あなたの部屋に私のパンツ干してもいいですか？Fine「あなパン切り抜き版」

第34話 繭という存在の重さ

浩太は部屋の窓を開け、外の夜風を感じていた。仕事で疲れた体を少しでも癒すように、静かな風が肌を撫でていく。だが、その静けさに、どこか心がざわつく自分がいるのを感じる。

「浩太さん、窓開けて寒くない？」繭の声が背後から響く。彼女はキッチンでお茶を淹れていて、その明るい声が部屋を柔らかく包んでいた。

「いや、大丈夫だ。」浩太は振り向かずに答えたが、その声にはどこか曖昧さが混じっていた。

繭がテーブルにお茶を並べ、「今日はいつもより静かだね。疲れてるの？」と浩太を見上げながら言った。

「まあ、そうだな。」とだけ返す浩太。その言葉の裏には、繭がいることでどれだけ自分が救われているかという思いが隠されていた。

彼女はいつも元気で、無邪気で、どこまでも自然体だ。浩太にとってその姿は、まるで忙しい日常の中に現れる穏やかな港のようだった。自分がいつでも戻れる場所がある、そんな安心感を与えてくれる存在。

「浩太さん、もっと笑っていいんだよ。」と繭が真剣な顔で言った。

浩太は少し驚いたが、すぐに表情を緩めた。「お前に笑えと言われてもな。」

「じゃあ、私がもっと面白いことを言えばいい？」繭は目を輝かせ、浩太の顔をじっと見つめた。その視線が、どこか心に刺さるようで、浩太は思わず目を逸らした。

「本当にお前は、手のかかる奴だ。」と浩太は低く呟いた。だが、その声にはどこか優しさが滲んでいた。

繭の存在は、ただの隣人以上だった。彼女は浩太の心の中に溶け込み、彼の日常に欠かせない一部になっている。彼女の明るさや無邪気さが、浩太の心を暖め、支えてくれる。その存在の大きさに、浩太は改めて気づかされるのだった。

そして、自分の中で静かに芽生え始めた感情に向き合おうとしながら、彼は繭が差し出したお茶を手に取った。「ありがとう。…今日は少しゆっくりするか。」

「うん！そうだよ、浩太さんはもっと自分に優しくしなきゃね！」と繭は笑顔で言い、二人の穏やかな時間は静かに流れ始めた。

浩太は、繭がお茶を淹れ終える姿をぼんやりと眺めていた。彼女の動きは自然で、楽しげな雰囲気が漂っている。その姿を見るだけで、疲れた心が少しずつほぐれていくのを感じる自分がいた。

「浩太さん、お茶、はい！」繭が明るい声でカップを差し出す。その笑顔が、部屋の静かな空気を一気に明るくしているようだった。

「ありがとう。」浩太はカップを受け取り、ゆっくりと一口飲む。その味は特別なものではないはずなのに、どこか暖かさを感じる。

「今日はどうだったの？また仕事で疲れた？」繭が椅子に座りながら尋ねる。その質問には、単なる興味以上の気遣いがこもっていた。

「まあ、いつも通りだ。」浩太は簡潔に答えながら、彼女の顔をちらりと見た。その明るい表情に、自分がどれだけ救われているかを感じずにはいられなかった。

繭はニコリと笑い、「浩太さん、もっと元気出さなきゃ！ほら、私がいるんだから！」と元気よく言った。その言葉は軽いジョークのように聞こえたが、浩太には深い意味を持つものとして心に響いていた。

「お前、いつも勝手なことを言うけどな…確かに、お前がいると少しは楽になるかもしれない。」浩太は照れ隠しのようにぶっきらぼうな口調で言ったが、その言葉の裏には感謝の気持ちが隠れていた。

繭は得意げに笑い、「でしょ！浩太さん、もっと素直になればいいのに！」と茶化すように言った。浩太はその明るさに思わず顔をしかめたが、その心には小さな微笑みが浮かんでいた。

彼女の存在が、自分にとってどれほど大きなものになっているかを、浩太は認めざるを得なかった。繭はただの隣人ではない。彼女は浩太の日常の中で、特別な灯火のような存在だった。

繭が話題を変えて、新しいアイデアや冗談を語り始める中で、浩太はその声に耳を傾けながら、心の中で静かに彼女の存在を受け入れていくのだった。

浩太はカップを持ちながら、繭が話す内容を聞き流していた。というより、彼女が話していること自体が、心地よいリズムとして耳に響いてくる。彼女の声は、部屋を満たす空気の一部のようで、その存在が当たり前になりつつある自分に、どこか戸惑いを覚えていた。

「浩太さん、ちゃんと聞いてる？」と繭が顔を覗き込んでくる。その無邪気な瞳が彼の視界に入り、浩太はぎくしゃくと首を縦に振った。「ああ、聞いてるよ。」

「本当？じゃあ、私が何話してたか言ってみて！」繭はニヤリと笑いながら浩太を試すように言う。

浩太は視線を横に逸らし、「…えっと、今日は学校で何かあったとか？」と答えた。それが完全に適当な返事であることは一目瞭然だった。

「ほらね、全然聞いてないじゃん！」繭がぷっと頬を膨らませる。その姿が妙に子どもっぽく見えて、浩太は思わず小さく笑ってしまった。「すまん。お前の話は心地よすぎて、つい流れてしまうんだ。」

「それ、褒めてるの？」繭が怪訝そうに問い返すと、浩太は軽く首を傾げた。「どうだろうな。お前がいると、この部屋が静かじゃなくなるのは確かだ。」

「それって、良いことだよね？」繭は自信満々に尋ねる。その質問に、浩太は少しだけ間を置いて答えた。「…まあ、悪いことじゃないかもな。」

それを聞いた繭は、満足そうに笑顔を浮かべた。そして、お茶を一口飲みながら、「浩太さん、もっと素直に喜べばいいのに！」と軽く茶化した。

浩太はその言葉に答えず、ただ彼女の笑顔をじっと見つめた。何気ない日常のやりとりの中で、繭の存在が自分にとってどれだけ大きなものかを、改めて感じていた。

この部屋に繭がいることで、彼の生活には明るさが加わり、何もなかった日常に色がついた。それはまるで、自分の中で忘れていた何かを繭が思い出させてくれるような感覚だった。

浩太はそっと息をつき、カップを置いた。「お前、そんなに自信満々だと、いつか痛い目を見るぞ。」

「そのときは浩太さんが助けてくれるでしょ！」繭は笑いながら言った。その明るい声に、浩太の心は少しずつ柔らかくなっていくのを感じた。

彼女の存在が、ただの隣人以上であることを認めつつ、浩太は自分の中に芽生えた新しい感情と向き合う準備を少しずつ始めていた。