に退いてくれた。よしよし、これで次は兵を整えるだろう。最初からやっておけと言うのだ。



「何故やつを逃がした!捕らえて殺せ!」

「父上、あの方は私の叔父ですよ?その様な事を出来るわけがありません。私は家を出ます」

「貴様なにを!待て!」


 折角戦いが起きるのにお前の側に所属していてどうする。

 叔父上は伯爵の補佐をしていた父上と違い、伯爵から子爵位を貰って幾つかの村を治めている。寄り子と同じ扱いだな。それなのに代官を使って自分は領都に住んでいるんだから、あいつの鬱屈した思いは見え見えだった。

 帰ったら村の男を徴兵するだろう。厳しい徴用もあるだろうな。小さな村は立ち行かなくなる。かわいそうな村人だが、一方で兵士になった男たちは他の村からの略奪で稼ぐ事が目的になるわけだ。


 困った民がいっぱい生産される→領民を助けてきた実績と信頼の俺が現れる→俺は両方の勢力とも縁を切った正義の戦士→俺を頼ってくる→颯爽と助ける→感謝!みんなハッピー!

「うへ、うへへへへへ。やったぜ」

「お兄様?これからどうなるのでしょう?」

「ん!?うん、まぁまず父上が負けることは無いだろうが、どちらが勝つにしろこの戦いに正義はない。俺はここを離れて民を守る」

「わ、わたしも!」

「シエラ、父上には味方がいない。母上達の言葉も聞き入れないだろう。お前がお諌めするんだ」

「お兄様がそう言うなら…わかりました」

 ええ子や、大天使は伊達じゃない。どうしようもなくなってから俺が助けてやるからな。


「シエラ、大好きな馬がいただろう?俺が出ていく前にマッサージでもしてやろうかな?よくなるかもしれない」

「え、でもこんな時に」

「あーマッサージしたいなー!マッサージしたら治る気がするなー!」

「あの、じゃ、じゃあお願いします」

「具体的に何を?馬がどうなって欲しい?」

「え?え?馬が元気になって欲しいのでマッサージお願いします?」

「任せろ」

 今はこれだけ。




 屋敷に戻って身支度をする。これからは常に鎧と剣を身に着けた流浪の戦士だ。かっこいいだろう?俺はそういうの結構いいと思うんだよ。自由騎士とか名乗っちゃったりしてさぁ。

「ルカ様!あの後どうなったんですか!?」

「あ、そうだお前がいたな。叔父上と父上が戦う事になったから俺はもう家を出ることにしたんだよ。お前どうしようか?」

「連れてってくださいよ!こんな所に置いてかないでください!ルカ様のおかげで私は下積みもしてないんですよ、絶対イビられます!」

「まぁいいけど」

 快適生活の為に我儘を願わせよう。トイレとかまじ辛いんよ……。


 身支度を済ませてから厩舎に移動してシエラの愛馬に能力を使った。前世では1歳若返らせるだけだったが、今回は全盛期に復調させた上で老化の緩和と体力増強を積んだ。

 老化を弄るのは安いのでこれでも合計300P弱だ。馬一頭には高いんだが、これでしっかり妹を守ってくれよ。


 自分用にも貧相やつを一頭選び、アリアに不満を言わせて強化を施した。こっちは程々。




「行くぞ!民が俺を待っている」

「早く何処かに落ち着きたいですねぇ」

 アリアを後ろに乗せて旅立とうとしたら怖いだの危ないだの騒ぐので、仕方なく前に座らせて後ろから手綱を握る激ださスタイルでの出発になった。

 俺の方がデカかったらもうちょっとサマになるんだけどなぁ。

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