しらない

ゐ己巳木

第1話

俺さあ、この前久しぶりに中学の同窓会があったんだよ。


――会社の中休み、隣の席の同僚が話しかけてきた。


それでさ、みんな顔見知りなわけじゃん。

そりゃあ、少し変わったなって奴もいるけど、声とか雰囲気で、「ああ、あいつだな」って気づくじゃん。


知らない人がいたんだよ。一人だけ。


みんなに聞いてみても、〝なんでお前知らないの?〟みたいな顔されて、白い目で見られるだけなんだよね。


怖くなっちゃったんだけどせっかくの同窓会だから、そのことはすぐに忘れたんだよ。それでお酒とか吞んで、ひと段落したところで、誰かが


「みんなに怖いものってある?」


って。落語みたいだよな。ふとさっきの知らない人を思い出して、探したけどどこにもいない。


みんなに聞いても〝しらない〟の一点張り。ホント変な同窓会だったよ。


  …………… そんな同僚の話を、俺はあまり聞けていなかった。


そもそも、なんでこの人は初対面の俺にこんななれなれしく話しかけているのか。


なんで俺は〝しらない〟人としゃべっているのか。


正体のわからない隣の同僚が急に怖くなってしまい、俺は中休みが終わると、一言もしゃべらずに帰った。


次の日、昨日話した隣の奴は来ていなかった。それどころか、隣にあったはずの同僚のデスクがなくなっていた。


そのことを同じ総務課の社員に聞くと、みんな口を揃えて


〝しらない〟


というのだ。






---------------っていうことがあったんだよね。みんなに聞いても〝しらない〟の一点張り。ホント変なできごとだったよ。


俺はこの前あった変な出来事を思い出して、隣の同僚に得意げに話していた。


その時、隣の同僚は始終何か考えこんでいるような顔をしていたのが、何故か妙に気になった。



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しらない ゐ己巳木 @kotobukisushi

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