第9話「訓練」
ルカとの一対一の試合から1週間…
僕は部屋に引きこもったり、城の中を逃げ回ったり、ルカやリオの後ろに隠れたりしている。
ルカとの試合の後、僕は観客だった人たちに取り囲まれ、揉みくちゃにされた。
その後、ルカが不在の間に困らせた人たちに謝罪して、正式にリオとルカを主に迎えることが出来た。
今はルカと一緒に行動し、訓練にも付き合っていたりしている。
あの一件以来、僕は他の従者から慕われるようになっていた。
ある日突然一人の女性から試合を申し込まれた。
仕方なく、軽い気持ちで相手をしたら、次々と申し出あり、僕は今、彼女たちから逃げ回っている。
ルカにとっては彼女たちへの訓練…であり、僕にとっては追われるから逃げている感じだったのだが、訓練になっているのなら良いか…と訓練変わりとして付き合っている。
僕は逃げる…彼女たちは追いかけたり、攻撃したり…僕を捕まえる訓練らしい…。
この考えは僕の主、ルカの提案だった。
「今日も誰一人、イブキを捕えられなかったか…」
訓練場には息を切らして倒れ込んだ女性たちがいる。
息切れしていない僕を見つめるルカは呆れていた。
「イブキのその細い身体の何処にそんな体力があるんだか…?」
「僕は水の上を訓練場にして教育されてきたから、地面で走り回るくらいじゃ、息切れはしないよ。」
平然とした表情で僕はルカに答える。
「水の上…?」
「そう、膝まである水の中を走り回ったり、戦闘をしたりしてた。 だから、素早さと持久力はあるんだ。」
「なるほど…だが、イブキには力が足りない…と。」
ルカは何やら考え事をしているみたいだった。
未だに疲れ果て、倒れ込んでいる彼女たちは大変だな…と思ってしまう。
それは僕にも当てはまるのだが今の僕には知る由もなかった。
「今日の訓練は大浴場で行う。」
ルカの突然の発言に彼女たちはすぐさま対応出来ていた。
ルカへの敬意はすごいと思う。
ルカの発言がどれ程の物なのか…僕は改めて思い知ったのだった。
…で、何故こんなことになったんだ?
僕が今見ている光景は少し不思議な感じである。
ルカをはじめ、訓練に参加している人たちや見学者…呼ばれていないリオまでもが皆、肌着姿だった。
ちなみに僕は服を着ている。
この場で僕だけが嫌な予感を感じていた。
僕だけが手足に重りをつけられ、ルカと再び向かい合っている。
大浴場の浴槽には膝までのお湯が張っていた。
つまり、僕に見本を見せろ…と言う事らしい。
「ルカ…これって、ハンデ?」
僕は手枷の重りを見せてルカに尋ねる。
「ハンデ…? これでおあいこでしょ。」
ルカは足元のお湯のことを言っていた。
「なるほどね…僕は力を、ルカは持久力を、他の人たちには素早さと持久力の訓練になるって事か。」
「そういう事か。」
僕はルカが言いたい事を理解する。
ルカはリオを見て頷くとリオは合図した。
「試合開始」
先に動いたのは僕。
重りがあろうと僕にはハンデにはならない事と水の上での動きを皆に見せる…というのが僕のやるべき事だと思っている。
お湯の上を走りながらルカの周りを走り回ってみた。
「これは凄いな…」
ルカは驚きながら感覚や動きを見つめている。
「ついでに言っておくと、この訓練は素早さや持久力だけでなく、お湯にしたことで肺も鍛えられるんだ。」
ルカは僕の動きを真似て試しているがまだまだだった。
「なるほど…少し動いただけで息が切れそうだ。」
今回の試合は武器無しの格闘戦…武術での試合である。
ルカは慣れないながらも攻撃力があり、リーチもある。
「これ僕が不利じゃない?」
「そんな事はないだろ、イブキ。」
一撃の威力が違ううえ僕の腕には重り…
地味に負荷がかかっている。
ルカの動きはすぐにわかる…が、僕の一撃ではルカに対抗できない。
「ごめん、ルカ…さっきの言葉は取り消すね。」
僕が考えたのは一撃で効果のある蹴り技…だった。
ルカはイブキの動きに驚いていた。
水音は小さく、水の上を走っているように見えたから。
地面の時と速さはあまり変わらない気はするが、イブキは手を抜いていたのだろうと思う。
だが、イブキの打撃は軽い。
重りの意味もわかって来たみたいだ。
ルカもコツを掴んではいるみたいだ。
(ん? イブキの雰囲気が変わった?)
蹴りか。
一撃が重くなった…水の上だけでなく、浮いている間の身体の動きもキレも良い…。
(まだ、こんな余禄が…これ、私の方が不利じゃない?)
「ルカ、まだ足元に気を取られすぎだよ。」
攻撃を変えただけでここまで一方的な戦いに変わるとは…。
「足が沈む前に動かかないと…」
徐々に動きは良くなってきているが息が切れてきているルカをよそにイブキは余裕そうだった。
イブキの連続の蹴り技を防ぐのはやっとだったが、最後の回し蹴りでルカは吹き飛んだ。
「勝者イブキ」
リオが止めに入り、僕は慌ててルカの元へ。
「ごめん、ルカ…最後の蹴りは加減出来なかった」
「大丈夫、良い試合だった」
こうして僕とルカの二回目の試合は終わったのだった。
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