第23話
貴方は人狼を見下ろす瞳に何の感情も乗せぬまま、両足首を鋸鉈で切り落とす。
白き血が更に噴き出し、肉が隆起し始めるも、しかし怪物の肉体とて限界があるのだろう。
両手首の修復に、膝裏における筋肉と神経の修復、それに加えて両足首の修復だ。流石に治癒の限界を迎えていると見え、それぞれの部位における筋肉の隆起が遅滞し、傷口の修復ができないでいる。
それを視認した貴方は、人狼の上半身を蹴り上げて転がし、仰向けになった人狼の顔へと、手に持つ鋸鉈を突きつけた。
――罪に侵されたお前の生は、これにて仕舞いとなる。
貴方の思考を、その思いを、人狼は直感したのだろう。
反撃手段が無く、手も足も出ないという状況も、彼に味方したのかも知れない。
人狼は見下ろしてくる貴方の目を無感動に見つめた後、呻き叫ぶことを止めると、呼吸を整えて痛みを耐えてみせた。姿勢を正して動きを止め、両の目を閉じ、自身の死を受け入れる覚悟を見せたのである。
それは人狼に残された、人間性たる最後の誇りであったか。
死ぬ際に見苦しきを良しとせず、穏やかな心境を以て死後の旅路へ赴いたのだ。
――
貴方の断ち斬った人狼の首は、怪物とは思えぬほどに安らかなる表情であった。
白き返り血に塗れながら、貴方は断罪した人狼の消滅を見届ける。
罪業を断ち、命脈を絶ち、人間としての生を誇りあるものにする。
そのために、異形たる怪物は速やかに消滅させなければならない。
心で諳んずる一方で、貴方の表情は安らかとは程遠い、悲痛の極まるものだ。
無意識に頭上を見遣るも、そこに白き月は見えない。
貴方は心がざわめく音を聞き流しながら、討伐完了の報告をすべく、村へと静かに戻るのであった。
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