低能力者の俺がエッチな幼馴染彼女と同棲しながら世界を救うため最強を目指す。
𠮷田 樹
第一部
束縛未来のカタストローフェ 合宿訓練編
プロローグ
日本皇国の首都、群馬府。その中南部に位置するのが群馬都市圏の中心、前橋市だ。
利根川左岸に位置する前橋市南橘区関根町には大型屋内競技用施設である国立群馬屋内総合体育館が存在し、その内部では今日、国防大学付属特務科高等学校の入学審査が行われている。
世界の脅威たる特殊害生物に対抗すべく、能力者たちを養成するその学校の入学審査に集まっているのは全部で二百名弱。俺を含め、十五歳の若者たちだ。
審査は筆記から始まり、模擬戦、能力測定が行われる。
今しがた、国立群馬屋内総合体育館のアリーナで行われた模擬戦を終え、学校の教室ほどのサイズがある待合室に戻ってきた俺は、白塗りの壁を見つめながら脇に置かれた青い長椅子に腰かけると、目に侵入しようと試みる汗を拭い、ため息を吐いて、床を見つめた。
なんだって、こんなに厳格な審査をするのかね。どうせ、結果なんて事前に決まっているようなものなのに。
口には出さないが、そんな愚痴をこぼしたくなっていると一人の影が俺の視界に入ってきた。
「やぁ、イケメンくん」
顔を上げるとそこには、可愛げのある顔をした長身の美少年が立っていた。
黒髪はホストのようにセットしていたのだろうとわかる具合の長さであるものの、激しく動いた後だからか髪型は乱れ気味である。
そんなことなど意に介さずに決め顔をした美少年は。
「僕は
少々芝居がかっている口調に不快感を覚え、俺はそっぽを向いたのだが、美少年はまるで気にしていないようで話を続けてきた。
「イケメンくんの戦いぶりに見惚れてね。つい、声をかけてしまったのさ」
「ずいぶんと暇なんだな」
「余裕がある男は、格好が良いと相場が決まっているんでね」
どこの相場なんだそれは。
「イケメンくんは、僕の間違いでなければ
「……それがどうした」
「やはりか。相当な立ち回りだったからね。救済の英雄の一人、桐原
「強い奴なんて、ごろごろいるだろ。なんで俺だと?」
「僕の家は軍人家系でね。父も今佐官で、祖父は少し前に退役したが将官だったんだよ」
要するに、情報の伝手があるということか。
「男のストーカーとは、良い趣味してやがるな」
「お褒めにあずかり、光栄だよ」
どうせ、興味本位で話しかけてきたってところだろ。
気に入らないな、そういうの。
「俺のこと、才能のない弟だと笑いに来たのか?」
俺は山下の目を真っすぐ見据え、睨みつける。だが、山下は意にも介さずに、困ったように肩をすくめて見せた。
「シンパシーってやつだろうね。優秀な家族を持つと大変だっていうのは、僕もよくわかるからね。僕も、本当の才を持った人間の域ではない。それでも、期待はされる。そんな気持ちを共有できる友が欲しかったのだよ」
「俺は生憎、募集してない」
「ツンデレかな?」
「言ってろ」
視界の端に映る山下の表情は、本気で嬉しそうだ。こいつ、Mなんじゃなかろうか。
そんな考えが浮かんだタイミングで、待合室に放送が入る。
『審査待機者。番号四六~八九まで、能力測定場へ移動せよ。繰り返す――』
放送を聞いてため息を吐いた山下は、俺に視線を合わせ。
「さて、落ちるものでもないんだ。気楽に行こうじゃないか」
なぜ、一緒に行くことが前提になってるんだ。勝手に一人で向かえよ。
ただまあ、そうだな。気張ったところで結果が変わることはほとんどない。
なぜなら、能力者としての適性があると判明した以上、特別な理由がない限り、入学は強制だからだ。
じゃあ、なんで審査をするのかと言えば、能力順にクラス分けを行うからだ。
つまるところ、才能のある人間の選別作業ってわけだな。
俺は立ち上がると、山下の横をすり抜け、一人部屋を出た。
「ちょっ……まってくれたまえ」
うざい声を聞き流していたら、自然と舌打が漏れてしまった。
わざわざ審査なんかしなくてもわかってるんだ。俺が、底辺クラスに配属されることくらい。
***
二六三二年九月十六日。
ユーラシア大陸東北部の地上から約二十メートル上空に、空間の亀裂としか言いようのないそれが世界で初めて観測された。
亀裂は、ガラスのひびが広がり割れるように姿を変えていき、黒い空間を形成。
そこから、未知の生命体と思しき存在が姿を現したのである。
蝙蝠のような羽をもつ巨大なトカゲじみた見た目のそれは、ファンタジー作品などでは親しみのあるドラゴンや竜に酷似した姿をしていた。
紅や翡翠色の鱗に覆われたその体は、現代兵器で傷つけること叶わず、世界を混乱に陥れたのだ。
何の対策もたたない人類をあざ笑うかのように、亀裂が作った空間から、もう一つの脅威が現れる。
ドス黒い影をそのまま顕現させたかのような二メートルほどある人型の異形だ。
異形の手と思しき場所には黒く輝く影の剣が持たれていて、人々を虐殺し始めた。
二六三二年十月。
国連はこれらを特殊害生物と呼称し、明確に人類の敵と声明を発表した。
各国の軍は直ちに対応を開始する。
注目されたのは、特殊害生物に対抗しうる力を発現させた一部の人達であった。
特殊害生物A01、呼称『竜』の首を落とす竜殺しの剣を顕現する能力を発現させた者。
特殊害生物B01、呼称『影人』の心臓を貫く聖なる槍の顕現能力を発現させた者。
両能力者達は特殊害生物の殲滅及び、それに伴う空間の亀裂を消滅させる唯一の戦力として認知され、これを国連は『使い手』と呼称。
使い手となった者の身体能力は飛躍的に向上し、超人的運動能力を発揮できるようになる。
故に、使い手としての能力を発現させた者は老若男女関係なしに特殊害生物戦へ送り出されることになった。
それでも対応は後手に回り、被害は拡大していく。
人類滅亡かと思われたこの事態を解消したのは、興亜第一研究機関所属の若手研究員である
発生する亀裂を感知するシステムの開発に加え、特殊害生物との戦闘方法を考案、提唱。
これを使い手の中でも頭一つ抜きんでていた
どうにか一定の平和を獲得した人類は、ゲリラ的な襲撃に備えた使い手の軍事運用を着々と形にしていったのだった。
だが、その結果として使い手の負担が増大。
これに人権団体は、使い手の人権軽視及び否定であると声を上げはじめた。
その後、世論でも使い手の酷使が問題視されはじめ、人権保護と労働環境改善の訴えが活発化していき、沢渡和重がこれを支持したことも追い風となり、国連加盟国主導の元、二六三四年三月に世界使い手協会が発足。
日本でも同年四月に全日本使い手協会が発足となった。
だが、当然各国はいまだ脅威にさらされており、平和は確かなものではない。
今後の脅威に備えるため、各国は対応を開始した。
二六三五年九月。日本は、国防大学内に特務科の設立を国会で決定。
特務科専用棟の完成を待たずして仮校舎にて二六三六年四月より、国防大学特務科を開始。
次いで、若い使い手の早期教育を旨とし、二六四一年一月には国防大学付属特務科高等学校案が可決。こちらも、校舎の完成を待たず、仮校舎にて、同年四月より開始となった。
それから九年後の二六五〇年四月。
俺は、特に優秀な入学者が多いと噂される今年に、低能力者の烙印を押されて入学することになったのだった。
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