第9話「魅力的な男達」



「近くに良い場所を見つけたよ。そこに行こうか」

「は、はい……」


 祥太郎君は私に向けて手を伸ばす。私は彼の右手に自分の右手を重ねる。彼は優しく手を引いてエスコートする。こういった異性との交流を数多く経験しているからだろうか。とても手慣れているように見える。それにしても、周りに多くの美少女がいる中で、どうして比較的パッとしない私に目を付けたのだろう。


「……」


 翔也君は一言も声をかけることなく、私達を静かに見送る。彼の協力を仰いでいた最中だったのに……。まあ、かなり非協力的な様子ではあったし、まだ社交的な祥太郎君の方が手を貸してくれそうだ。この人にも事情を話してみようと思う。


「ん?」


 ふと、ガラスのドア越しに見えるキッチンの影から、芹香ちゃんの顔が見えた。女性出演者の中でも引っ込み思案で大人しい青髪の長髪の女の子だ。彼女は流し台からちょこんと顔を覗かせ、ばつが悪そうに私達の方をじっと見ている。


 いや、見ているのは祥太郎君か? それとも……




     * * * * * * *



「聖斗君! そっち行ったよ!」

「おう」


 その頃、ビーチでは晶と聖斗、真治、紅麗葉、希未子の5人がビーチバレーを楽しんでいた。ペンションの付近に海水浴用の道具を貸し出す小屋があり、ビーチボールや浮き輪、パラソルにレジャーシートなど様々な種類の道具が保管されていた。出演者はそれぞれ自由なタイミングで遊んでいいことになっている。


「はっ!」

「希未子さん! 任せた!」

「OK! ……って、痛っ!」


 聖斗が見事なスパイクを決めた。弾丸のような凄まじい速度で叩き付けられるボールを、希未子は無理に取ろうと駆け出す。咄嗟に砂に足を取られ、激しく転倒してしまう。軽いレクリエーションのつもりで始めたはずが、聖斗はつい熱が入って本気のプレーをしてしまった。膝を少々擦りむいた希未子に対して申し訳なさそうに肩をすぼめる。


「大丈夫かい?」

「あ、う、うん……大丈夫……///」

「あ、血が……擦り傷だけど、侮ってはいけないよ。傷口に菌が入り込んだら厄介だ。僕が止血する」

「ありがとう、えへへ……///」

「あっ、僕が先に行こうとしたのに……」

「……」


 同じチームだった真治は、希未子に駆け寄って手を差し伸べる。希未子は真治の紳士的な対応にうっとりする。真治より駆け寄るのが遅れた晶は、嫉妬心を剥き出しにして歯軋りする。男性陣も自分の魅力的をアピールしようと常にタイミングを見計らっている。

 そんな色とりどりの恋心が渦巻く雰囲気の中、紅麗葉は不機嫌そうに希美子を眺める。希未子はカメラと男性の前では純粋無垢な乙女を演じている。彼女の本性を知っている紅麗葉は、眉をひそめて睨み付ける。


「あ、あの……聖斗君」

「……」

「聖斗君?」


 しかし、早く行動を起こさないと自分も遅れをとってしまう。共同生活は始まったばかりだが、意中の相手を見定める前に他の女性に選択肢を奪われてしまっては元も子もない。紅麗葉は勇気を出して同じチームの聖斗に話しかける。だが、彼は遠くの方を見つめていた。紅麗葉も彼の目線を追う。


 そこには、祥太郎に手を引かれてどこかへ連れていかれる麻里奈がいた。




     * * * * * * *




「この先にいいお店があるんだ」

「お店なんてあるんですね」


 私は祥太郎君に手を引かれながら、話を切り出すタイミングを見計らう。彼と二人きりになってショウちゃんかどうかを確認するために、あえて彼のデートの誘いに乗ったのだ。早く用件を済ませなければならない。私には恋を楽しむより先にやることがある。

 でも、どう聞いたらいいんだろう。「あなたは私の幼なじみのショウちゃんですか?」なんて唐突に尋ねても、相手には何のことやら検討も付かないだろう。私自身、ショウちゃんの記憶がまだほとんど甦っていない。


 待って……それでは彼本人だと確かめる手段が全くない。どんな質問をしたところで、自分がショウちゃんがどんな人物かを覚えていないのでは、何の意味もないじゃないか。


「……やっぱりこの場所じゃ無理か」

「え?」


 ふと、祥太郎君の足が止まる。彼は周りを見渡して、茂みの奥に太陽光を反射する大きな機械を発見する。カメラマンがこちらにカメラを向けて、私達のやりとりを撮影しているのだ。やっぱり四六時中プライベートを撮影される生活はなかなか慣れない。


「カメラマンさん、悪いけど少しだけカメラを止めてくれませんか?」

「え!? あ、はい……」


 祥太郎君が優しく声をかけた。カメラマンは素直に指示に従い、撮影を中断する。周りにいるスタッフ達も、何が起きたのだろうかと困惑している。私達彼の中では、テレビの出演者にとって不服なことがあった場合、よく撮影を中断させるイメージがある。祥太郎君、何か怒ってるのかな?


「麻里奈ちゃん、ここからはスタッフに聞こえないように小さい声で話してね」

「え?」

「君、俺に何か聞きたいことがあるんでしょ?」


 祥太郎君は私の耳元で囁くように尋ねた。これは驚いた。彼は私の落ち着かない挙動から、ある程度の事情を察していた。まだ知り合って1日しか経っていないにも関わらず、ここまで相手の気持ちを察知して気を遣うことができるなんて、本当にまだまだ若々しい大学生かどうか疑いたくなる。


「あの、実は私……」





「おい」


 すると、いつの間に近付いてきたのか、私達の間に聖斗さんが乱入してきた。スポーツが得意だと言っていた緑髪の男性だ。先程までビーチで遊んでいたのか、水着姿でいた。ここで初めて、私と祥太郎君が立ち止まっていた間も、ずっと手を握りっぱなしでいたことに気付いた。


「麻里奈さんに何してんだ」

「何って、デートしてるだけだよ」

「俺には無理やり付き合わせてるように見えたが」

「ちゃんと麻里奈ちゃんから許可はもらってるよ。何なら撮影してたスタッフに確認してみたらどう?」


 聖斗さんは私の肩を掴み、自分に引き寄せる。祥太郎君から私を庇うように引き離す。思わず彼のバキバキに割れた腹筋の輝かしさに目を奪われかける。彼はあらぬ疑いをかけられて弁明しようとする祥太郎君に対し、犯罪者を見るような敵意剥き出しの鋭い眼差しを向けていた。彼の目には、私が祥太郎君に無理やりデートに連れていかれていたように見えたらしい。


「お前、そういうチャラチャラした態度やめた方がいいぞ。どう見ても麻里奈さん困ってるだろ」

「何でも見た目で判断する君の方が困った人に思えるけどね」

「何だと!」

「あの、落ち着いてください……」


 とても険悪な雰囲気になってきた。私は慌てて二人の間を取り持つ。私が緊張して話をなかなか切り出せないでいたせいで、祥太郎さんが女遊びの大好きなチャラ男だと勘違いされてしまう。聖斗さんも私が困っていそうな様子だっため、わざわざ助けに来てくれたらしい。でも、大したことない私の事情で、番組の進行に悪影響を与えるわけにはいかない。




「三人とも」


 次に現れたのはプロデューサーの後藤さんだった。険悪な雰囲気になったことをスタッフさんから聞いたのか、わざわざ私達のところにやってきた。


「昼食の準備ができたらしい。出演者はそろそろペンションに集合だ」


 後藤さんはそれだけ伝えて、茂みの奥へと消えていった。仲良くできなかったことを注意されるのかと思いきや、それに関しては特にお咎めなしだ。身構えていた祥太郎君と聖斗君は呆気にとられる。とりあえずペンションに戻ろう。


「お〜っと、今度は麻里奈ちゃんを取り合う二人のイケメンの衝突だ〜! 二日目にして早くも多くの男子を虜にしてしまう麻里奈ちゃんの美貌、恐しや……」


 あの、貴方は出てこなくていいです……。


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