最後の断罪者
広畝 K
序
第1話
すべての人間は
生れながらにして罪のなかにあり
それから脱出する自由を自分でもたない
――創世記三章より
【名も無き森】
暗く、昏く、底の窺えぬ深淵を滾々と湛える黒き森は、生ける者たちを拒絶するかのようにしんと冷たい静寂と湿気を厚く重ねて纏っている。
草も木も、その大いなる意識を森の闇へと溶かし込み、その内に潜伏む動物たちもまた、旧き記憶の水底に精神を潜らせ、揺らりと意識の残滓を遊ばせている。
そんな闇夜の静寂に抱かれた森の中を、貴方は懸命にひた走る。
人意の及ばぬほどに旧く、そして深い森だ。
容易に歩ける道は無く、視界も利かず、頭上は枝葉の重なりにより厚く覆われ、星明かりの一粒すら届かない。
闇によって満たされた狭い世界を、貴方は必死に駆けてゆく。
知恵も経験も頼りなく、無力で哀れな子どもに過ぎない貴方だが、しかしゆえにこそ、遮二無二構わず道なき大地を駆け続けることができている。
木の根に足を取られようが、躓いて転ぼうが、木の幹にその身を激しくぶつけて打撲の傷を負おうが、構うことなく逃げ続けている。
後ろを振り返る余裕もなく走り続ける貴方は、自身を追ってくる者の気配と視線がぴたりと背中に吸い付くように定まっていることを、確りと感じ取っていた。
そしてその事実を、心の底から恐怖していた。
――捕まれば、殺される……!
確信にも似たその思いが貴方の心身を限界の端まで追い込み、身体の能力を極限にまで高め、視力の及ばぬ闇の中での逃避行を可能としていた。
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