第5話 キスの後

俺はどんな人なんだ。

そう言われた時に何をどう説明したらいいのか皆目見当がつかない。


只今27歳独身の一応大手と言われるシステム会社の一社員。

確かにさ、今までずっと一人……彼女いない歴年齢とは言わないが、今は3次元においての彼女。いや女性との関りは皆無と言ってもいいだろう。


今日……もうすでに昨日であるわけだが、長野と飲んでいた時も彼奴から『そろそろ彼女くらい作っておけよ。もうじき俺たち30になるんだぜ』と言われたばかりだ。


まぁそう簡単にはいそうですかと彼女が出来るわけでもない。……だろうし、毎日会社と自宅の往復、休日はエロゲとアニメにどっぷりとつかっている生活で、何処に出会いと言うものがあるというのか。


とは言ったものの、この生活に俺は嫌気をさしているわけでもなく、それなりにオタクライフを満喫していると言えばそれまでであるのだ。

もっともこうして2次元の女の子たちにどっぷりとハマってしまったのにはある事情もあるのだが、これが今俺が選んだ人生と言うものであるのだ。


そんな俺に対して繭はさらに追い討ちをかけるように聞いてきた。

「ねぇ、私は山田さんの好みじゃない?」

「……そ、それは」

俺が答えられずにいると彼女は再び俺に抱きついてきて言ったのだ!


「ねぇ、私じゃダメかな?  私なら……山田さんのこと満足させてあげられると思うんだけどな」

「え?  いや……あのぉ」


俺はどうしていいのか分からずに戸惑ってしまったがそれでも何とか言葉を絞り出すようにして彼女に答えたのだった。しかしその声は自分でも分かるくらいに上ずっていて動揺しているのが丸わかりだっただろう。


そんな俺の様子がおかしかったのか、繭はクスリと笑ったのだ。

「うふふ、可愛い」

いや……あのですね、俺はおっさんですよ?  それを捕まえて可愛いとか言うかね普通。まぁ悪い気はしないけどさ。でもなぁ……俺みたいな奴と付き合うなんてこの子も物好きだよな。


「あのさぁ、俺はおっさんだよ?  分かってる?」

俺がそう言うと彼女はにっこりとほほ笑んだのだ。その笑顔はまるで天使のようだった。そして彼女は言ったのだ。


「うん、知ってるよ」

「いや……だから……」

俺が言い淀むと繭は続けて言ったのだった。それはまるで俺を誘惑するかのような妖艶な笑みだった。そして彼女は言ったのだ。その言葉は俺の心を鷲掴みにするものだった!


「だって……私は山田さんのことが好きだもん」

「……え?」

「私は山田さんのことが好きなの。だから私と付き合って欲しいの」

「冗談だろ!」


「うん……冗談」

にヘラと笑う顔は小悪魔のような感じが否めない。


「大人をからかうんじゃないよ」

「あはは、ごめんね。でもさ、山田さん……まんざらじゃなかった? 顔がニヤついていたよ」


「うるせい!」


夜のコンビニの灯りと言うのはなんだろうか一種の安心感と言うものを感じさせてくれる。

「ぷはぁようやくコンビニについた!」

繭はそう言うと俺から離れてくれた。


俺は少しホッとしたような残念なような複雑な気分だったが、それでもなんとか平静を装うことができたと思う。


「さてと……何を買いましょうかね」

そんな俺に構わず繭は店内へと入って行くので慌てて後を追ったのだが、彼女は真っ先にお菓子コーナーへと向かって行った。そしてそこで手に取ったものはポテチの袋だった。しかも2袋もだ!


「おい! それ全部食うつもりかよ!」

「え?  いけませんか?」

そう言いながら彼女はにっこりとほほ笑んだ。その笑顔はまるで天使のようだったが、俺には悪魔にしか見えなかったのは言うまでもなかった。しかしここで怯むわけにはいかないと俺も必死に対抗する!


「いやだって……これからご飯食べるんだろ?」

「そうだよ? だから食べるんじゃん」

だめだこりゃ。俺は頭を抱えたくなりながらも繭の後に続いて弁当コーナーへと向かったのだ。


案の定ほとんどの弁当は売り切れ状態で棚はスカスカだった。

「ああ、ヤッパリお弁当ないねぇ」

「おにぎりならあるじゃんか。それにカップ麺でもいいんじゃねぇのか?」

「う、うん……そ、そうだね。カップ麺よりなんかご飯が食べたい気分だなぁ……おにぎりにしちゃおう」


そう言って繭はおかかのおにぎりを一つ手に取った。

「あ、そうだあとは飲み物と」繭は小走りでドリンクのショーケースの方に向かった。

その様子を見ながら、なんか繭の動きが小動物のような感じで面白かった。


俺も何か買うか……。とは言え居酒屋で焼き鳥とビールを収めた腹はさほど空腹感を感じさせるくらいには減っていない。

されど何か口寂しい感じがする。まぁここは軽く俺もおにぎりくらい食っておくか。俺は鮭のおにぎりを手に取った。


ふと繭の姿を探すと、繭はある区画でじっとある商品を見つめていた。

「おい、何か欲しいものがあるのかそんなに見つめていて」

「うーーーーーん。あのさ……欲しいと言うか……。必要なものかなぁ―て」

いったいなんだと言うのだ。繭は真剣にその商品を見つめている。


その繭の視線の先に俺も目をやると……。ある意味ありげな小箱に目が言った。

も、もしかしてこれは……。もしかしなくとこれは”あれ”である。

あれ! と言うのは……そのなんだ。こんな俺でも知っている薄いゴムの膜で出来た代物である。


「お、お前……何見つめてるんだよ!」

「何って必要なものかなぁ―ってさ」

べ、別に必要なものじゃねぇだろ!


「ま、今は安全日なんだけど……一応さぁ……。もしできちゃったら大変でしょ」

「馬鹿な! そんな行為をする予定なんかもその気ももうとうないぞ……俺は!」


なぜか繭は着ているパーカーのフードをすっぽりとかぶり、その小箱を手に取って。

「本当に要らない?」と、俺に問いかける。

「い・ら・な・い!!」

「ふぅーんそうなんだ」とまたその小箱を元の場所に置いた。


「別に恥ずかしいものじゃないと思うんだけどなぁ―。コンドームって生理用品じゃん。誰でも使うからこうしてコンビニでも置いてあるんじゃないのかなぁ」

ま、まぁそうではあるということも言えるだろうけど……女子高生と俺はそう言うことは出来ん!


出来ん……犯罪になるんじゃないか!

「あ、ちなみに私、今日の0時をもって18歳になりました。だから犯罪にはならないと思うんだけど……お互い同意ならばね」


コンビニ内の暖房が効きすぎているのか? それともこれは冷や汗なのか? どっと額に汗がにじみ出てきやがった。


「大人をからかうんじゃありません!」

「ふぁーい」と気のない返事をしながら繭は「レジに行こう」とレジの方に向かった。

いったい今どきの女子高生と言うのは何を考えているのやら。


でももし……”あれ”を買ったのならもしかしてそう言うことになる前提ということになるのか?


10歳近くも離れた女の子と……。


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