黒猫の旅人

短編

 川沿いの道を進んでいると、近くにあるマンションから一筋の光が自転車に乗っているぼくを照らしていた。


 視線を向けると、そこには一人の男性がピストルを持ち、こちらに標準をあわせていた。むろん、本物ではなく、玩具であるのだろう。日本において、一般人がピストルを持つことを許されていない。何も恐れることはないのだ。ただ、もしも本物のピストルであったら、ぼくは殺されることになるかもしれない。ピストルを打たれたことを想像すると、ぼくは不安になってしまった。ピストルで撃たれたら、ぼくは自転車から落ちることになるだろう。

 ピストルで撃たれたら、後方から地面に落ちてしまうのか、意識をなくして自転車に寄りかかり蛇行をしながら倒れることになるのか、自転車に絡まりながら、ぼくは地面に叩きつけられるのか、そんなことを考えていた。もしかしたら、ピストルの威力により吹っ飛んでしまうのかもしれない。ピストルで撃たれたら、いったい、ぼくはどうなってしまうのだろうか。いや、ピストルに撃たれたとしても、ぼくは死ぬことはないのかもしれない。距離があるから、急所に当たることはなくて、激しい痛みを感じているだけかもしれない。そう思うと、ぼくは携帯電話を握り締めていた。救急車を呼んだら、助かるのかもしれない。

 しかし、ふと思う。

 ピストルを撃つにしても、一発だけではないのかもしれない。そうなったらぼくは助かることはないのだろう。しかし、そんなことはわからない。相手次第である。判断できない。きっと、ピストルで撃たれることになったら、どのような結果になるか、誰であっても理解することができないだろう。こんな時代であるのだから、ぼくは生命保険のことでも考えるべきかもしれない。気が付くと、ぼくは不安になっていた。どうしても死にたくないと思っていた。きっと、普通のことなのだろう。人間であり、理性を持っているからこそ、生理的な欲求であるのかもしれない。誰であっても、このようなことを思うはずである。とはいえ、あのピストルは贋物であるはずだ。何も恐れることはない。それに、ぼくは目的地まで行かなくてはならなかった。ぼくは自転車を走らせていた。きっと、不安なことなんて起こるはずがないのだ。そう思うと、ぼくはマンションの下を通り抜けていた。その時、ぼくの胸に真っ赤な花が咲いていることに気が付いた。


 ゆっくりと、自転車が川の中に落ちていった…。

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黒猫の旅人 @kaku_maki

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