第41話
されど、貴方は並の人間ではない。超常たる異形の怪物を討伐する断罪者だ。
突如の超速度に相対することは常であるため、それに対する躊躇は微塵もない。
飛び掛かってきた怪物の手指が、爪が、貴方の首に届くよりも早く、貴方は己の右拳を握りしめ、相手の顔面を撃ち抜くように、鋭く重い一撃を打ち込んでいた。
怪物の顔面は鈍い叩音を立てて陥没し、骨が砕けて血肉が弾け、黒い岩盤に白き血液を散らして濡らす。怪物は悲鳴の漏れ出す顔を押さえて貴方の足元に蹲るが、涙液と血液によって襤褸襤褸になった顔を怒りに染め――その一瞬の隙を突かれて貴方に激しく蹴り飛ばされた。
鋼鉄を仕込んだブーツの底は硬く、何より頑丈だ。
そんなブーツによる蹴りを拳に次いで真面に受けた怪物は、悲鳴も出せぬままに宙を滑り、檻の格子へと勢いよく叩きつけられた。
顔面のみならず身体の骨も幾らか折れたらしい。即座に幾つも音を立てて肉体の修復が進んでゆくといえども、反骨の雰囲気をその身に強く纏いながらも、しかしそれでも怪物は、貴方に対して再び襲い掛かろうとする様子を見せなかった。
どうやら目の前の怪物は、自身と貴方の実力差を今の攻防で理解したらしい。
並の怪物よりも知恵はある様だ、と貴方はどこか不思議に思う。
開拓村における人狼を始め、貴方が退治してきた怪物はいずれも彼我の実力差を理解することはなかったのだから。或いは理解しても尚、それでも襲い続けてきたのであるから。
然れども、その程度は気にするほどのことでもない、と貴方の思考は停止する。
なにしろ目の前にある物は凶悪極まりない異形の怪物だ。
存在として最早、この世界にあってはならぬものだ。
速やかに断罪を執行し、消滅させなくてはならない。
でなければ怪物は暴威を振るい、悪意を広げ、世界を蹂躙し続ける。
人としての生を受けたにも関わらず、理知無き異形と化すことなど、人を襲って生きることなど、彼らも望んでいなかった筈だ。
その暴虐を見逃すことは、彼らの歩んできた生を冒涜するに等しい。
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