お前もか
ゲームセンターを離れて、再び散歩コースに戻った。
いろいろ知った結果、特にすることはないかなって。
あの二人がどこに行ったかわかんないし、あのゲームセンターに入れ込みすぎても、お前は何者だと怪しまれちゃう。
命に関わるほどでもないし、私が無理して関わるほどの事でもない。彼が自衛できるかどうかは彼次第かな。時には、お金を失って気づくこともあるでしょ。
「すいません。ちょっといいですか?」
不意に、話しかけられた。知らない男の人に。
何か用があるのかと思って、足を止める。
「何?」
「今何してるの?」
「散歩。あなたは?」
「俺も散歩してるんだよね」
「そうなんだ」
特に用はなさそうだから、また歩き始めた。
すると、男も一緒に歩き始める。ちょっと歩いて角を曲がったら、男も私と同じ道に来る。
「ねぇねぇ」
「何?」
「君って良く見た目を褒められるよね?」
「まあね」
さっきよりも馴れ馴れしく話しかけてくる。今度は足を止めなかった。
「歩いてたら疲れるっしょ」
「余裕」
「ちょっと休んでかない?」
「いかない」
「じゃ、これだけ受け取ってってよ」
「いらない」
コテコテのナンパだ。
別に被害があるわけじゃないけど、面倒だから勘弁してほしい。
受け取ってと、何かを差し出してくる。
少なくとも、私が喜ぶものじゃない。
どっかで全力疾走してまこうかな。
後ろのナンパやろうとの距離を測ろうと、後ろを見る。
彼が手に持っていたのは、『猫でもわかる荒稼ぎマニュアル!』という、いかにもうさんくさい謎の本。
普段だったら凍らせようか迷うほどだったけど、今回はちょっと興味がある。
お金じゃないよ。
一体どんな手口を使ってるのかって話。
……本当に、お金目当てじゃないよ。
◇
しょうもないマニュアルの中身はネットによくあるような、お金を取られて終わるだけ、稼げるどころかお金を失うしかない話ばっかだった。
やられた。
私が気になるのは、これを作っているやつら。
この前のグループとやらにお金が流れていないなら放っておくけど、十中八九そうじゃないと思う。これは直感。
この前、氷銃の取り引きにお金はいらないって話をしていたから、そこにはお金を使わない。
ただ、あのスラム街から何か事を起こそうとすれば、銃以外にもお金がかかることはいくらでもある。荒くれ者だって、金なしでは生きてけない。
それに、ああいう連中にとっては、お金はあればあるだけうれしいはずだ。
あの学生の店員さんは最近お金を取られる事件が多いって言ってたし。
誘拐して人を売ってたのが私に阻止されたから、その分の
だとしたら……そろそろ何かしでかすつもりかもしれない。
タイミングが、氷銃を手に入れる前にか、手に入れた直後かは、わからないけど。
やっぱり、首を突っ込もう。どちらにしても、今のうちに向こうの動向を探って、あわよくば戦力を削っておかないと。
ブローカーにたどり着く前に、街が沈んだら元も子もない。
「ず、ずいぶん熱心に……。そんな子は初めてみた……」
ナンパやろうは、私の黙考に顔を引きつらせている。
私の目線がマニュアルに合っていたせいで、お金に飢えた女に見えたんだね。
「ありがと。これは返すね」
「持って帰らないのか?」
「もういらない」
「そっか。マニュアル読んで、頭も疲れただろ。糖分補給に、カフェとか行かない?」
しょうこりもない!
我慢の限界だ!
頭にきたよ!
まともな人間なら警察を呼ぶけど、私はまともじゃないぞ!
パンチしてやる!
そう拳を振りかぶったとき、誰かに手を引かれた。
「待ち合わせしてるんだ。じゃあな」
その人はナンパやろうに一方的に言う。
ナンパやろうはその人が男だったのをみて、それ以上は追いかけてこなかった。
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