第36話
やがて螺旋階段を下りきった貴方は、視界の内にそれを映した。
見慣れぬそれは、釣鐘型の鉄格子を吊るした、さらなる地下への昇降機である。
格子には光の灯ったカンテラが幾つか吊り下げられ、釣鐘の頭には幾重に渡って撚られた金属製の縄が結ばれている。
縄は壁から突き出している滑車を通り、床を構成している大型の歯車による機構に繋がり、自動的で安全な昇降の運用を可能にしているとのことだ。
獄長が言うところ、その昇降機は地下深くに位置する処刑場への移動手段であるという。貴方にはその昇降機に乗ってもらい、処刑場内に収監されている怪物どもを、残らず処刑してもらいたいとのことである。
お願いの体ではあるが、貴方に拒否権など与えられてはいない。
獄長の視線には貴方に対する疑いの色が薄まっているものの、しかしそれは薄くなっているだけであり、完全に払拭されてはいないのだ。
加えて、いつからそこに待機していたのか、複数人の刑務官が姿を現していた。
気配を殺し、呼吸音をも殺し、貴方を囲むように立っている。それでいて貴方に対して視線を向けず、意識のみを向けてきている。
その意識に含まれている色は、獄長よりも濃い嫌疑の感情だ。
ここで貴方が拒否したのなら、すぐにでも捕縛してくるだろう。
その場に漂う雰囲気と刑務官たちの態度が何よりも、貴方に対する獄長の意向を伝えている。
ゆえに貴方は獄長の言う通りに昇降機へと歩を進め、頑丈な檻の内へと入った。
と同時に、歯車の噛み合う硬質の重奏が辺りの空気を震わせる。金属縄が僅かに軋みの声を上げ、昇降機の重みを結びの一点にて享受する。
揺れは少なく、耳に聞くよりもずっと丈夫で、頑丈そうな機構だ。
貴方が昇降機に興味を向けて佇んでいると、獄長が恐縮を装って貴方に告げた。
「私が同行できるのは、ここまででございます。断罪者様、どうか……あの罪深き畜生どもに断罪を……! 永劫の苦痛をお刻み下さいませ……!」
膝を地につき、頭までをも地につけて、感極まったのか、嗚咽すら洩らし始める獄長の声音を耳にしながら、貴方は静かに降りゆく昇降機に運ばれていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます