第52話
小ホールの奥へと続く暗がりを見遣ると、小さな廊下となっている。
石造りのこぢんまりとした通路で、貴方一人がやっと通れるほどの狭いものだ。
――旧き時代の人間は、現在の人間よりもずっと小さな生き物だった、か……。
司祭より聞いたことを貴方は思い出しつつ、もし事実だとするなら、この施設は一体いつの時代から建てられ、そして何の目的を達成するために建てられたのか、と貴方は僅かに興味を抱く。
しかしいずれにしろ、それは遥かに遠い過去の話だ。
現在、多くの人々から忘れ去られていることから考慮するに、成果は得られずに終わったのだろう。その過程で如何なる結果を獲得し、廃棄されるに至ったかは、窺うことすらできないけれども。
粛々と通路を進み、途中に部屋も分かれ道も見つけられなかった貴方は、一本の道を順調に歩いてゆく。
しかし通路の最奥にて、二階へ通じているのだろう上り階段の空間を前にして、貴方はその歩みを止めた。カンテラを前へと翳し、俄かに戦闘の態勢を取る。
カンテラの暖色が照らし出す光の先に、薄い影が差していたためだ。
注意して影を見遣れば、それは異形の怪物であった。
否、正確には、その死体であった。
上流階級の婦人が被る鍔付き帽子のような形状の大きな頭を有しており、されどその頭部を支える上下半身は細く、そして矮小である。体毛は無く、着衣を纏わぬ全身の肌色は抜けたように白く朧気で、生気といったものが欠片も感じられない。
確実に、死んでいる。
それだけならば、貴方は何の関心も注意も、その死体に示さなかっただろう。が、観察するに当たって、その死体が最近になって現れたものであろうことに気がついた貴方は、腰の後ろに掛けている革鞘から鋸鉈を抜いて提げ、いつでも戦闘を開始できる態勢に入った。
――ここは、未だに使われているのか。
遥かな昔に廃棄された施設であろうことは、人の気配が微塵も感じられない点を考慮するに、確かな事実ではあるのだろう。
しかし、人間以外の者が棲み着き、利用していることを、貴方の足元に転がっている怪物の死体が明確に示している。
なぜなら、その肉体には塵も埃も積もってはおらず、死んでから間もないことを窺わせるに十分な状態であったがゆえに。
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