スポンサード

根も葉も燃やせ!

「「あ」」

 

 偶然、とある人たちと目が合った。

 

 場所は最近よく行っていたレストラン。


 海氷街の中心部に行く途中、おなかが減ったから、住宅街の中にあるレストランに入ったわけ。

 

 席に着いて注文し、ぼんやりと料理が運ばれてくるのを待っていたら、遠くのテーブルに見覚えのある姿を見つけた。


 テーブルの上には大量の料理。

 椅子には、ヨウナとコトリ。


 せっかく二人で仲良く話しているところを邪魔しないよう、バレないように目をそらした。

 けど、一歩遅かった。

 先に向こうが私に気づき、二人のどちらとも目が合う。


 わざわざ、こっちにおいでよと手招きまでしているので、店員さんにお願いして同席することにした。

 招かれた以上、無視は良くないからね。


 せっかくだから、雑談としてヨウナたちの近況を聞くことに。


「服屋はどう? 繁盛してる?」

「いつも通りかな。ぼちぼちだよ。広告とかしてるわけじゃないし」

「コトリは悪いことしてない?」

「うん、むしろ、いろいろ手伝ってくれて助かってるって」


 コトリは食べるのに必死なので、私の質問にはヨウナが答えてくれる。

 コトリは服の修繕とか、そっちの仕事はちんぷんかんぷんだけど、ヨウナのお世話方面には活躍しているそうだ。


 持ちきれない荷物運びとか、ちょっとしたヨウナとお父さんである服屋の店主との間でちょっとした連絡があるときの伝言役とかに。


 代わりに食費はバカにならないと、店主はぼやいていたそうだ。ヨウナは食費をあんまり気にしていなさそうだけど、それはたぶん店主がご飯担当だから。


 私は自分で生活費の計算をしているからわかるけど、私の家にコトリが来たら、一日で追い返さないと飢えちゃうね。


 まあ、そんなコトリを店に住まわせておけるくらいだから、服屋の商売もなかなか悪くないはずだ。


「ユキは最近何をしてるの?」


 街に運ばれた銃の行方と、悪いヤツらの次の出方を探ってるよ!


 なんて言うわけはないので、港でライブを聴いていたと説明した。

 一応本当の事だから、うそはついてない。


「へぇ~港かぁ。いつか、私も別の街に行ってみたいなぁ」

「オレも!」


 コトリも同意した。

 食べ物が口に入ったままだから、声は控えてほしい。


「あ、そうだ。港で思い出したよ。ちょっとユキに相談したいことがあるんだけど、いいかな?」


 最近、その流れで話された内容に、あまりいい思い出はないけどね。

 まあ、ヨウナの頼みなら、わざわざ断るようなことじゃないでしょ。

 

 

 ◇

 

 最近、企業からヨウナのアイスホッケーチームをスポンサードしたい、という話があったらしい。


 ヨウナのチームは学校の部活じゃなくてアマチュアのチームだから、そういうこともあるかも。

 珍しいとは思うけどね。


「どうやって連絡が来たの?」

「私たちの練習場所に、直接来たの。一瞬、また不審者が来たのかって、チームみんなで疑っちゃったよ」


 この前、けっこう深刻な誘拐事件に巻き込まれたばかりだし、そういう警戒は無理もない。

 というか正しい。


「念のため名刺もらって、向こうの企業に確認したら、本当の話だって」


 すっと、ヨウナはポケットから名刺を取り出してテーブルの上に置き、私のほうに滑らせる。


 その名刺に目を落とすと、私はその企業の名前を聞いたことがなかった。


 デザインはしっかりしているし、連絡先とか、部署と人の名前もちゃんと書いてある。

 よほど悪意を持って作ってなければ、ちゃんとした名刺のはず。


 でも、本物の大企業から連絡が来たなら、悩むこともない。

 アマチュアチームに必要な器具や場所を支援してくれるなら、願ったりかなったり。


 悩んでるってことは、何か良くないことがあるのかな。


「何を悩んでるの?」

「そこの企業、あんまり良くないうわさがあって……ユキって、そういうの詳しいでしょ?」


 近所のうわさ好きなオバサンみたいな扱いを感じる。

 私は若いし、うわさ好きでもないからね!


 しかし、良くないうわさと言われても、そもそも企業の名前すら知らなかったから、今回私は役に立たない。


「たぶん、私も知らないかな。どんなうわさなの?」

「ほら、海氷街が沈んだってニュースがさ、前にあったでしょ?」

「……うん。あったね」

「その街に多額の出資をして変な事業をやってたんだって、その企業。だけど、街は崩れちゃったじゃない? だから、何かヤバいことを隠そうとして、街を壊したんじゃないかって」

「陰謀論じゃね?」


 コトリがもごもご言いながら、されど言葉はざっくりと、ヨウナの話を切り捨てた。

 正直私もそう思ったけど、貴様は口の物を飲み込んでからしゃべる癖をつけなさい!


「いや~、そう思うんだけどね。根のないところに煙はたたないっていうし。最近物騒だから、気をつけようと思って」


 ヨウナは真剣に考えている様子。

 本当かどうかはともかく、私もそのうわさがどこから出てきたのかは気になる。


 ヨウナのためでもあるし、その企業とやらについて、調べてみよう。


 ……根のないところに煙はたたない?


 全部燃やしちゃったのかな? 

 ヤバいことを隠そうとして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る