第18話 いざ出勤……ばれてねぇよな!ACT3
午後のミーティング。会議室のドアを開けるとすでに雨宮部長の姿を目にした。
「いらっしゃい山田君。お昼の休憩はちゃんと取りましたか?」
「あ、はい……」
「そう、それはよかったわ」と言い、俺を見つめながらほほ笑んだ。
柔らかな面影の奥に大人の洗練された色気を感じる。これがこの人の醸し出す雰囲気である。なぜか俺に関しては他の社員に接する時よりもこの色気を前面に押し出しているように感じるのは俺の自意識過剰なのか……。そこは定かではないが俺はいつもそう感じてしまう。
部長の対面の席に俺は座りこの雰囲気に流されないようにすぐに「今日のミーティングの内容はなんでしょうか?」と話しを業務一本に絞り込むように仕向ける。
すると雨宮部長はにっこりとしながら、しかし目はマジの視線を崩さず俺を見つめながら。
「山田君。君、彼女出来ましたか?」と言うのだ。
ああああ! 直球できやがった。
この人はあの時の俺と繭の会話をしっかりと電話越しに聞いていたんだ。
「うふ、どうしたの?」
妖艶な大人の女性の雰囲気これが色気と言わずしてなんと表現すればいいんだろうか。それでも目線はマジだ俺を見つめるこの視線は非常に痛い。
「お、俺彼女なんかいないっすよ」
「ふぅーん。そうなんだ……彼女じゃないんだ」
彼女じゃない……何かよからぬ方向へと決めつけられているような気がするけど。
「このあいだの電話でさぁ―。確か自宅にいるって言っていたと思うんだけど、でねでね、なんか聞こえてきちゃったんだよねぇあなたと親し気に会話する女の人の声。あれはなんだったんでしょうね」
ほら来た……しっかりと聞いていたよこの人。
「ねぇ山田君。正直に答えちゃいなさいよ……おねぇさんは怒らないからさぁ」
おねぇさんって。何時からあなたは俺の姉になったんですか?
「本当はもう同棲していたりして……いいのよ、あなたに彼女がいても。私は別にかまわないわ」
だからいねぇって。繭とはそんな関係じゃねぇ。それに繭はまだ女子高生だぞ。……18歳にはなっているけど。そこにこだわるつもりはねぇが女子高生であることには変わりはない。
20代後半、もうじき30を迎えようとするこの俺が女子高生と同棲なんか出来る訳ねぇだろ……そうだろ! 俺らは同棲しているわけじゃねぇんだよ。
しかし、俺に彼女がいてもいいって言うことはどういう位置関係にいたいんだこの人は。俺は修羅場はごめんだぞ。
「別に俺は彼女はいないですよ。それに繭ともただのお隣でそれ以上でもそれ以下でもなんでもないです」
そう俺は答えた。
しかし、雨宮部長は俺を見てゆっくりと口を開くと「ふぅーん」という声を上げてこういったのだ。
「本当に……そうなの? 繭って言うんだその子。私はてっきりもうそういう仲になっていると思っていたんだけどなぁ……」
「いや……だから……」
「ねぇ山田君。私ね、あなたの事をずっと見てきたのよ。私がこっちに移籍する前から。面白い社員がいるってずっと気にかけていたの。そしてこの会社に移籍してあなたの部署になれるように根回してさぁ。あなたの傍にいたかったの」
いやいや、そんなことを言われても。俺単なる一社員なんだけど。
「だから……その、山田君が繭って子と一緒に住んでいるって聞いた時は本当に驚いたわ。だって、その子まだ高校生なんでしょ。未成年の女の子と同棲しているなんて」
「いや……だから……」
俺はもう何を言っていいのか分らなくなっていた。雨宮部長の言っていることは嘘じゃないし、だからと言って俺が繭と同棲をしているわけでもないし。
「ねぇ山田君。私はねあなたが好きなのよ」
「え?」
今なんて言った? 好き? いや……それは違う……。
「私はあなたの事を愛してるの」
愛している……それは男女間における愛の告白だった。雨宮部長は俺に対しはっきりと好きだという感情を抱いていると口にしたのだ。
俺は混乱していた……そして、何をどう答えればいいのかさえもわからなくなっていた。雨宮部長は何を思って俺を好きと言ったのだろうか? それとも本当に俺の事を男して好きなのか? いや、そんなはずはないだろう。だって俺はこの会社の社員で彼女はこの会社の部長だ。その二人が付き合うなんて……。
「雨宮部長……」
「はい、何でしょうか?」
雨宮部長は至って平静を保っているように見える。しかし、その発言した言葉の内容があまりにも強烈で俺の思考回路はショート寸前だった。
「あのですね」と俺は言うも言葉が続かなかった。
「ねぇ山田君。私ね、あなたの事ずっと見てきたって言ったでしょ? そしてね私はあなたのことを愛しているの」
「いや……そのそれはですね」
「繭っていう子を愛しているの? それとも私が好きなの?」
だから違うって。俺は別に繭を愛してなんかいないし、雨宮部長の事なんてこれっぽちも好きじゃないんだ! だけどこの人から醸し出す色気というか大人の落ち着いた雰囲気に飲み込まれそうで怖かったのだ。この会社の社員で俺の上司である雨宮部長が俺に対して愛しているという感情を持っている。これはどういった意味なのだろうかと。
「ねぇ山田君。私の事好き?」
「いや……だからですね」
「あなたの事大好きなの。愛しているの。ねぇ山田君。私と付き合ってみない? 私ね、あなただったら喜んで抱かれてあげてもいいわ」
いや、何言ってんすかこの人!
「ほら抱いてみてよ」と雨宮部長は言うと急に立ち上がり俺の傍まで来ると強引に俺を抱きしめたのだった。
俺は慌てて両手を前に出して雨宮部長を押し返そうとしたのだが、雨宮部長はお構いなしに俺を強く抱きしめてきた。そして俺は雨宮部長の胸のふくよかさに顔をうずめる形になってしまった。
「あ、あの……その……」
「ねぇ山田君。私ね、あなたなら抱かれてあげてもいいわ」
だから! なんでそうなるんすか?
「もう、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
いやいやそうじゃないって。
そして雨宮部長は俺の頭を優しくなでるのだった。
「ねぇ山田君。私の事好き?」と再び言うのだ。
もう訳がわからねぇ。
「ねぇ、私じゃダメなの? こんなにもあなたを愛しているのに」と雨宮部長は俺を熱く抱きしめた。俺は抵抗する事を諦めたのかそれとも体が硬直して動けないのかわからないが体を脱力させて雨宮部長の胸の中に顔をうずめていた。
柔らかい胸だ。それにいい香りがする……ああ! まずいだろこの状況は。俺も男だ。このままこの女性を抱いてしまいたいという衝動に駆られてしまうじゃないか。
ああ、だけどこれは繭に対する裏切り行為になるのか? いや、そうじゃないだろう。確かにこれほどまでにこんな俺に好意を持ってもらえるのは嬉しいが、まぁなんて言うかその……確かに欲情はするんだよ、でも反応はまったくといっていいほどしていない。
あれから……あの事があってから俺は3次元の女性には興味が、反応もしなくなってしまった。もっぱら俺の彼女と呼べる女性は2次元の中にいる。
2次元の彼女達こそが今の俺の癒しでもあるのだ。
「ねぇ、私のこの気持ち……受け取ってくれる?」
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