ヤマビコの呼び声

岡田リョウリュウ

第1話

 秋の某日。

 ケンジが動画サイトでだらだらと休日を無駄にしていると、あるオカルト系まとめ動画が目に留まる。


 見出しはこうだ。

『山彦の呼び声! Y県の山奥で謎の古墳発見される⁈』


 もうこの時点でペテンの香りがぷんぷんする。

 普段のケンジなら間違いなく見ないフェイクニュースだが、サムネイルのスケッチに既視感のあるサインを見つけ思わず動画を再生した。


 動画では、あるブログの『牧丘の桃源郷』と呼ばれる場所に行った際のレポートを紹介し、それらがあるとされるY県の牧丘の衛星写真を取り上げていた。

 投稿者は褐色肌の男で、やれ『集団ヒステリーと地殻変動の謎』だの『南極に聳え立つ巨大な山脈と古代のロマン』だのという絵空事を取り上げては「信じても信じなくても、あなたの中に真実はある!」というアニメキャラもびっくりな頓智気セリフで締めるのだ。

 視聴者には石油王というあだ名を付けられていて、オカルト界隈では有名らしい。


 動画内のモザイクが掛ったブログバナーは、学生時代の友人であるマオのサイトに酷似していた。

 検索すると案の定で、最新の記事がヒットした。

 以下に記事の一部を引用する。


「ついにこの日が来たんだって思いました。

 自分みたいなしょうもない引きニートでも、大空へ飛び立てるんだって。

 夢を見ても良いんだって!」


 曰く、「自殺しようと思ってある山に登ったら、美しい展望台と見たこともないぐらい大きな古墳があった。人々が優しく出迎えてくれ、心の準備ができたらまたおいでと言われた」とのこと。

 記事は活路を見出した社会不適合者の輝かしい希望の文言で溢れていた。

 まるで学生時代に戻ったかの様な勢いを感じた。


 ――マオの変貌を信じられない自分がいた。

 あの楽しい大学生活から一転して、社会人一年目で全てを投げ出してしまった彼女の惨めな姿や身勝手な言動を思い出すと、どうしても良い気分ではいられなかった。

 他人の不幸は何とやらで、ケンジは収まりの悪い衝動的な思いつきでマオの実家を訪ねる事にした。

 アフィリエイト収入で焼肉でも奢って貰おうと考えたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る