ガーデニング

雛形 絢尊

第1話

咳き込む弟を心配する母親、

リビングのソファでは

姉がスマートフォンをいじっている。

ドアの開ける音がし、

リビングルームのドアが開く。

心配しながら咳き込む弟に近づいていく。

ゴホゴホと、咳をしている。

熱は?と父は聞き、弟はない、と答える。

ネクタイを緩め、

風呂に入る準備をしていると、

リビングの方から弟の嘔吐の声が聴こえた。

大丈夫かと駆け寄ろうとすると、

母と姉の悲鳴が聞こえてきた。

その様子を見に急いだ。どうした、と。

それは明らかに一目瞭然だった。

嘔吐物は花々だった。多色で煌びやかな

花々を吐いたのだ。

慄きながらそちらに近づく。

弟はスッキリしたようで咳が止まる。

慌てた父は処理しようと、

納得することよりも先に行動を移した。

大きなビニール袋をキッチンから持ちだし

ひたすらに綺麗な花を入れていった。

何をしたのと聞く母。何もしてないよと、弟。

何があったのか、一体何が起きたのか。

花を吐くなんて。

調べても出てこないよと姉は言う。

それからというものの特に異変はなく、

次の日を迎えた。

一番初めにリビングに現れた母親は

再び悲鳴を上げる。

部屋中至る所から花が四方八方

咲き始めているからである。

それは地面のような壁のような、

一見すると天国のような景色だが、

実際にこの景色を目の当たりにしたら驚く。

慌てて父を起こし階段を登り部屋に向かう。

母は再び悲鳴を上げる。

2階部分まで花が侵食し始めたのだ。

ベッドにまで花は咲き始め、

しまいには眠っている

父の身体からも生えていた。

あなた、あなたと声をかけながら身体を揺らす。

返答はない、息をしていないのだ。

よく確認すると喉仏の部分からも

絡みつくような花々が。

いやあと悲鳴を上げる。

心配になり、子供の部屋に向かう。

廊下部分にも多様な色が彩っている。

勢いよくノックして慌てて声をかける。

茂っているのかドアが上手く開かない。

姉の部屋にようやく入れたところ、

こちらも同様に花が咲いていた。

容態を見に近づくと痩けた

ミイラのような状態で布団に入っていた。

取り乱して涙を浮かべた、弟は。

弟はどうなっている。

私は慌てて向かいの部屋、弟の部屋を開ける。

こちらも同様の状態だ。

弟だけでも、そう願って布団を捲り上げる。

姿形などなく、ただ濃くシーツが

濃い緑色に変わっていた。

もしかすると、

と考えたが深くは考えなかった。

おそらく、早く家を出たのだろうと。

私は電話、それとも、

なんて考えてながら階段を降り

リビングに向かう。

しばらく沈黙が襲い、膝から崩れ落ち、

泣いた。

こんなにも綺麗な景色なのに、

こんなことになるなんて。

何処かからかこんな声が。

水、水を。

すぐに分かった、弟の声だ。

頭を抑えながらハッとなり水道の方へ向かう。

そちらも蔦を巻いていたり花が咲いていた。

蛇口のレバーを上げ、最大限に水を出す。

シンクに溢れる音だけが部屋に鳴り響く。

それも柔らかい植物に覆われたシンクだ。

突然の出来事のせいか徐々に頭痛がしてくる。

私はふと涙で濡れた手のひらを見る。

私の手のひらから一輪の花が咲いていた。

ため息をつき、私は壁にもたれかかる。

シンクに水が落ちるだけの音が

部屋を全うしている。






この一軒家は普通の家である。

奇妙なことはここ何ヶ月

人の出入りがないこと、

全部屋カーテンを閉め切っていること、

流れる水音がつい最近消えてしまったことだ。


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