婚約破棄されたわたし、隣国の王宮での連続毒殺事件を解決しながら王太子殿下と幸せに過ごします
有原優
第1話 婚約破棄
「ルルーシア、お前を婚約破棄する」
唐突にそう言われた私は、何も言えなくなってしまった。
唐突な婚約破棄、こんなの私の知識にはなかった。
私は本来、自殺に見せかけた毒殺されるはずだ。だって、皇太子が婚約破棄を告げる前日に私は魔族に毒殺されるのだから。
それは私が生前にやっていた乙女ゲームの知識が証明してる。
そしてそのイベントが起きるのは一年後。つまり、今ここで婚約破棄なんてないはずだ。
だからこそ、私は返答に困る。
元々、今日パーティに呼ばれるというイベントが起きたときに疑問に思うべきだったのだ。今更後悔しても遅いのだが。
「お前はアマーリアを虐めていたようだな。酷い時には毒液を食事に混ぜると言った冗談では済まされないような事をしていたと聞く。アマーリアはわざわざ俺に助けを求めてきたんだ。泣きながら死にたく無い、助けてくださいって。俺は彼女をそこまで追い詰めたお前のことが許せない。俺はお前なんかと言う性悪な人間ではなく、こちらのアマーリアを選ぶ!!」
さて、ここはどう答えるのが正解なのだろうか。
原作では断罪イベントなんてない、わたしにはその知識が無い。
そもそも私はアマーリアにそんな事をした覚えはない。
どうせそのぶりっ子的な笑顔で信じさせたのだろう。
一体どっちが性悪なのだろうか。
イベントが始まるのなんて一年後なのだからその時に色々考えればいいかと思ってたツケがここできた。
「私はそのようなことは一切しておりません。婚約者である私の言うことが信じられないのですか?」
「馬鹿な事を……信じる信じないの話ではない。もうこの話はお前が罪を認めるか認めないかの話に入っているのだ。さあ、罪を認めろ」
「はあ、どうせ私が認めよう認めまいが私が犯人ってことにするんでしょ?」
「ああ、そうだ。と言うよりもお前が虐めていたことは周知に事実だからな。証言者もいる」
そこに現れたのは貴族の娘であるセリナと貴族の息子であるルキだ。それぞれ私と同じく貴族学校の生徒だ。
二人とも紹介されるとすぐに、「俺は見た」「私も見た」などと次々に口に出す。
更なる証言者も現れ、十七人に及んだ。
そうなったらさすがに否定するわけにはいかない空気になってくる。
そして、皇太子を見ると、ニヤッと笑っていた。
買収だとすぐに分かった。でも、そんなことを言える立場に今の私はない。
「私がやりました」
そう言わざるを得なかった。結局、私は国外追放が宣告され、隣国のマレーラ王国に贈られることになった。
マレーラ王国は、この国よりもはるかに大きい国である、
つまり、私はそんな危険な国に贈られる。正直嫌だが、もはや抵抗などできない。
後ろで手縛られたまま、馬車で護送され、マレーラ王国との国境に縄をほどかれ、馬車から降ろされた。
金は没収され、一文無し。どうやって生活していこうか。
だが、まず気になることがある。この国ではこの時期に連続毒殺事件が起きる。
その事件が起きるのは今から二日後だ。
まずその毒殺事件は王宮で起きるのだ。犯人は分かってはいない。ゲーム内ではただ、王太子が無くなったとしか書いてない。
ゲームではその混乱に生じて、他国に侵略され、あっさりと亡国となる。
そんなことをされたら私の身にも危険が起きる。早速どうにかして王宮に入って行かなければ。
そんなことを考えていると、ふととある設定を思い出す。王太子であるヘンデルソン・マレーラは変装して城下町に行くことがある。
その姿は確か、長髪の青の鬘をかぶっていたはず。
そう、あそこを歩いてる男性のような…
あの人じゃん。これは運がついてきたわ。
「あの、すみません。へんデルソン様ですか?」
その、平民が知らないはずの名前を出す。
本来平民はヘンデルソン様の顔も知らないのだ。
だから、ヘンデルソン様というワードがこの顔を見て思い浮かぶはずもない。
「何者だ!?」
彼はすぐさま剣の塚に手をかけながら言う。
わかりやすく焦っている。
今にも私を斬ろうとしている。
ただ、私は敵ではない。
「落ち着いてください。ルルーシアという名前をご存じありません?」
私は仮にも皇太子妃だった女だ。名前もそこそこ通っている。
「確か、婚約破棄されたという……」
「それが私です」
今、婚約破棄についてどう、判断されているのかわからない。しかも基本的に婚約破棄というものは、私が独断でしようとしたということになっている。
どう反応してくるかが鍵だ。
「そうか、君が。可愛いな……それで何が目的だ?」
「何でもしますので、私を雇ってください」
普通に考えればこの提案は悪手だ。暗殺のための提案と捉えられるかもしれない。
ただ、本編では、一回だけ彼が私に求婚するシーンがある。それが来てくれればいいのだが。
とはいえ、もうすでに本来のストーリーとはかけ離れた物になっている。
本当に上手くいくという保証もない。
ただ、これに賭けるしかない。
さあ、頼みます。
「わかった、雇うよ。ただ、メイドとかではなく、俺のお嫁さんとして雇いたいんだけど」
「え?」
そんなの聞いてない。
「君には僕のお嫁さんになってほしい。君は元から噂で聞いていたから今この場に現れたのは運命だと思ったんだ。だから頼む!!」
それを聞いて、私は困った。
ただ、これはチャンスだ。
ヘンデルソン様はイケメンで、私のタイプだし、ヘンデルソン様の協力を得られれば、王宮で起きる悲劇を回避するための大きな力となる。
よし! 私は心の中で拳を握り締めた。
だけど、まだこれは序章だ。連続毒殺事件を止めないと、この人が死んでしまう。
そうなったら私もおしまいだ。
犯人を見つけ出さないと。
そしてそのあと、王宮につくと、「兄さま、どこに行ってたのですか、そもそもその人は誰ですか?」と、ヘンデルソン様を呼ぶ声がした。その先には金髪のイケメンがいた。兄さまということは、ヘンデルソン様の弟?
公式資料ではそんな情報はなかったはず。隠しキャラとかなのかな?
「ああ、ヘーゲル、出かけてたんだ。それでこちらは町にたまたまいたルルーシア」
それを聞いたとたん、目の色を変えて、ヘーゲル様が言う。
「あ、もしかして虐めてたという理由で国外追放になったあの? 兄さまもいじめる気か?」
「いやいや、そんな言い方はないだろ、ヘーゲル。俺は嘘だと思うんだ、虐めてたなんて言うのは」
「は? どういう」
「だって、こんなかわいらしい子がそんな悪役令嬢みたいなそんな悪行をするわけないだろ」
いや、私ゲームでは悪役令嬢なんだけどね……。
「まあ、兄さんがそういうならいいですけどね」
そう言って、ヘーゲル様は向こうに去っていった。
「あ、そういえば、婚約すること言ってなかったな。後で、言うか」
そう、頭をポリポリとかくヘンデルソン様。
そしてそのまま王室に行くことになった。
「お父様、俺はこの人を王大使妃として迎えたいです」
そう、真剣な顔でヘンデルソン様は言う。
「それが認められると思ってるのか? 他国から婚約破棄された直後の女性を王太子妃として迎え入れる、そんな馬鹿な話はないだろ」
尤もな言葉だ。私は今世間的な評価が最悪だ。そんな私が王太子妃として迎えられたら、ヘンデルソン様の評価、敷いてはこの国の評判が下がってしまう。
「俺は今回の件ルルーシアが本当にやってはいないと思います。実際あの国の皇太子、ルークスは評判が悪い。どうせ金でも使って評判を作ったんでしょう」
「確かにお前の言うことも尤もだ。私もそう思う。だが、それは関係がないんだ。現実では彼女の評判が悪いのは事実だ。そんな人を王太子妃にして大丈夫だと思っているのか?」
「それはこれからの話です。俺とルルーシアの二人でその悪評を消していきたいと思ってます」
「そうか、ならいいんだ。お前がその覚悟があるんならな」
「ありがとうございます!!」
そして、ヘンデルソン様は公務があるというので、私はひとまず自由な格好になった。
さて、私は私で、事件の解決に向けて頑張らなければ。
公式資料で見た中で覚えてる死亡者は、メイドのシュシュリーだったはず。彼女に恨みを持つものを調べることができたのなら、事件解決のカギとなる可能性がある。
えっと確か見た目は赤髪の長髪だったはず……。
そして探すこと数分。それらしきメイドを見つけた。
この子?
「えっと、シュシュリーさん?」
声をかける。まずは近辺操作だ。
「はい、どうかしましたか?」
「えっと、私貴方と友達になりたいのです」
そう言って、仕事後に部屋に来るように頼んだ。
そして、彼女は部屋におどおどとした様子でやって来た。
「この手紙なのですけど」
とある手紙を手渡す。その内容はメイドのシュシュリーが毒殺される恐れがあるというものだ。
もちろん本来こんな手紙は現存してない。私が作ったものだ。
「え? 私が毒殺……される?」
動揺しているようだ。
「ええ、私はそれを助けたいの」
「……なんであなたはそれを知ってるの?」
確かに不思議に思うわよね。でも、
「それは、私が婚約破棄される前にそのような噂を聞いたのですわ。嘘かもしれないのですけど、この情報をあなたに伝えるように言われまして」
「その情報元は?」
「ごめんなさい、それは言えないの。だって、その主に言うなと言われてるのだから」
主なんてそもそもいないのだが。
「そう……ですか」
「でも! 私は聞きたいの。心当たりはないかって」
それで、いい情報が取れたらいいのだけど。
「ない……です」
「そう。でも、気を付けた方がいいわ、特に明後日は」
「なんでです?」
「オカルトかもしれないけど、夢の中で見たの。二日後にあなたが死ぬって」
「そう……」
そして、シュシュリーが部屋から出て行ったその瞬間に、ヘンデルソン様が部屋に入ってきた。
「来客が来た。君にも来てもらいたい」
そういったヘンデルソン様は私を面会室に連れて行った。
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