第42話
その思いがあるからこそ貴方は罪業を断ち切る刃を振るってきた。
断罪者としての義務を請け負い、怪物を討伐してきたのだ。
これからも、討伐してゆくことになるのだ。
それらはひとえに、人としての生を尊重するがゆえの行動である。
貴方が黒曜教会に籍を置いているのも、自身の行動が善良なる人々の役に立っているためだと信じられるからである。
ゆえに、目の前の怪物に対して貴方が容赦することはない。
容赦も情けも見せずに断罪することこそが、怪物と化した人間に対する唯一つの救いであると信じているためだ。
怪物には、人間としての名残は無い。
目の前にいる怪物においてもまた、人間としての面影は欠片も残っていない。
カンテラの光に照らされたそれは、異形の化物と称するより他にないのだ。
のっぺりとした平坦な顔の中心には眼球が一つあるのみで、鼻も口も耳も無い。
頭部は完全に禿げ上がっていて、黒灰色の皮膚が満遍なく行き渡っている。
手も足も肉体も細く棒きれのようではあるが、先ほど殴った際に受けた重みから判断するに、それらは筋肉の繊維がぎっしりと編み込まれた強度の高い全身凶器に他ならない。
華奢な身体をしているが、同質量を有する人間とは比較にならぬ重量がある。
その分、膂力も相当に有していることが考えられるため、それに対する脅威度を貴方は高く見積もっている。
今はなにやら頭を下げ、低い呻きを連々と呟いている様ではあるが、しかし理も知も喪失した怪物の言葉など、その内にあるのかも分からぬ感情など、人間である貴方には理解し得ない。それに付き合う義理も無い。
貴方は右手を腰の後ろに回して、断罪器具を手に取った。
柄の部分にある絡繰り機構を作動させ、鋸鉈を大振りの鉈へと変化させる。
鋸の刃身で首を引き落とすことを、貴方は良しとしなかった。大鉈の持つ重量と鋭き刃でもって、一瞬にして確実に、その頭部を断ち切ってやるのを良しとした。
それは無意識が貴方に命じた、怪物に対する慈悲である。
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