あなたの部屋に私のパンツ干してもいいですか?Fine「あなパン切り抜き版」

さかき原枝都は(さかきはらえつは)

第1話 月夜に吠えるおっさん

俺の何が悪いんだ!

俺はつつましく謙虚に生きているだけなのに……。


そうだよ。仕事だってまじめに取り組んでいるしそりゃさぁ―、多少のミスなんかはあったりもする。それでも何とかリカバーしながらも周りの奴らのことも気に掛けながらチームとしてまとめているじゃねぇのか? 


人望……あつい?


新人の教育も手を抜いてなんかいねぇし。

……最もその新人て言うのが一癖も二癖もある奴だから、扱いには予想以上の精神的労力を駆使しているのだ。


はたから見れは俺はかなり仕事も頑張っている方だと自負している。

なのにだ! 俺の直属上司は俺の事を目の敵のように追い込んでくる。

いったい俺の何がいけないって言うんだ。


「なぁ……長野。俺のどこがいったいいけないと言うんだよ!」

「まぁそんなに荒れんなよ。お前が頑張っているのはこの俺がよく見ているし、人望だってそれなりにあついのは俺も知っている。そう悲観するこたぁねぇんじゃねぇねえのか」


「ああああ! お前だけだよそう言って俺を持ち上げてくれるのは……持つべきものは友だな」

「まぁな、お前とは何と言うかこうしてよくつるんではいるんだけど、まぁなんだ俺はお前の見方だということはここで言っておく」


「おおおおおおお! 心の友よ! さぁ飲もうぜ! 今日は記憶をなくすまで俺は飲みてぇ気分なんだよ。お前も付き合えよな……長野」

「付き合えってさぁ、僕は記憶をなくすまでの向きはないけどねぇ」


「なんだよぉ、のりわりぃじゃんか。お前だけなんだよぉ―! こうして俺が崩れるまで付き合ってくれる親友はよぉ!」

「まぁそれはさぁ。そう言ってもらえることは僕としては嬉しんだけどなぁ。でもさぁ僕までも泥酔するまで飲む必要はないと思うんだよねぇ」

「ちぇ、なんだよノリわりぃなぁ」


そう言いながら俺は焼き鳥のを大口を開けて一気にほおばった。

焼きたてのねぎまの芯がひょこっと口の中で飛び出した。


「あちぃ!」


思いのほかねぎまの芯が熱くて焦った。口の中を冷ますべくジョッキのビールをごくごくと飲み干していく。


あああああああああああ! なんかビールじゃ酔えねぇなぁ。

もっと強い酒でも飲もうか……。


ウイスキーをロックで……。とは言え、ここはお手頃価格の行きつけの大衆居酒屋。ウイスキーよりも焼酎のロックと言うのが場の雰囲気に合うという感じのところだ。

いざ、店員に焼酎のロックを頼もうとした時、ふと長野のジョッキが目に入った。

ビールより黒味かかった液体を目にして。


「お前何飲んでるんだ?」

「ああ、僕かい。僕はウーロン茶だよ」

「なんだよぉ! 長野なんでお前酒飲まねぇんだよ!」


「まぁ今日はなんかお酒飲む気分じゃないし、こうして山田やまだが酔っぱらっていくの見ているのがなんか面白くてねぇ」

はぁ―、なんか興が冷めたと言うかなんか白けてきてしまった。


「ああ、なんかもう今日は飲む気分じゃなくなった。帰るわ俺」

俺はそう言って、長野の飲みかけのウーロン茶を奪い取り一気に飲み干した。

「おい!  何するんだよ!」

長野が何か文句を言っていたが、俺はそれを無視して店を出た。


3月の中旬、外は肌寒くて俺の酔いも一気にさめてしまった。

ああ……なんかまだはむしゃくしゃするなぁ……。

俺は無心で街を歩いた。


いつもなら気の向くままに寄り道するのだが、今日ばかりはそんな気にもならなかった。

俺はひたすら夜の街の大通りをまっすぐに歩いた。


そんなには飲んでいなかいと思っていたが、ビールでも酔いは結構来ていた。

ふらふらと帰り道を頼りない足取りで自分の家へと歩いていく。

そんな時、長野が別れ際に行った一言が俺の頭の中に浮かんできた。


「なぁ山田。いい加減お前も彼女の一人くらい作ったらどうだ? 俺たちもう時期30になるんだぜ。男の独り身は心の奥底に寂しさを植え付けてしまうからさ」


何が寂しさだ!

俺にはちゃんとした彼女たちが俺の家で待っているんだ。

でもそれはゲームとアニメの中に存在する彼女のことなんだが。

それの何が悪い!


俺にとってはれっきとした優しくいつも微笑んでくれる可愛い彼女達なんだ。

「ああ、早く家に帰ってゲームしてアニメ見たい」

そう独り言をつぶやきながら俺は家路を急いだ。


でも、俺のそんな考えは甘かった。

家路の途中にある公園で事件は起こったんだ。


それは俺が公園の横を通り過ぎようとした時だ。公園の中から何やら人の声が聞こえてきたんだ……それも女性の悲鳴のような……。

俺は思わずその声のした方に顔を向けた。


するとそこには二人の男が一人の少女に絡んでいる光景が目に入って来たのだ。

その男達は見るからにガラが悪そうで、チンピラと言われても仕方がないような輩だった。


そんな輩が一人の少女に絡んでいる……。

普通であれば見過ごす状況であるが、俺はその姿を目の当たりにして思わず駆け寄り声をかけた!

酔いの勢いもあったという……そうである。


「おい!  お前ら何やっているんだ?」と。

俺の声にチンピラ達が振り向いた。

俺はその少女を自分の背で守るようにして立つと、ガラの悪いチンピラ達は俺を睨みつけてきたのだ。


「ああん!  なんだおめぇは! お前にゃ関係ねぇだろうがよぉ」

男達が唾を飛ばしながら俺に言葉を投げつける。

そんな唾に怯むことなく俺は強い口調で言い返した。


「あんたら今この子に絡んでいただろう?」

「はぁ?  なんだてめぇ?  俺達に文句あんのか!」


男達が俺に凄んでくる。

俺はそんな奴らを睨みつけながら言い返す。

「ああ!  あんたらこそ俺の彼女に手を出すんじゃねぇよ!」

「はぁぁ?」


俺がそう言った途端二人の男は目を点にして俺を見つめた。

そんな二人に俺はさらに強い口調で言葉を投げかける。


「お前ら俺の彼女に手を出そうって言うんなら容赦しねぇからな!」

俺がそう言うと男達は何やらひそひそと内緒話を始めた。

そんな二人の男の会話に俺は割って入るように声をかけた!


「お前ら今俺の彼女の悪口言っているんじゃぁねぇだろうな?」

「い、いや、そ、そんなことねぇよ」

男達が慌てた様子で俺に言い返す。


そんな奴らをさらに睨みつけながら……。

そして俺はさらに大きな声で言い放ったのだ。


「いいか! よく聞けよ!  この子は俺の彼女だ! 俺のものに手なんか出したらどうなるか……」

と、威勢はいいがその後の言葉に詰まってしまった。


「なんだよおっさん。俺の彼女だって? マジかよぉ! それってナンパしている俺たちよりわりぃーことしてんじゃねぇのか?」

「なんだよぉ。わりーことって」


「あははは。なんだこのおっさん自覚もねぇんだ。この子どう見たってJKじゃねぇのか。こんな時間に一人でふらふらとさまよっているJKを俺たちがナンパしたって別にいいじゃねぇ。でもよぉ―、あんたのようなおっさんがこの子の彼女だって言うのにはかなぁ無理があるんじゃねぇのか? それともおっさんもJK買い目的でこの子を誘っているんじゃねぇだろうな」


ん?

JKを買う……はてそれはどういうことなんだ……ん?

何か此奴らは誤解をしているようだ。


「まぁいいその子を放してやりなさい。嫌がっているじゃないか」

「まったくよぉ。何いいカッコウしようとしてんだこのおっさんはよう」

俺にい隠すように投げ捨てる言葉を吐く此奴らに何かムカッとするものを感じた。


元々今日は腹の虫の居所が悪いのだ。

酒も飲んで気持ちも高ぶっていた。

力ずくで彼女の腕をつかむ手を払おうとした。


その時だ、もう一人の男が俺の顔面目掛けてこぶしを投げ飛ばしてきた。

こぶしは見事に俺の顔面に命中し、俺は地面に投げ飛ばされた。


「いつつつつつ」


俺は酔っていた。

そんでもって、むしゃくしゃしていた。


俺の中で何かがプツリと切れたような音がした……までは記憶にあるが。

その後のことについては一切記憶がない。


気が付けば公園のベンチで腫れあがった顔を膝枕をしながら、ハンカチで冷やしてくれている彼女の姿をおぼろげながら眺めていた。



空には街灯の光にも負けないくらい真ん丸の月の光から輝いていた。

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