八番港に異変あり!
港に来てから生活の拠点にしている、海が見えるホテルに帰る途中。
船が出入りするところに、人が集まっていた。
積み荷を降ろしているのかと思ったけど、船の姿はない。
これは、異変じゃないかな?
ちょっと離れたところで、タブレットとにらめっこしている管理組合の下っ端の男を見つけた。
事情を聞いてみよう。ちょんと肩をたたいた。
「すいません。まだチェック中で……お前かよ」
たった今まで緊張した顔つきだったのに、私を見た途端うんざりしてため息を吐く。
私に会えたんだから喜びなよ。うれしいでしょ?
って冗談は、忙しそうだから心の中にとどめておくよ。
「何かあったの?」
「何でお前に……いや、気分転換ってことにしとくか。明日の船便なんだが、到着時間が被っちまってな。このままだと一隻、停泊できねぇ」
「そんなことあるんだね。でも、泊めるとこいっぱいあるじゃん」
「そっちはまた別の船が泊まるんだ。荷物の積み下ろしに再出発の時間を考えると、他のポートはずらせない」
男のタブレットをのぞき見ると、昔の駅みたいに、船を泊める場所に番号がついている。けっこう、時間ギリギリに運行されてるっぽい。
「よくあることなの?」
「むしろ、ありえない。そういうことが起きないように、パソコンのシステムで管理してる。なんかのバグとしか思えない。とにかく、原因究明はあとだ。明日の事を考えなきゃいけねぇ。今は、この港から少し離れた場所に誘導して、荷物を下ろしてもらおうってなってる」
「人を運んでる船じゃなくてよかったね」
「全くだ。積み荷も楽器らしいから、急ぐ必要もないし。相手方への連絡も通じた。不幸中の幸いだな」
男は苦笑いした。
人だとクレームとか、後が大変だからね。
楽器というと、ユメが注文したのも乗っている便かな。
ユメから話を聞いたときは、明日着くから幸運だねと思ったけど、今度は不幸。
いったい、幸か不幸かどっちなの?
ちゃんと対応できてるし、問題はなさそう。
と、思うのが普通。
私はちょっと、嫌な感じがする。
念のため臨時の船着き場の場所を聞いておこう。
こういう混乱に乗じて、悪さをするヤツらは多い。
警戒しておくにこしたことはないね。
◇
とっくに日が暮れて、今はもう深夜。
眠いしさっさとホテルに帰りたいけど、もうちょっとだけやることがある。
寝る前に、あの臨時の船着き場を確認しておくこと。
明日の朝にはこっちに来る予定だから、道に迷って船の到着に遅れちゃった、なんてことにはしたくない。
メインの港からは、歩いて二〇分ほど。
私のホテルからだと、歩いて一時間くらいかかっちゃうかな?
いっそのこと、ここで野宿しちゃうのは……やっぱ嫌だ。
夜の海風は冷たいし、あまりにも不快。
ほかほかのベットで寝たいや。
できるだけ早く帰って、さっさと寝てさっさと起きることにしよう。
臨時の港は港というより、船を泊められなくもないって程度。
陸側は空き地のようなひらけたスペース、海側は防波堤もない氷の崖。
専用の設備も何もない。
ここまでひらけたスペースだと、人工のライトがなくとも、月明かりで周りが見える。
人は誰もいない。
こんなところに、用事がある人はいないから。
なぜか、見覚えがある。来た覚えはないのに。
えっと、ここは……そうだ、誘拐の時だ。
グループの人間が他の街に誘拐した人を売ろうとしていた。そのときに、連れてこられた場所。
普通の港でやり取りできないようなときに使うところか。
いい意味でも、悪い意味でも。
周りは空き地で人通りも少ないし、警備の人がいるわけでもないから、人に言えないことをするには都合がいいんだね。
やっぱり、気をつけなきゃ。
仮にここに停泊して、氷銃を運ぶやつらがいたとして……私一人で防げるのかな?
無理か。
こんな開けた場所で氷晶石の力を公に見せるのは難しいし、そもそも船の荷物を下ろすときに、ただの一般人の私が全てをチェックするなんてできない。
逆に私が不審者として、警察を呼ばれてしまうかもね。
それでも私の直感は、きなくさいと告げている。
みすみすと見逃すなんて事はしたくない。
あまり気は進まないけど……先に船に乗り込んでしまおう。
それで、積み荷を勝手にチェックしてやる。
誰もいない静けさは、平和の
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