心の癒し手メイブ

@yuzukipote

『魔女の呪い』編

プロローグ

今回は初回投稿なので、10分おきに5話分(プロローグ~4話まで)投稿していきます。

翌週の投稿からは、週一回、日曜日20時から、2話ずつ更新になります。

よろしくお願いします。


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 アルスキールスキン大陸の東の大国メルボーン王国。誉れ高い王城フラワータワーの謁見の間に突如黒煙が湧き、紫色のドレスを纏った”曲解の魔女”コンセプシオン・ルベルティが姿を現した。

 天窓を背景に浮いている”曲解の魔女”コンセプシオンの表情は、逆光になっていて下からは判りづらい。しかし怒気のようなものが、視認できるほどジワジワと全身に漲っている。

 魔女とは異種。国を持たず、孤高の存在。故に先ぶれもなく、招待されずに魔女が人前に姿を現すこと自体稀なことだ。

 異変を聞きつけた兵士や騎士が慌てて駆けつけてきて、謁見の間は一気に騒然となった。謁見の間では、国王と王女が政務を執っているからだ。

 騒がしくなる中、”曲解の魔女”コンセプシオンは困惑し見上げてくるチェルシー王女を指さし、鋭く睨みつけ唐突に喚き始めた。


「よくもわらわの大事なペットのイメルダに、大怪我を負わせてくれたわね!忌々しい人間の小娘!!」


 身に覚えのない非難に、チェルシー王女は面食らって目を瞬かせた。困惑が深まり、愛らしい顔が不安げに曇る。


「一体、なんのことでしょうか?」


 騒がしかった謁見の間も、一瞬で静まり返った。


「とぼけるのはおよし!可哀想なわらわのイメルダ…。翼に穴をあけられ、死に物狂いでわらわの館に帰ってきたのよ!弱り切って明日をもしれぬ命…ああ…」


 甲高い声は震え、コンセプシオンは両手でかいなを強く握り、泣き崩れるように身を震わせた。

 激しい怒りと深い悲しみを同居させるコンセプシオンの様子に、チェルシー王女はますます困惑を深めた。思い当たることが何もなくて、目眩がしそうになる。


「何か誤解をなさっています。わたくしは貴女のイメルダさんのことは存じません、本当なのです、信じてくださいまし」

「おだまりよ!素直に謝れば許してやったものを、白を切るとは忿懣やるかたない」

「どうか、どうか落ち着いてくださいませ、”曲解の魔女”殿」

「お前のような捻じ曲がった性根の悪女には、相応の罰を下してやる。イメルダの無念を思い知るがよいわ!」


 まるで聞く耳を持たないコンセプシオンは、チェルシー王女に向かって杖をかざす。

 禍々しいまでのどす黒い霧のようなものが杖の先から溢れ、勢いを増して噴き出すようにチェルシー王女に襲い掛かった。


「きゃあああ!」

「姫様!」


 黒い霧のようなものが当たったチェルシー王女の胸に、不気味な黒い髑髏の紋様が浮かび上がる。


(わたくし本当に…本当に何も知らないのです…)


 心の中で呟きながらチェルシー王女は意識を失い、花弁が舞うように華奢な身体を踊らせ床に倒れた。

 憎らしく思うチェルシー王女の倒れた様を見て、コンセプシオンは鼻の先で嘲笑う。


「ジワジワと生命力を奪い、やがて死に至らしめる『魔女の呪い』だ。わらわが愛するイメルダにした仕打ちを後悔し、苦しみもがきながら朽ち果てるがよいわ!」


 コンセプシオンは謁見の間に轟くほど高笑いすると、現れたときと同じように黒煙と共にいきなり姿を消した。嘲笑だけがいつまでも、謁見の間に余韻となって響いていた。


「姫よ!」

「殿下ー!」


 謁見の間は堰を切ったように喧騒に包まれた。国王は意識を無くしたチェルシー王女を腕に抱えて、温和な表情かおを怒りで震わせた。倒れたチェルシー王女同様に、国王も訳が判らない状況だ。


「一体何だというのだ!姫があの魔女に何かしたとでも言うのか?慈愛に満ちた心優しき愛娘。魔女の気に障る何かをしたなど、微塵も考えられないことだ」


 チェルシー王女の胸に浮かぶ不気味な髑髏の紋様を凝視し、国王は険しい表情をより強めた。まだ耳に残る魔女の嘲笑う声が、髑髏の表情と重なり怒りが増す。


「おのれ”曲解の魔女”め!このままでは許さぬぞ!」


 国王は傍に控える近衛騎士団長を振り返る。


「レオン卿、至急討伐隊を組み、”曲解の魔女”の首を持ってくるのだ!」

「はっ!」



* * *



 急遽編成された討伐隊は、一週間後、西の果てコフィンに在る ”曲解の魔女”の住む館へ辿り着き奇襲をかけた。


「騒がしいのは好かぬ!人間ごときの力が、わらわに敵うと思っているのか!」


 矢も銃弾も砲弾も館に届かない。抜刀した騎士たちも近寄ることが出来ないでいた。

 たった一人で相手をしているコンセプシオンの、あまりにも強力な魔法に阻まれ、攻撃は倍返しされて討伐隊はなす術もなかった。


「くそう…」


 深手を負った近衛騎士団長レオンはそれでも立ち上がり、歯を食いしばりながら館へ向けて足を引きずった。そんなレオンの腕を、派手な様相の少女が掴む。


「お待ちなさいレオン卿!」

「止めるな”霊剣の魔女”殿!”曲解の魔女”にせめて一太刀」

「相手は魔女、人間の力は及ばないわ。”曲解の魔女”はアタシよりもはるかに強い魔法を使う。正直アタシじゃ敵わない」

「しかし」

「聞いて!姫様には『魔女の呪い』がかけられてしまっている。一刻も早く『魔女の呪い』を解かないと、姫様が死んでしまうわ」

「な…なんですと…」

「いい?討伐隊はアタシが国へ引き揚げさせる。卿はこのまま南のルーチェ地方にある『癒しの森』に赴き、”癒しの魔女”ロッティ・リントンを早急に連れてきなさい」

「”癒しの魔女”…」

「彼女だけが、唯一『魔女の呪い』を解くことができる!」


 レオンは何かを言い募ろうとしたが、”霊剣の魔女”の移動用魔法が発動し、瞬時に飛ばされた。

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