sideナイト

「よし、こんなもんか。」


時間がなかったからかなり強引な手を取った。

森を一部吹っ飛ばしたが問題ない。

死人も怪我人も出てないんだ、上出来だろ。


「仕事は終わりだ、ここで解散する。」


俺を化け物を見るような目で見る騎士たち。

少し本気でやったくらいで失礼な奴らだ。

まぁいい、俺はやる事が山積みだからな。

他人の視線に構っている暇はない。

すぐに俺は瞬間移動の魔法を使い自室のベッドへ飛んだ。

俺が姿を現した瞬間…


「ナイト!」


シーラがベッドから飛び降りて俺に抱きついてきた。


「ただいま、何もなかったか?」

「ないよ!それより丸腰で行っちゃうなんて心配させないで!」


ガキの頃にドラゴンを倒した化け物を心配するのはシーラくらいだ。


「あぁ、悪かった。

安心しろ、楽勝だった。」


俺が笑ってみせたらシーラは頬をぷくっと膨らませた。


「か…。」


危ね、可愛い。


「か?」

「気にすんな。

それよりお客さんはまだあっちか?」


俺がバルコニーの方を指すとシーラは頷いた。


「よく見てないけど動ける状態じゃなかったと思う。」


見ない方がいいだろうな。

さっき見た時は首の骨が折れていた。


「それだけ分かればいい、それより執事とメイドはどうした?」


俺が帰ってきても誰も来ないのは珍しい。


「あ、その事なんだけどね?

アレに近づくと危ないかなと思って、勝手にみんなに部屋に戻るように指示を出したの。

…ダメだった?」


俺の女はなんて賢い女なんだ。


「俺の妻は天才に違いない。」

「/////」


その照れて俯く仕草は昔から変わってないんだよな。


「お、大げさだよ…////」


俺に褒められてそんなに嬉しいのか?

健気すぎて惚れ惚れする。


「ぎゃっ……。」


突然した汚い声にシーラが怯えて腕に力が入ったのが分かった。


名残惜しいが…


「ここで待っててくれ。」

「うん、手伝う事があったら言ってね。」


俺が頭を撫でるとシーラが嬉しそうに目を瞑る。


愛おしい、そんな気持ちを知る日が来るなんて思いもしなかったな。


シーラをベッドの結界の中へ置いて俺は庭へ行く。

そこで虫の息になっていたのは少し前までは人だったであろう物だ。


俺一人で秘密裏に処理してもいいが、一応ルークにだけは言っておくか。


大胆にも俺の城にこんなのが紛れ込んでしまったんだ、大問題になった時に口が上手い奴を味方に付けておきたい。

だがここに呼びたくないな。

シーラを見られるのが嫌だ。

今だけシーラを別の所へ隠すか?

いや、無理だな。


シーラから事の経緯も聞かないといけないし。ルークだって本人からの説明を求めるだろう。


だが本当に嫌だ。


「お゛っ……」

「チッ。」


全てはこの化け物のせいだ。

お前なんかが俺の城に入り込んだせいでシーラを他の男に見せないといけなくなっただろうが。


「お前、このまま楽に死ねると思うなよ?

回復魔法で傷一つない状態に戻して、お前の正体が分かるまで何度も解剖してやるからな。」 


とりあえず檻を作ってコイツを入れておくか。

手を翳せば世界一丈夫な檻がそれを囲う。

ここから出す気はないから扉も鍵もない脱出不能な檻だ。


檻が完成したら回復魔法を使い傷を治してやった。


すると…


「ギャァァアッ!!$%£>+^€>=#!!!」


化け物は虫の息から打って変わって大暴れし始めた。


元気で何よりだ。


「£€$#%=+%!!!」


何を言っているかさっぱりだな。

あ、それよりルークに連絡を入れるか。


光の魔法で赤い鳥の形を作る。

そこにほんの少しの魔力を注ぎ…


「ルークの元へ行け。」


命令を出せば赤い鳥は高く飛びやがて見えなくなった。


「ギャァァアッ!!ギャァァアッ!!!!」


しかし喧しい奴だな。

化け物は俺には目もくれず、バルコニー側の鉄格子にしがみ付く。


どうにか上に逃げようとしているが無理なのがわからないのか?


「ギャァァアッ!!!」


まぁ、鳴き声からして知性なんてないか。

ガン!ガン!ガン!!!!


鉄格子に何度も頭をぶつけている所を見るに、痛みは対して感じていなさそうだな。

化け物は鉄格子から手を出してとにかく上に伸ばす。

まるで高いところにある物を取りたいみたいだった。


手を伸ばす先はバルコニーしかない。

いや……そもそも、逃げようとしているんじゃないのかもしれない。


知性がないように見えるがまさかな…。


「シーラ。悪い、バルコニーに出てきてくれないか?」

「はーい!」


俺が声をかけたらシーラはすぐにバルコニーへ出てきた。


「ギャァァアッ!!

オ゛ア゛ァアアッ!!!!」

ガンガンガンガン!!!!!!


化け物は興奮しきった様子で上へ上へと行こうとしている。

さっきよりも興奮しているのは目に見えて分かった。

やっぱりコイツ……


「シーラを狙ってるな。」


生かしたまま解剖なんて生ぬるい。

この世の痛みを全て味合わせたとしても足りない。


「ナイト、その檻本当に壊れない?

なんかすごく暴れてるよ?」


シーラは不安そうに俺に聞いた。


「大丈夫だ。俺が死ぬまで壊れない。」

「え、それすごいね!」


シーラにそう言われるといろいろなものを見せたくなる。

この歳になって褒めてもらいたいなんて恥ずかしくて口が裂けても言えないけどな。


「ん?」


不意に感じたデカい魔力。


もう来たのか、鳥を送って5分も経ってないぞ。


「シーラ、中に入ってろ。

顔を出すんじゃないぞ。」


アイツにシーラを見せるつもりはない。


「うん、分かった!」


シーラは俺の言う事を素直に聞いて部屋の中へ戻った。

その数秒後に…


「珍しいね、ナイト。何かあったの?」


ルークが颯爽と現れた。


「あぁ、見ての通りだ。」


俺が捉えた怪物の方を見るとルークは眉を顰める。


「何?それ。全く説明になってないし、それはちょっと気持ち悪いよ。もしかしてペット?」


コイツ、こんな大馬鹿でよく公爵なんか務まるな。


「こんな不細工なペットがいてたまるか。いるならタダで譲ってやる。お前の城は広いから放し飼いで大丈夫だろ。」


「あはは、面白いね。

で、ふざけてないで本当にそれ何?」


初めにふざけたのはお前だろうが。


「さぁな。俺もそれを知りたい所ではあるが、先に何かあった時の味方を増やしておこうと思ってお前を呼んだ。」


ルークはため息をついた。


「そういうの巻き込み事故って言うんだよ?」


「好きだろ?面倒事。」

「好きなわけないでしょ?

それ、どうするつもり?」


どうする、か。


「そもそもこれが何かも分からない。

とりあえず正体を暴きたいから解剖をしようと思ってる。そこで、お前の出番だ。頼んだぞ、お医者様。」


ルークは公には明かしていないが医師の免許を持っている。

これを知っているのは俺とコイツの家族だけだ。


「えー。ちょっと怖いな。

何で僕が医師免許持ってること知ってるの?」


「企業秘密だ。」


「ちなみに断ったらその秘密、言いふらすつもり?」


「あぁ、もちろん。

ありとあらゆる権力を使って言いふらすつもりだ。まぁ、お前が俺のお願いを聞いてくれたらそんな事はしない。こんな頼み方しかできなくて本当に心が痛むよ。」


俺がわざと申し訳なさそうに言うとルークは苦笑いした。


「全く、学生の時から何も変わってないね。」

「若々しいってことか?」


ルークは少し笑った。


「そんなわけねーだろ。」

「おいおい、国一番の紳士の皮が剥がれてるぞ。」


俺がそう言うとルークはいつもの薄っぺらい嘘ばかりの笑みを浮かべた。


「何言ってるの、僕はもともと紳士だよ。」


繕うのも大変だな。


「あぁ、そうかよ。」

「まぁいいや、とりあえず解剖はしてあげる。

どこでする?」


よく分からない化け物の解剖なんて不気味なもの、大っぴらに外ではできないよな。


「うちの地下牢でどうだ?雰囲気あるだろ?」

「そうだね、じゃあさくっとやろう。」


仕事が早くて助かる。

俺は転移魔法で怪物の入った檻を地下牢へ移した。


「地下はこっちだ。」


俺が地下に案内しようとしたら…


「あ、ちょっと待って。

解剖する前に事の経緯だけ教えてもらってもいい?」

「あぁ。城が緊急事態だと連絡がきて飛んで帰って来たらこれがいた。」


俺の答えに不満らしくルークは片方の眉を釣り上げた。


「誰がどう襲われたのか聞きたいんだけど。

これが庭でお昼寝してた訳じゃないでしょ?」


正直ここを突っ込まれるのは困るな。

檻なんて作ってないでシーラからもっと事情を聞けばよかった。


「………。」


あぁ、ヤバい、なんて答えるべきだ?


「誰がいつどこで襲われてこれが庭に転がっていたのか、ちゃんとした事聞かないと僕だってメスは握れないよ?」


ルークの奴、ニヤニヤしやがって。

察しのいいコイツの事だ。

俺の部屋の真下で俺が仕事を放り出して飛んで帰って来た事を話した時点で襲われたのはシーラだと気付いているはず。


何よりもこの勝ち誇った笑みが証拠だ。


あぁ、くそ。

嫌だ、絶対に会わせたくない。

シーラが俺以外と話すところなんて死んでも見たくねぇぞ。


「何も答えないなら仕方ないね。

僕も心が痛むけどやるしかない。

シーラ!出て来て!ナイトが大変だよー。」


コイツ…!何が心が痛むだよ!

全くもって痛んでないだろうが!


「大変って何ですか!?」


シーラは焦った様子でバルコニーから顔を出した。

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