兄貴がパンケーキを焼くのを妹は応援します!

秋犬

第1話 朝っぱらからうるさいんだよ!

朱美あけみ! パンケーキを焼くぞ!」

「はあ!?」


 相変わらず人の布団を引っぺがして日曜の朝っぱらから寝言みたいなことを言い出したのは、うちのボケ兄貴こと相模謙介さがみけんすけだ。


「あのさあ、私来週模試だから勉強したいんだけど」


 大体、私は花も恥じらう受験生なのだ。悠長に兄貴とクッキングしている暇もなければ義理もない。暑さもすっかりなくなったこの季節、指定校とかで進学を決める奴が出てきて私としては何ともヤな感じなのだ。


「勉強なんか1日休んだくらいでどうにもならんから大丈夫だ」

「嫌味? それ」

「嫌味に聞こえたら謝るが、それよりもパンケーキだぞ!」


 ああダメだ。こいつは一回「こう」と決めたらそういう奴なんだった。


「……はいはい。それにしても何で急にパンケーキなん?」

「ふっふっふ、なんとジュンさんがこれからうちに来るんだ!」

「はあ!? それを先に言いなさいよ!」


 私はベッドから跳ね起きた。


「ちょっと、それ決まったのいつよ!?」

「昨日の夜中だ」

「そんなしれっと決めないでよ!」


 ジュンさんとは、要は兄貴の彼女だ。前にちょっと縁があって、それで一目惚れした兄貴がコクってめでたく付き合っている。ちなみにジュンさんは私とも面識がある。


「今日親がいないって言ったら、じゃあ家行っていい? って言うからいいぞって」


 確かに、今日はパパもママも夜まで帰らないはずだ。


「私がいるじゃん、私が!」

「お前は模試だと思ったんだけど……来週だったんだな、ははは」

「ははは、じゃない! 気まずいじゃん!」


 ああもう! この天然大魔王が!

 確かにジュンさんは知り合いだけど、兄貴の彼女と三人で家にいたくない!


「大体、それとこれとパンケーキに何の関係があるのさ!?」

「朱美、もうすぐ何の日だ?」


 質問に質問で返すなよ、と思ったけどこいつにそんな突っ込みしても仕方ない。


「ええ、秋の全統模試?」

「模試から離れろ。世間では何やってるんだ? 菓子売り場とか、コンビニとか」

「ええと……ハロウィン?」


 すると兄貴は手を大きく叩く。いちいちムカつくな。


「その通り! もうすぐハロウィンだろ?」

「ハロウィンだから?」


 面倒くさいのでしばらく兄貴の自説を聞くことにした。


「ハロウィンと言えばお菓子だろ、お菓子といえば甘い物、甘い物と言えばパンケーキ。せっかくジュンさんがうちに来るんだから、おいしそうなパンケーキを作ってあげたいじゃないか」

「ふーん……」


 全然大した理由じゃなかった。

 でも、手作りのパンケーキでジュンさんをもてなしたいという気持ちは伝わってきた。


「だから一緒にパンケーキを作るぞ!」

「じゃあ一人でやりなよ」

「一人じゃ寂しいだろ!」


 ……あー、全く勝手な兄貴なんだから、もう。


「それに俺、パンケーキ作ったことないから不安だ!」

「胸張って情けないこと言わないでよ……わかった、起きるからあっち行って」

「いぇい!」


 そう叫ぶと兄貴は勢いよく部屋から出て行った。

 本当にこいつは大学生なんだろうか……?

 それとも、私も大学生になったらあんなアホになってしまうのだろうか?


 まあいいか、恩を着せて後でなんかタカってやろう。

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